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無視カフェ

カランコロンカラン

「…」

 「…」

(口コミ通り、「いらっしゃいませ」の一言もない)

 「…」

「あ、注文いいですか?」

 「…」

(これが『無視カフェ』かぁ、評判通りだ!)

「じゃあ、えー、ホットブレンドの、Sで」

 「…」

「…」

 「…」

(おぉ、動いてもくれないのかぁ!こいつは想像以上だ!)

「え、勝手に、コーヒー入れますけど、いいですか?」

 「…」

「お金ここに置いときますね」

 「…」

(いいぞいいぞ!非日常でいいぞ!まさに夢のようだ!)

普通ではありえないが、レジのあるところに入れたし、適当なカップをピックアップしてコーヒーも入れれた。

店内は8割ほど埋まっており、カドの適当な椅子に座った。

客は喋っている人もいるし、黙って勉強している学生やノートパソコンを広げている外国人もいる。

なるほどたとえば言葉の通じない外国人にとったら、最初こそ戸惑うだろうが慣れてしまえばむしろ楽なのかもしれない。

無人野菜売り場のような信用のもとに成り立ってしまっている。

ふと良からぬことがよぎった。

金を払わなかったらどうなるのだろうか?

もっと言うと、レジから金を抜いたらどうなるのだろうか?

言えないようなもっと倫理に反することも。

そのとき、どこまで無視を貫くのだろうか。

火事が起きたら?

さすがにそれは無視というか、逃げるか。

あえてあまり見ないようにしていた口コミを開いてみる。

★★★★☆
代金を支払わずに店を出るとすぐに警察に連行されました。おとり捜査は禁止されているはずですが…


考えることは一緒である。

しかし彼は勇者だと思う。

彼女かもしれないが、まぁダメなものはダメだということで、ここは人間が試されている聖域であるとも言える。

聖域を一歩出ると、現実に引き戻される。

連行がその証拠である。

連行されたのに★4なのは、当人も「一杯食わされた」「天晴れ」といった心情なのであろう。

古畑の犯人もだいたいどこか解放された表情であろう。

「あっっっつ!!!!」

客がいっせいにこっちを見る。

手を滑らせてコーヒーが太ももにかかってしまった。

レジの店員も店内の3箇所に立っている店員も微動だにしない。

 「大丈夫ですか?」

と近くのお客さんが3人ほど集まって、ハンカチを貸してくれたりナプキンで床を拭いてくれたりした。

「ありがとうございます、すみませんありがとうございます、助かりました」

 「ここでは助け合わないとね」

ご婦人の言葉に、ここは日本の縮図かと思った。

客の声は上に届かない。

動いてくれない。

普通のカフェなら店員が飛んでくるところを。

飛んでこないことでむしろ助け合いの精神が生まれるという…

ここに居すぎたらダメになりそうな気がして、一応記念に650円をレジ前に置いて『無視カフェゴールドブレンディ』を持ち帰った。

 

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