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動物の死を悲しまない夜がある。
焼かれる地を悲しまない夜がある。
差別を悲しまない夜がある。
人生を悲しまない夜がある。
歯を磨いて羽織ってスマホだけ持って歩き出して、曇り空、点滅している街灯さえ頼もしく見える田舎の夜、には不似合いなディスカウントストアに着く、値下げシールが目立つ総菜売り場、つまみとワインをビニール袋に詰められ、数字を渡す、今日はとても風が強い、髪を引っ張り回され肩を背を叩かれ揺さぶられ、一人だというのに大勢と賑わいながら行くような帰路、ざああっと木々の喝采が降ってくる、自動車のヘッドライトに照らされ伸び縮みする影それ、わたし、伸びきって一枚の板みたいなシルエットやら、縮みきって虫ケラみたいなシルエットやら、俯いて、だらしない食事の詰まったビニール袋片手に、歩き、歩き続けて、なにやってんだろ、なにやってたんだろ、わたしはこれから飲み食いしながら映画を観るんだってことは明白で、それを悲しまない夜がある。

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