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小説と詩を嗜んでみた。

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駄文ですが、お暇な時に。
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記事一覧

春夢、遙か。【春弦サビ小説】

春夢、遙か。【春弦サビ小説】

『あんた……』

握りしめた拳に爪がくい込み、血が滴り落ちる。

見るも無惨な有様。
痛めつけられた痕、無数の切り傷。

あたしを愛でてくれた手は紅に染まっていて、温度を失っていた。

あたしを見てくれた眼は、
あるべき所に収まっておらず。

あたしを色んな場所へ連れて行ってくれた足は、ひとつ無かった。

あたしに約束してくれた話は
もはや春の夢。

薫は疾走る。
大切な人を奪っていった輩の居る場

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翼は桜のようだった。【春弦サビ小説】

翼は桜のようだった。【春弦サビ小説】

Inspired by Ao lyric.
Composed by Ao
Song by Ao

春の日に歌うあたしはーー。

飛べない鳥。
だから歌って、此処に居るよと言っているんだ。

みんな飛び立って行った。
遠くへ。
とにかく遠くへ。
あたしはまだ此処で歌っているよ。

あたしには翼が無かったから。
歌うことしか出来なくて。

泣いて。
鳴いて。
歌って。
唄って。

突然聞こえたアコース

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更新中。【詩】

更新中。【詩】

いつの日か

いつの日かと

燻り続けていたあの頃より

今の自分がいちばん好きだと

勝手に思いながら

今日も自分愛を更新している

そんな自分を更に好きになる

note村の1日。【春弦サビ小説】第6話

note村の1日。【春弦サビ小説】第6話

第1話

第2話

第3話

第4話

第5話

【つる師匠の𝒄𝒐𝒇𝒇𝒆𝒆 𝒃𝒓𝒆𝒂𝒌】

『毎度~pillow's BARでーす』

いつも賑やかな『つる邸』は今日もワイワイと。

「おお、いつも悪いね、まくらさんよ」

わたしはこの辺から少し離れたこじんまりとしたところでBARを始めた。

ここの村に来てから約半年。

いらっしゃってくれる方々は、やたらと色んな才能をお持

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さくらもちの塩味は。【春弦サビ小説】

さくらもちの塩味は。【春弦サビ小説】

「桜の樹の下でさ、さくらもち食べるのって何か粋だよね?」

貴方が笑ってそう聞くから、あたしは笑って答えるのよ。

『そうね、毎年食べれたらいいね』

さくらもち頬張る貴方は、上空から差し込む陽射しにキラキラと。

「毎年、違うところで買って、色んなさくらもち食べよ」

まだ見ぬさくらもちにワクワクしている貴方はキラキラと。

また来る春の前に。
貴方はーー。

「ちょっと旅してくる」

そう言っ

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春に霞む。【春弦サビ小説】

春に霞む。【春弦サビ小説】

卒業式が終わって。

帰り道の校門からの下り坂。

坂道を彩る桜の木。

前をひとり歩いている君。

後ろ姿が舞う桜と相俟って綺麗だ。

この坂道を帰る雨の日を思い出す。

急に降った天気雨に木の下で雨宿りの君。

置き傘していた僕は、傘を差して君の元へ。

『使いなよ』のひと言を置いて、僕は走って行こうとするけど。

『待って、濡れちゃうよ』と君は僕を傘へと招いた。

相合傘で下りる坂道。

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夕刻散華。【春弦サビ小説】

夕刻散華。【春弦サビ小説】

「あんたが来た所為で!ねぇ様は連れて行かれたんだぞっ!」

泣きながら『弥助』は言う。

飢えて倒れかけていたこのオレを救ってくれた娘、『櫻』は借金の形で遊郭へと連れて行かれたという。

「弱っちいあんたに出来るわけないだろっ!!」
弥助はまた泣く。

その姿を背に遊郭へと向かって走る。

