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書籍レビュー『ディズニーとチャップリン』大野裕之(2021)ハリウッドが生んだ二人の天才の生い立ち



ミッキーマウスに花束を

「ウォルト・ディズニーは
 チャップリンの影響を受けていた」
こんな内容と、

表紙にあるチャップリンが
ミッキーに花を渡すイラスト、

もうこれだけで「読もう!」
と思いました。

チャップリン、ミッキーマウス
いずれも子どもの時に
作品の中で観たことのある
キャラクターではありますが、

この二人に共通点があったとは、
まったく気がつきませんでした。

時代的に重なる部分があり、
映画界において影響力の大きい
チャップリンが

ディズニーに影響を
与えているなんて、
当たり前といえば、
当たり前の話なんでしょうけど、

当たり前過ぎて、
見落としていた感がありました。

本書ではおもに、
チャールズ・チャップリン、
ウォルト・ディズニーの二人を

照らし合わせるようにして、
描かれています。

二人の生涯と作品について、
またエンタメビジネスとして、
政治的な姿勢も含めて、
解説されていて、

これがものすごくおもしろいのです。

ハリウッドが生んだ
二人の天才の生い立ち

本書は300ページ近い新書で、
写真なども掲載されているのもあって、
割と軽く読める内容ではあるのですが、

書かれている内容自体は、
かなり広い範囲におよぶものなので、
網羅的に解説するのが難しいです。

そのため、少し散漫な紹介に
なってしまうかもしれませんが、
そこのところはご了承ください。

私が特におもしろいと思った部分を
紹介していきます。

チャップリンこと
チャールズ・チャップリンは、
1889年にイギリスに生まれました。

両親も舞台に出演する
喜劇役者で、

チャップリン自身も
子どもの頃から舞台に
立っていたそうです。

チャップリンは、
早くからその才能を発揮し、
若くして人気の喜劇役者に
なるのですが、

早くに父親を亡くしており、
経済的な面で苦労しました。

1914年に映画デビューし、
たちまち人気を博し、
自身でも監督を務めるまでに
いたります。

1920年代には、
長編映画も手掛けるようになり、
いずれの作品も大ヒットを
飛ばしました。

一方のウォルト・ディズニーは、
1901年にアメリカのシカゴで
生まれました。

(チャップリンより
 ちょうど一回り年下になる)

ウォルトの父はもとは、
鉄道員でしたが、
職を転々として
安定しなかったようです。

ウォルトが幼い頃は、
ミズーリ州で農業をはじめましたが、

この事業も失敗し、
数年で別の土地に
移ることになります。

しかし、ウォルトにとって、
この少年時代を過ごした
ミズーリ州は、
思い入れのある土地で、

のちのディズニーランドも
この幼少期の頃の風景を
再現したものになっています。

子どもの頃のウォルトは、
チャップリンの映画に夢中で、
自身もモノマネを披露し、
学校中で笑いをかさらっていました。

将来の夢は、チャップリンのような
喜劇役者になることだったそうです。

一方で、絵を描くのも好きで、
その才能がのちにアニメーターとして
ミッキーマウスを生み出す
源泉となります。

そして、そのミッキーマウスには、
チャップリンから得た
笑いのエッセンスが
たっぷり反映されているのです。

チャップリンがウォルトにした
決定的な助言

こう書いてみても、
やはり散漫なイメージが
拭えきれませんが、

本書を読んでいて、
もっとも驚かされたのは、

ディズニーのビジネススタイルが
チャップリンのアドバイスから
生まれたものだった
というエピソードですね。

まだ、ウォルトが今みたいに
世界的な存在になる
前のことですが、
(1930年代初頭)

チャップリンとはじめて
会った時のことが
書かれていました。

チャップリンもウォルトが
手掛けたミッキーの作品を観ており、
「ファンだ」とまで言ったそうで、

当然のことながら、
この言葉にウォルトは
いたく感動したそうです。

チャップリンは、
作品の話も早々に切り上げ、
こうアドバイスしたそうです。

「君はもっと伸びる。
 君の分野を完全に征服する時が
 かならず来る。
 だけど、君が自立を守っていくには、
 僕がやったようにしなきゃ。
 つまり、自分の作品の著作権は
 他人の手に渡しちゃだめだ。」

もちろん、ウォルトも
このことは実感としてありました。

というのも、ウォルトは、
ミッキーよりも先に手掛けた

ウサギのキャラクター
「オズワルド」を契約上の関係で
使えなくなったことがあるからです。

(その後、ディズニーは
 ’00年代にオズワルドの
 著作権を買い戻している)

しかし、尊敬する師匠ともいうべき、
偉大なチャップリンの言葉は
その後もウォルトの心に
大きく刻まれていたことでしょう。

つまり、今日のディズニーが
キャラクタービジネスを
展開するうえで、

チャップリンが重要性を説いた
「著作権」の話は
ものすごく重要なアドバイス
だったんですよね。

そして、チャップリンの
「君の分野を完全に征服する時が
 かならず来る。」
という予言も

「さすが、チャップリン!」と
言いたくなるほど、
先見の明がありますね。

……やはり、というべきか、
2000字以上書いても、
全然書き足りないので、
別の記事に改めますが、

この本はものすごくおもしろかったです。

特に、エンタメ関連のことに
興味がある方は、必読の書ですね。


【書籍情報】
発行年:2021年
著者:大野裕之
出版社:光文社

【著者について】
1974年、大阪府生まれ。
脚本家、演出家、
日本チャップリン教会会長。

【同じ著者の作品】

『チャップリンとヒトラー』
(2015)
『ビジネスと人生に効く
教養としてのチャップリン』
(2022)
『チャップリンとアヴァンギャルド』
(2023)

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