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『失われた週末』で失われたのは

『ジョン・レノン 失われた週末』を映画美学校で試写した。

 ジョン・レノンとオノ・ヨーコが別居していた約18ヶ月間の、「失われた週末」と呼ばれる時期に焦点を当てたドキュメンタリー。ジョンの個人秘書兼ヨーコ公認の恋人だったメイ・パンが、「私の物語」として語る。

 本作はポール・マッカートニーとの再会や息子ジュリアンとの再会、ソロ活動の様子など、この時期のジョンを知る上で貴重なエピソードが溢れている。まさに「失われた」ものがよみがえった形で、ビートルズのファンなら大いに見る価値があると思う。

 けれど最も「失われた」のは、語り手であるメイ・パン自身だ。ジョンの苦境を支えた大切な人物だったのに長いあいだ忘れられ、見過ごされ、無視されてきたのだから。そんな彼女が自分のストーリーを語る機会が得られて良かったと思う。中国系移民で女性のメイは、ただでさえ声を奪われやすいし、実際奪われてきた。その声が、ジョン・レノンという巨人の力を借りる形であってもよみがえり、脚光を浴びるに至ったのが本作最大の貢献だと思う。

 しかし一方で、メイ対ヨーコという女性どうしの争いに話が回収されてしまったのは残念だ。ふたりがややこしい対立関係に陥ったのは事実だと思うけれど、その対立の中心にいたはずのジョンが完全に透明化されてしまっている。責任の小さくない一旦を担ったはずのジョンが免責され、むしろ「仕方なかった」と同情され、一方で女性どうしの対立がクローズアップされるのは、明らかに不公平だ。「愛と平和」を歌ったジョンが、ごく身近なところでそれを実現できなかったのは一体なぜだろう。そう渋谷の街を歩きながら考えさせられた。

 『ジョン・レノン 失われた週末』は5月10日公開。


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