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■これまでの日記はこちら■本編 六月二日(日) 今日は生憎の雨模様だったが、日曜ということもあって、ハルさんがシャルを買い物に誘いにやってきた。紫の面倒を見ているから行っておいでと提案したのだが、紫がハルさんにしがみついて離れようとしないので、結局二人が連れて行くことになり、私は手持ち無沙汰になった。 紫がいてはのんびり自分の買い物など見て回ることができないので、私は私で買い物に出かけることにした。 夏物の服をまだ買い揃えておらず、春先に着るようなシャツやジャケットを着
1日の終わりに業務報告にいくと、所長に金一封をたまわった。 「え?ボケですか、これ」 ポチ袋を開けてみれば、すっからかん。 「引っ越しするんだって?敷金礼金任せなさい」 ボーナスと考えてくれていいと言われても、ピンとこない。 「なんでですか?愛人契約とかですか」 「なんでそうなる」 難しい顔をした沢口が所長室に入ってきて、腕を組んで壁ぎわに立つ。 「実は3カ月、試用期間のつもりで修行させてたのよ。オールラウンダーの慶につかせて」 契約書のどこにも、そんな文言はなかった。
もしかしてあの方の人生に寄り添えるかもしれないなんて、どうしてそんな突拍子もないことを本気で考えてしまったのかしら。 有頂天になる様は、さぞかし滑稽に映ったでしょうね。 眩しかったのですよ。 好きなこと、好きなもの、好きな方のことを、何の衒いもなく 「好きです」 と言う素直さが。 懸命に責任を果たそうと奔走する姿が。 悔しいときに隠しもせずに泣ける強さが。 ええ、弱さではなく強さです。 泣けるほど激しく想いを注いでいるという証拠ではないですか。 ただひとつ、胸が苦し
赤い傘を二人仲良くさして帰った日、あなたたちは幸せでしたか、と書かれていた。 渡された名刺の裏に、手書きで書かれたその一文を読んだ瞬間、わたしの頭の中には、ある日の光景が鮮やかに蘇った。 驚いたわたしを、目の前の美しい女性は楽しそうに眺めていた。 「梓さん……」 ・ 初めて彼から誘いを受けた日に、まさか土砂降りの雨になるとは予想もしていませんでした。 今ではゲリラ豪雨というのでしょうか。当時は珍しいことだったように思います。 あの日、昇降口で待っていてくれ
彼氏できたんなら連れてこい、と有無を言わさぬ命が下ったのは、3日前。 「キャラが濃いとは聞いてたけど」 悩みごとをふっとばすパワーのある彼女に、何人の子供たちが救われたことか。顔を見るだけでホッとできる、稀有な存在だ。 初対面の人間に品定めされる決して気分が良いとはいえない状況を、沢口はおもしろがってくれた。 「おもしろくない情報もあったな」 「なんのことでしょう?」 とぼけても無意味だとは、わかっている。 「ほら、私剣道やってたから、崎ちゃん勘違いしちゃって」 「ふーん
血は争えないかー、が伯母の第一声だった。 「探偵事務所でしょ?キケンな男ってことじゃない?あんたのお父さんもモトクロスのレーサーだったわけだし」 しばらく考えてからやっとふに落ちた綾の隣で、一拍早く息がもれた気配がした。顔には出さないが、天然家系だと断定されたにちがいない。 これだけは言っておきたいと真剣な眼差しの崎子に、空気がピリリと引き締まる。 「ウチのあや、想像を絶するモテっぷりだから。そらエゲツないよー?顔も中身もとびきりかわいいうえに、無邪気かつアンニュイ。男はた
