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ヒーローサウザンド (第五話)

 朝、あたしは学校に向かいながら、
 ヒーローになってしたい事って何だろう、と少し考えた。あたしが今、気になってる事の一つは、昨日の犬の事。警察に聞いた所では、あの犬には首輪がされてたそうだ。あたしは助けるのに必死でよく見てなかった。気付かなかった。だけど、だから、野良犬じゃない。だから動物病院に送られたと思う。それで飼い主が引き取りに来て、病院代も払ってくれるはずだ。
 だから大丈夫だろう。
 もう一つ気になってる事は、奈々ちゃんだ。
 あたしは空を見た。晴れている。梅雨があけて何日か経った。雨はしばらく降らないかな。三週間くらい前、学校から帰る時に雨が降っていた。あたしは傘を忘れてしまい、困っていた。そんな時、奈々ちゃんが傘にいれてくれた。あたしの家まで送ってくれた。嬉しかった。
 あたしは、その奈々ちゃんを昨日、見捨てた。最低だ。
 だけど、あたしには、今はヒー君がいる。コミックヒーローみたいに強くはなれないけど、昨日変身したマイクタイソンか那須川天心で十分、秋山のクソは倒せる。
「よし、やるか」
 あたしは前方の空間をにらむようにして歩き出した。

 あたしがクラスの教室にはいると、奈々ちゃんがいた。自分の席に座っていた。うつむいていた。奈々ちゃんは、あたしと同じで、少し小柄な体をしている。それがもっと小さくみえた。みんなは奈々ちゃんから少し距離をとっていた。
 あたしは奈々ちゃんに近付き、
「おはよう」
 と言った。
 奈々ちゃんはビックリした様子であたしを見た。
「お、おはよう」
「昨日は、ごめん」
「え?」
「さっさと帰っちゃって」
 あたしは、頭を下げた。
「今日は、今日も、一緒に帰ろう」
 奈々ちゃんは驚いた様子だ。
「駄目かな?」
「駄目じゃない」
 奈々ちゃんは涙ぐみ、
「一緒に帰ろう、ありがとう」
 他のクラスメートが少し騒ぎだした。
 その時、秋山がクラスにはいってきた。
 あたしは秋山に近付き、
「秋山、お前、少しツラかせよ」
「はあ、何だと」
「今から体育館裏に来い」
 クラスが騒がしくなる。
「加奈ちゃん」
 奈々ちゃんが心配そうにしている。
「大丈夫だよ」
 秋山はあたしをにらみ、他のみんなに、
「俺たち二人、朝のホームルームふけるけど、先生に言うんじゃねえぞ」
 あたしは秋山をにらみ、
「お前、覚悟は出来てるのか?」
 秋山は笑って、
「お前、頭は大丈夫か、俺にケンカで勝てるとでも?」
 あたしは不敵に微笑み、教室の外に向かって歩き出した。

     つづく

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