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会いたくて会いたくて

 「Tさんすみません、Hさん(副所長)から伝言を預かっているんですけど…」
 昨夜夕食を食べに食堂に降りた時のこと。宿直のスタッフさんが、利用者のTさんにそう声をかけた。
 直後スタッフさんから語られたHさんからの伝言は、誰も創造をしていなかったであろう意外なものだった。
「会いたくて会いたくて仕方なかったそうです」
「なんやねんそれ」
 隣の水道で手を洗っていた利用者のSさんが、我々の心の声を代弁するかのように言った。
 Sさんの言葉にのっかるようにして、私もぼそりと言った。
「会いたくて会いたくてって西野カナじゃないんだから」
 私の突っ込みに、すでに食べ始めていた若い男性利用者二人組が大爆笑してくれた。ちょっと嬉しかったが、何となく恥ずかしくもあった。
 そういえば夕方Hさんが部屋の戸をノックしながらTさんを呼んでいる声を聞いた。Tさんの部屋は隣なので自室に居ても聞こえるのだ。
「西野カナ久しぶりに聞きましたよー」
 夕食が乗ったお盆を席まで運んでいる途中スタッフさんが言った。
 それは私もそうかもしれない。西野カナにはそれほど詳しくはないのだが、確か結婚して活動休止したんじゃなかっただろうか。少し前にお子さんが生まれたとも発表していたような…。不確かな情報で申し訳ない。
 それにしても、食堂が爆笑の渦に包まれたほど、副所長がTさんに会いたくて会いたくて仕方なかった要件とはいったい何だったのだろうか。他人事とは言えものすごく気になる。

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