記事一覧
140字小説【過去から届いたメッセージ】
自暴自棄になった私は腕のいい殺し屋に仕事を依頼した。苦しませずにターゲットを消すという噂だ。報酬を支払い消えるのを待っていた私。仕事は失敗に終わった。殺し屋は過去へ行き、過去の私を消そうとした。しかし過去の私がこう言ったらしい。「まって!私は売れっ子作家になるまでは死ねない」と。
140字小説【ウチにも居た】
僕はハエトリソウを衝動買いした。貝殻のような葉を素早く閉じて獲物を捕獲する。妻に見せると「うちにも可愛いのがいるのに」という。数日後、仕事で夜遅くに帰宅した僕は、シャワーを浴びると幼い娘の布団に潜り込んだ。パパっ子でいつも一緒に寝ている。娘の手に指を乗せると素早くぎゅっと握った。
140字小説【発明王の苦難】
「うわっ!」「凄いわね…何もない所でそんな派手にこけるのは、世界広しといえどあなたくらいよ」僕はただ新しい防犯アイテムを発明したかった。歩くと大きな音のする防犯砂利。それをヒントに発明した透明なバナナの皮。ベランダに置いたことを忘れていた。「防犯カメラでいいのに」妻の正論が痛い…
140字小説【もっと遠くへ】
「お願いします」「任せて!なんなら毎日でも送っていくよ!」「あ、いえ…」「次の週末は予定入ってる?夜景の綺麗な店を知ってるんだよね」「前を見て運転して下さい。距離も詰めすぎです」「大丈夫!この車間距離なら前の車が急ブレーキ踏んでも止まれるよ」「いえ、あなたと私の心の距離です!」
140字小説【ずっと気になっていた…】
何を伝えたいか分からない文章は読み手にストレスを与える。だから僕は必ず最初に結論を書く。ある日、僕が利用しているSNSに内気なファンから3年ぶりのコメントが入った。「あの、3年前からずっと気になっていたんですけど…どうしてあなたの140字小説は最初に落ちを書いてしまうんですか?」
140字小説【運び屋】
俺は事故に遭ったらしい。奇跡的に命をとりとめた俺は、見覚えのない女と生活を始めた。俺はその女のことを運び屋と呼んだ。手紙、写真、指輪。毎日のように見覚えのないものを運んできては俺に見せる。女は事故で声を失ったらしい。ある日、俺は思い出した。運び屋は妻で、運んでくれたのは俺の記憶…