新学期ひらりひらりと舞う桜バス停並びきみを待つ朝 無事に第一志望の高校に入学できた。 学区内で一番の進学校。 きみと同じ学校に行きたいから頑張った。 ちょっと頑張れば合格圏内ではあったから。 友だちは少し離れた制服がかわいい私立の学校に行った。 電車通学は大変そうだななんて思った。 この高校はバス1本で通えるのも魅力的だった。 同じ中学から何人かこの県立高校に入ったはずだけど、同じグループ内にはいなかった。 きみは同じクラスだったけど教室内で話したことはあまりなくて、図書室
いつの間にかアジサイがこんなに咲いてたんだね。 毎日通っているのに気がつかなかったな。 アジサイの花言葉は確か 「移り気」「浮気」「変節」 青色なら 「冷淡」「無情」か…… 俺が変わったって思ってるんだろうな、きっと。 そう思わせた俺が悪いの? そんなつもりはなかったんだけどな。 これってさぁ、俺が悪かったって思わなくちゃいけないことなの? 「ごめん」 とかいわなくちゃ駄目なの? どうして謝るんだ、俺? 何か悪いことした? でもなぁ、みっともないとこ見せちゃったしなぁ
■前回までの日記はこちら ■本編 五月三十一日(金) 紫をおもちゃ屋に連れて行ったら、棚に並んでいたコルクでできた積み木を気に入ったので、少し値は張ったが買って帰ってきた。 コルクで軽いので、普通の木の積み木よりも危なくないと思ったのだ。……私が。 なにせ紫は鬼の子だけあって膂力が強く、鉄鍋でさえ軽々と持ち上げ、振り回すのだ。おまけに投擲能力も高く、狙った獲物を外すことはない。おかげで私の顔には生傷が絶えない。 積み木を三つ四つと器用に積んでいくと、拍手をして喜んでい
泣いて泣いて、ひとしきり泣くと私は開き直った。 介抱してもらったのは事実だけど、それだけのこと。 それはそうと、せせらぎが、 「俺と付き合わない?」 と言い出した。 「ぶっちゃけ、さやかちゃんは俺のもろにタイプなんだよ。タツキくんとこれで別れたら、俺のところにおいでよ」 私は少しカチンと来たが、冷静に、 「別れる気なんてホントにないっすから。それにせせらぎさんは仲間としてしか見れない」 しかし、せせらぎは引かなかった。 「俺の方が絶対幸せにしてみせるって!あ
赤い傘を買った。確か、ヴィクトリアン風の淑女が描かれた傘だった。青やベージュの地味な傘ばかり持っていた私が赤い傘を買う気になったのは、気分が高揚していたせいだろう。 薫が一浪の末、大学に合格した。良かったね、薫。長く苦しい道のりだったね。おめでとう。傘を選びながら、心の中で薫にそう呼びかけた。 * 目先の楽しさばかり追っていた私たちが変わったのは高二の夏だった。 私たちというのは、中堅女子大の付属校に通う私と光留、由美、それから、お金持ちのお坊ちゃんが多い
店につくと、タツキを除いた全員が到着していた。 全員と言っても二人だけど。 ゆらぎを奥に通すと、まず飲み物を決める。 とりあえず、ビールで! みなもだけはオレンジジュースだった。 ゆらぎが挨拶をする。 「初めまして、ゆらぎです」 「俺はせせらぎ」 「僕みなもです」 「タツキさんは?」 「まだバイト中なんです。先に飲んじゃいましょう!乾杯の音頭はせせらぎさん、お願いします」 「えー、俺はこういうの慣れてないよ」 笑いながら言うせせらぎ。 「頑張って!社
三角コーナーに張られた目新しいネット。残りの味噌汁をドバドバと流し込む。 今日も彼は帰って来なかった。 彼の大好きな豆腐の味噌汁。 空っぽになった鍋をスポンジで手洗いしながら、ふっとため息をついてみた。 「今日も徹夜になるかも。先に寝てていいから。」 日付けが変わる少し前にきたLINE。 彼が姿を見せなくなって、3日が過ぎた。 LINEのメッセージが来るから、大丈夫だと思う。でも。 同棲を始めて3ヶ月が経つ。彼のために料理の勉強もしたし、忙しい彼を支えるために
