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ヒーローサウザンド (第三話)

 あたしは廃ビルの中にいて、少し離れた所に血だらけの犬と、犬に暴行を加える大人が三人。そしてあたしに話しかけてくる、ヒーローサウザンドと名乗った、この不思議なアップルウォッチ、ではない何か。
「また、見捨てるの?」
 あたしの左手首からヒーローサウザンドはまた話しかけた。
「だって、あたし、弱いし」
「ずっとこうやって生きてくつもりなの?」
 その言葉があたしの心をえぐる。
「ずーっと、ずーっと」
「で、でも」
 大人の一人があたしをにらむ。
「おい、ガキ、消えろ」
 そして犬に蹴りをいれる。
 犬は弱弱しく鳴く。
「だ、だって、あたしは」
「君がそれで良いなら、逃げれば」
 あたしは、一生、こうやって。それで。
「!」
 あたしは、走り出した。逃げるためじゃない。大人たち、男たちがいじめてる、犬の所に走って行き、犬に抱きついた。
「お前、何しやがる」
 男の一人に蹴りをいれられる。痛い。怖い。だけど、
「あたしは、一生、誰かを見捨て続ける人生なんて嫌だ。だけど、怖いし、弱いし」
 あたしは、泣きながら、
「あたしは、どうすれば良いんだよ!」
 男たちは、失笑しながら、
「何だ、こいつ」
「おい、おい」
 男の一人がもう一回蹴りをいれようとする。だけど、
「だったら、僕が力を貸すよ、世界中のヒーローが君の味方だよ」
「え」
 ヒーローサウザンドから声が聞こえる。
「マイク・タイソン」
 その時、あたしの体が一瞬光った。
「え」
 あたしは、何が起こってるか、良く分からなかった。だけど、男たちの様子がおかしい。
「何だ、お前」
「が、外人になった?」
 あたしは、自分の体、腕や足を見た。黒い肌になっていて、筋肉質だ。そして手にはグローブの様なものをはめていた。
「な、何、これ」
 あたしは状況が呑み込めなかった。だけど、体が勝手に動いた。男の一人にパンチを繰り出した。男の一人が吹っ飛んだ。
「那須川天心」
あたしの体がまた光った。あたしの体がまた変化したのが分かる。あたしは蹴りを繰り出す。また男が吹っ飛んだ。
「な、何なんだよ、お前」
 最後の一人は逃げ出した。
「大谷翔平」
あたしの体がまた変化した。少し身長が高くなった気がする。そして手には野球のボールがあった。あたしはそれを逃げる男に向かって投げた。
 ボールは男から外れるかと思ったが急激に左に曲がり、男の頭に激突した。
「ぐえ」
 男は倒れた。ビルの中では男が三人倒れていた。
「どう、ヒーローサウザンドの力は」
「あ、あたし、今、スイーパーとかいうの投げた? あたし大谷翔平になってる?」
 あたしは、これからどうなるんだろう。何が起こってるんだろう。


             つづく。

 

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