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居眠り猫と主治医 ㉜バチバチの壮行会 連載恋愛小説

「きみが夏目くんと熱愛中の、守屋文乃さんか」
開口一番そう言われ、お酒を吹きそうになった。
斜め向かいの席で、里佳子がテへぺロをキメている。

なにかを画策していそうだなとは思っていた、とさすが師匠の師匠。どっしりと構えて動じない。
ヤツは虎視眈々こしたんたんと機会をうかがい、着々と人脈をひろげている。かわいくてたまらない、という口ぶりだ。
「しかし、男を見る目あるな。独立資金たんまり貯めてるだろうし、あれは掘り出しものだよ?」
独立は初耳だったが、驚きはなかった。

弟子の企みを承知で好きにさせているなんて、なんと器の大きい人だろう。こうと決めたらよそ見はしないが、いかんせん女が放っておかない。
それだけは頭に入れておけと、忠告までしてくれる。
「浮気したら、違約金ガッツリもらおうかなって思ってます」
「いいね。協力するよ」
冗談の通じる人で、ウソみたいに話が弾んだ。

***

本日の主役は遅れて登場し、通路で立ったまま固まっている。
「は?なんで院長と肉食って…」
「夏目先生の壮行会なので」
ガタイのいい院長の隣にちんまりと座り、ほろ酔いでほほえむ文乃を、信じられないと言いたげに凝視している。

「聡明で愛らしいなあ、守屋さん。庇護ひご欲そそられるの、わかるわー。息子の嫁にもらおっかな」
「去年、ご結婚されましたよね?」
「あ、それ下ね。上はまだフリー」
神経を逆なでするとわかっていて、半笑いであおる院長。
弟子はといえば、きれいなビジネス笑顔で対応しつつ目が笑っていない。
見応えのあるバチバチの攻防で、ふたりの関係性が垣間見えた。

***

祐はろくに焼き肉に手をつけず、さっさと文乃を連れ出した。
「先生のこと一目置いてるみたい、湯浅院長。よかったね」
結局のところ、彼が院長を敬い慕っているのは明白だった。

盛大にため息をつき、キャリーに入れて連れ歩きたいとぶつくさ言っている。突如、半年間の禁酒を命じられた。
「えー、なんで」
酒癖が悪いと言われ、文乃は口をとがらせる。

グッと肩をつかまれたので、すばやく両手でガードしキスを回避。
「ほら。反射神経健在。飲みすぎてないし」
シラフでも目もとがどうのと言うので、眠そうなカオですみませんね、と言い返す。

お花見のときは、たまたま打ちひしがれていただけで、ふだんはあんな無茶な飲みかたはしない。
「どうだか」
病的な心配性は、ちょっとめんどくさい。

(つづく)

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