見出し画像

最上級のボクシング興行(その1)〜井上尚弥vsルイス・ネリ@東京ドーム

淀川長治さんが、永六輔に「東京で一番おいしいステーキを探して食べてきなさい」と言ったそうだ。永さんは、帝国ホテルでステーキを食べ、「とても美味しかった」と淀長さんに報告した。すると、淀川さんは永さんを某社社員食堂に連れて行き、ステーキ定食を食べさせた。そして、「君は東京で一番いいステーキと一番ひどいステーキを食べた。これから、どんなステーキが出てきても、君は自分の価値観でものが決められるね」と。

私はボクシングを生で観たことがなかった。一度はと思っていたが、背中を押すボクサーが現れなかった。しかし、井上尚弥が登場した。そして、34年ぶりの東京ドーム開催、四団体統一世界スーパー・バンタム級王座防衛戦。相手は、山中慎介との因縁の対決があったルイス・ネリ、これは行くしかない。そして、最高のボクシング興行を目撃した。最低の興行は観ていないが、この日に目撃したものが、これからの物差しになることは間違いない。

東京ドームの当日券売り場には長蛇の列。後の報道で、4万3000人の観衆と知ったが、16時の第1試合開始の時点で、多くの観客が集まり、2階席もほぼ埋まっている。2階指定席は11,000円、最高はSRS席の22万円、私が持っていたのは上から4番目11万円のアリーナS席だった。

バックスクリーンを中央に外野席サイドは、選手らが入場する際のプラットホームになっていて、両サイドには巨大なスクリーンが設置されている。

私の席は東側(一塁側)、リングから25列目のほぼ中央だった。席につくとほどなく、第一試合TJ・ドヘニーvsブリル・バヨゴスのスーパーバンタム級8回戦が始まった。ドヘニーは、元IBFスーパーバンタム王者。メインイベントの選手が対戦不能となった際の、リザーバーという位置付けでもあった。試合は37歳のベテラン、ドヘニーが第4ラウンドでKO勝ち。

25列目だと、流石に前に座る観客の頭が邪魔になることもある。しかし、リングの四隅上部にはスクリーンが設置されているので、それを補完的に観ることができる。この第一試合を観ることで、徐々に目が慣れ、試合の追い方が分かってきた。

第2試合、ユーリ阿久井政悟が、桑原拓の挑戦を受けるWBA世界フライ級タイトルマッチ。ユーリの娘さんの「パパ頑張れ!」の声が響く中、両者とも積極的な攻撃でスタート。ユーリが徐々に主導権を握り桑原を追い詰めていく。それでも、桑原は倒れない。結果は3−0の判定で王者が初防衛に成功する。それにしても、この日本人対決ですでに会場のボルテージは相当に上がっている。

続く第3試合、井上拓真のWBA世界バンタム級王座防衛戦、対戦相手はこちらも日本人の石田匠。第1R、出会い頭に石田の左ジャブを受けた拓真がまさかのダウン。波乱の幕開けとなった。バンタムになると、パンチの威力が違う。時折、“ドスッ“という鈍い音のパンチが突き刺さる。まさかのダウンを喫した拓真だが、第2Rからは落ち着き、的確にパンチを当てていく。この試合も、チャンピオン優勢で進んだが、挑戦者が倒れない。画面越しで見ている以上に、選手へのダメージを実感、よく立っていると思い続けていた。東京ドーム、4万3000の観衆の前でKO負けはしたくないという意地が伝わってくるようだった。

こちらも判定となり3−0でチャンピオン。“怪物“の弟として、様々な想いとプレッシャーの中で戦ってきただろう、井上拓真。こちらもホッとした一戦だった。

この時点で、かなりの満足度だったが、イベントは続く


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?