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平熱

平熱

混沌とする社会情勢に、いちいち感情を昂らせるのはいやだ。自分の思念にのぼせるのもいやだ。かといって、白けて無気力になるのもいやだ。そもそも上がり下がりするのがいやだ。
何かこの感情をうまく言い表せないかと思っていたところに、表題の二文字である。

そうだわたしは平熱でいたいのだ。茨木のり子はいつも的確である。

『歳月』かけて価値の高まる本

『歳月』かけて価値の高まる本

5000円する本を買った。茨木のり子の『歳月』は、20代前半のころに図書館で借りて以来、いつか買おうと思っていた。いつでもいいやとたかをくくっていたら、絶版になっていた。プレミアがついて、シミつきの中古本でもこの値段だった。

この本は、茨木のり子が夫と死別してからの31年間にわたって書き綴った詩集だ。夫についての、あるいは夫がいないことについての詩。著者の亡き後に原稿が発見され、出版されることと

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出会うべくして出会った詩

出会うべくして出会った詩

谷川俊太郎の「はだか」という詩集がずっとほしかったのだが、なんとなく買わずにそのままだった。電子書籍だと手間もないのだが、とりわけ詩集になると紙の本で持っていたい気がして、買っていなかった。先述のとおり、積ん読も山ほどあるし。

ところが今日、とうとう読んでみたくなって、電子版を衝動買いしてまった。大好きな紙のぬくもりや手ざわりはないけれど、その詩の数々には、生命のあたたかさがある。なまあたたかさ

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忘れるという愛について

忘れるという愛について

また、本を衝動買いした。寺山修司の『ポケットに名言を』だが、これは長年温めている欲しい本リストには入っていなかった。本当に、思いつきで買った本。歌人で劇作家のその人が選ぶ名言とは、果たしてどんなものだろう。ふと興味がわいたのだ。

本の中では、映画のセリフから聖書にいたるまで、あらゆる名言が引用されているが、それらは独自にカテゴライズされ、タイトルと著者の序文が添えられている。なかでも特別に心を打

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あたたかいはなし

あたたかいはなし

例えば猫と接するとき、「粗相をしない対策」とか、「猫に嫌われない方法」とか、そんなことをネットで調べて答えを探そうとする。やって効果がなくても情報は無数にあるので、ひたすらに検索をつづける。

このとき猫と私は、その時間を共有していない。私は目の前に「リアルな猫」がいるにもかかわらず、頭の中の「猫の虚像」と安易に入手した情報とを照らし合わせて作業する。

皮肉なことにこの一連の作業は、猫とさらにつ

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