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経営本のスゝメ 5.

ぼくにとって経営の神様が稲盛さんだとしたら、外食業界における経営の神様はサイゼリヤの創業者である正垣泰彦さんになる。
それにしても、やはり〇〇の神様も多いな。神様でないとしたら、外食業界におけるアイドルが正垣さんだといってもいい。

ぼくが修業時代、技術を学ぶことと並行してやってきたことをこれまでにも何度か述べているけれど、多分まだ書いていなかった具体的なことを少し述べることにする。
先にお断りをしておくと、これらはすべて将来自分が店をすることを前提にやっていたことであり、それもインターネットのないアナログな時代だったので、今ならまた違った方法をとっていたとは思う。

昔はネットがなかったので情報源となるものは雑誌が中心で、今ではすっかり減ってしまったけれど外食業界にも技術書とは別にフードビジネス誌が何種類もあった。
柴田書店さんが現在も刊行されている月刊食堂や、飲食店経営、近代食堂、カフェ&レストラン、フードビジネス(これが雑誌名)、アリガットなどなど。
ぼくはお給料のほとんどを技術書も含めこういった専門誌に費やしていたけれど、これら月刊誌は広告ページも多いのでなんせかさばる。狭い部屋がどんどん狭くなるので、ぼくは必要なページを裁断しそれを会社ごとにファイルで分けるようになった。

外食産業における好きな会社や憧れの会社、ベンチマークする会社の記事をファイルリングするのだけれど、それはすでに完成された大企業のものでなく当時はまだ新興企業、ベンチャー企業に属するものばかりだった。
そういった勢いのある会社が何を、どんなコンセプトで、どんなお店を展開されているのか、それらの軌跡を追うことで将来、自分が店をしたときの参考になると考えた。

具体的には、オーバカナルを創業されたオライアンさん、レストランひらまつの平松さん、スープストックトーキョーのスマイルズさん、キルフェボンのラッシュさん、フレッシュネスバーガーを創業された栗原幹雄さん、そしてサイゼリヤさん。
フードビジネス誌に掲載されたこれらのお店や会社の記事、社長のインタビューなどをファイルリングしたものが、ぼくの部屋には10冊近くあった。
だから当時、かの社員でないにもかかわらず、ぼくはこれらの会社にかなり詳しかったと思う。

フレッシュネスバーガー1号店がオープンされる際の記事も残してあったし、ぼくのやっていたカフェにスマイルズの遠山社長がスタッフさんたちとお越しいただいたときには、「昔はルーの専門店もされていましたね」とぼくが話すと「よく覚えていますね。あなたたち(スタッフさん)は知らないでしょう」と、遠山さんに驚かれた。

ある意味、最も憧れていたオライアンさんに至っては、オーバカナル以前のイル・ボッカローネ、ラ・ビスボッチャ、ラ・ベンジーナのときから追いかけていたのでファイルの数も一番多かった。
そんなオーバカナルで初代シェフ・ブーランジェを勤められた池田裕之さんがぼくの店にお越しいただいたときには、夢中でオライアン愛を語ったものだから池田さんから「なんで、そんなにオライアンの内情に詳しいの?会社の幹部並みに知っているんじゃないの、それ」と、かなり驚かれたものだった。

ファイルにしたこれらの会社の中でもサイゼリヤさんは大企業に属するけれど、ぼくが最初に注目するようになったのはかなり昔のことで、それは上場されるよりもさらに以前、まだサイゼリヤさんが10数店舗規模の頃だった。

何かのドキュメンタリー番組だったと思う。まだ大きな自社工場を持たず、トマトソースなどを仕様書発注されていた工場に正垣さんが訪れ、白衣姿で味のチェックをされているのを目にしたのが最初だった。
このときに正垣さんが話されていたことに感銘を受け、その後ぼくは「サイゼリヤ」「正垣泰彦社長」という活字をフードビジネス誌からくまなく探し、見つけるとむさぼるように読んでは裁断し大切にファイルにした。
ぼくが渥美俊一さんの著書を読むきっかけになったのも正垣さんのインタビューなんだけれど、それは目からウロコどころでないほどの教訓ばかりで、もうぼくにとっては沼だった。

つづく



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