書棚の隅で

書棚に何をしまおうか
緑がある
翡翠がある
琥珀のなかに閉じ込められた
脚の折れた青春がある
木々のきらめき
ぼくは脱いできた服のことを考える
飾り紐があって 
立派な襟があって

尊いなあ
ちぎれ飛ぶ雲は
褪せてゆく空は
ぼくはひかりになり
吸われてゆくことを望む
欠けたあらゆる人々の
心の奥の荒地に
やわはだの
裂け目にひそむ孤独に

窓があった
ぼくはその前で
本を読むひとりの子どもだった
人生は巡ってゆく
夏を待つ燕のように
そして帰り着く
朝明け匂う葦の川辺へ

埃は翅の生えた野鼠
差し込むのは赤い夕焼け
ここはどこだろうぼくは見てきた
海は青くなんてなかった
爪が伸びるときには
満月は正面にそびえる
山の頂きに
愛の頂きに
夢の頂きに

本を手で閉じれば
乾いた音がささやく
さあ 
次の世界へ
ぼくは伸びてゆく雑草
刈り取られた枯れ草
これから来る夜のすべてを
書棚の隅で待ち受ける

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