おれは運がいい。 既に口癖である。 それは師である近藤勇から伝授された。いつも魂魄にそう抱いておれば、幸運は先方より訪のうてくるものだと。 鋒が地表を這うが如きの地擦り下段のまま、抜き身の白刃を下げた相手に、沖田総司が肉薄する。総司は地表の砂埃を舞わせる、一陣の旋風と化す。唇を堅く結び、数瞬にて間合いを詰めていく。 その足音に、正面の男が青筋を逆立てて驚愕する。彼の振り返りざまに、下段からの跳上げにてかの男の膝頭を砕く。 但し、刃を返した峰打ちである。 男は指先
マジか~。 全部読み終わって、思わず声にだして言ってました。 「必ず二回読みたくなる」という宣伝文句はよくありますが、まさにこういうことかと、感じざるを得ない1冊をご紹介します! ※ネタバレ無 ○著者乾 くるみ(小説家・推理作家) ○ジャンル恋愛ミステリー小説 ○あらすじ人数合わせで呼ばれた合コン。 夏の海のドライブ。 遠距離恋愛。 1980年代が舞台のほろ苦、甘酸っぱい恋愛小説…… ○感想・ストレートな、ほろ苦、甘酸っぱい恋愛小説…と読んでも充分面白い。 ・今で
■前回までの日記はこちら■本編 五月三十日(木) 台風が近づいてきているが、天気は曇り。空もぎりぎりのところで持ちこたえている感じだ。 今日はシャルと紫を連れて隣市の御小山公園に遊びに来ている。昨日が雨だったので、一日中家に籠っていたのだが、紫もストレスが溜まるらしく、泣いたり怒ったりと情緒が不安定だった。 駐車場に車で乗り入れると、シャルが紫を下ろし、下ろした瞬間よたよたと覚束ない足取りで駐車場を歩き出してしまうため、慌てて私が抱きかかえる。すると抗議するかのように暴
「胡桃と僕のありふれた日常」 第二話 〜満面の向日葵 今日は僕たちの結婚式である。 この春、二年あまり一緒に生活をした彼女にプロポーズして、今日という日を迎えたのだ。残暑の厳しい八月にしたのは、夏と向日葵が大好きな彼女が望んだからだ。まあ、実際式場が空いていたこともあるが。 温泉リゾート内設えの瀟洒なチャペル。着慣れない白いタキシードと人生初のシークレットシューズにもぞもぞしながら、我が新婦を待つのである。 定番のオルガンによるメンデルスゾーンの結婚行進曲に合わせて
1,787字 最後まで読んだ。 価値観が180度変わった。 もしかしたら、もっと前から (数ヶ月前から) 180度変わっていたのかもしれない。 振り子のように、180度まで行くのだけど、 次の瞬間には元の位置に戻っていて、 かといって留まるでもなく、 振り子は動き続けている、 というのを何ヶ月も味わっている気がする。 モノの見方が変わると、景色が変わる。 どちらの景色が間違っているとかでは、 ないと信じたい。 その時はそう見えた、それは確かなのだから、、、
貴志の涼し気な笑顔を見たのは、いつぶりだろう。無理して作っている表情なのは、潤んだ目元が教えてくれている。 貴志の表情が消えて、激しい憎悪の目線を向けられ、しばらく無言の時間がやってきた。髪を振り乱し、頭を抱えた貴志の声にならない悲鳴は、しかし耳に、心に確かに聞こえていた。 思えば貴志が取り乱す姿なんて、ほとんど見たことがなかった。坂木紗霧を傷つけた。それ以外の理由で貴志が、我を忘れる程怒ることなどなかったからだ。 紗霧の傷。そこに触れる発言をした。その後で向けられ
■前回までの日記はこちら■本編 五月二十八日(火) 今日はシャルには留守番を任せて、私一人出かけることになった。と言っても遊びに行くわけではなく、仕事で行くのだ。 出かけることには出かけるのだが、行き先は隣の市なので、出かけた感覚はあまりない。今日は自家用車を使わず、バスと電車で移動するから、それが新鮮で懐かしいと言えば、懐かしい。 朝九時に家を出て、家の前から続く緩やかな下り道をずうっと下がって行くと、国道に出る。国道とはいえ、田舎なので片側一車線の道路だ。私は坂を下