艶街まで行く道のりで、『櫻』に追いついた。

「櫻……弥助が心配している……帰ろう」

櫻を取り囲む浪人達が

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夜の船で帰ります。【春弦サビ小説】

夜の船で帰ります。【春弦サビ小説】

この島から出て遊びに行くのを許してくれた旦那。
犬みたいな優しい旦那。

だけど……なんだかそれだけで。
あたしは外の世界に触れたかった。
ネット、SNS、etc……。
それだけでは満足いかなくて。

あたしを……好きだと言ってくれる人が居たりして。
会いたくて飛び出してみた。

旦那は呑気に『たまにはいいじゃない』と笑顔で送ってくれた。

優しい。でもそれだけ。
それだけなの。

船に揺られて本

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炭酸刺繍。

炭酸刺繍。

グラスの中の液体から弾ける泡を見ていた

グラスの底から上がっては弾ける

何をするでもない

それを見ているだけ

あなたはそんなわたしを見ている

あなたの言葉を遠ざけるように

わたしは炭酸の弾ける音に耳を向けて

綺麗にできていると思っていた刺繍は

気付いたら歪んでいた

歪になったわたし達の刺繍は

もう要らないのね

弾ける泡の音しか聴こえない

あなたのさよならも

あなたの言い訳

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太陽が消えた街。

太陽が消えた街。

笑い方?
忘れた。
怒り方?
忘れた。
泣き方?
忘れたよ。

人って売れるんだって。
親父は泣きながら、得体の知れない男達にあたしを引き渡した。
泣いてた顔は途端に姿を変えて、得体の知れない男達のボスであろう人物の機嫌取りに媚びた笑いを繰り返す。

あたしはあの顔が世界で1番嫌いだ。

抵抗はしなかった。
親父と暮らしてても、最低な生き方
してたから。
特に変わりない生き方を、親父の
いない場所

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結。【詩】

結。【詩】

想いを結ぶ。

人を結ぶ。

言葉を結ぶ。

気持ちを結ぶ。

わたしの理想。

未だひとつたりとも
出来てないけれど。

結びたいものがたくさんあって。
不器用で結べなくて。

結び目が緩くて
結ぶのが下手くそで
解けてしまうことばかりだけれど。

それでも結びたいんだよね。

GしてI'veして。

GしてI'veして。

平和な世界を望みながら
刺激を求めて。
長生きを望みながら
身体に悪いものを好んで
摂取していく。

矛盾だらけの私達。

不安定に安定しながら
彷徨うフリ。

今日も何処かで禁断とか云う言葉に
燃えながら傷つけ合っていたり。

今日も何処かで禁忌とか云う言葉を
持ち出して思わせ振りな物言い。

明日もきっと何処かの誰かと比較して
上がったり下がったりの心電図。

明日もそっと何処かの暗い飲み屋で

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風なんて嫌いなのに。

風なんて嫌いなのに。

春と風。

これはセットでわたしの心を掻き乱すと同時に、飛んで来る花粉でわたしの眼も掻き乱す。

幾年月過ごしたあなたは、泣きながら。
それでも去り際に笑っていた。

知っている。
辛かった事を半分持って行ってあげる。
何度の春を過ごしただろうか。
今年はひとりの春が来る。

『生きろ』と告げて、頭を鷲掴みにしてクシャッとして別れたあの時の表情が瞼の奥に未だ在る。

もうじき桜が舞う。
わたしはそ

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先輩。

先輩。

いつもバカばっかやってる先輩が居た。
周囲を笑わせるのが得意な先輩。
花粉症が酷くて変なくしゃみが特徴的だ。
新人のわたしにいろいろ教えてくれた。笑いを混ぜながら。

「知ってるか?齋藤。これ」
綺麗な河津桜の写真。
「さくら、ですね」
「おれの地元、今年も綺麗に咲きそうなんだよ」
「地元、ここじゃないんですか?」
「伊豆の方」
毎年春に休み取って地元に帰ると笑顔で言う先輩。
「年に一度桜の時期に

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