徒歩で駅へ向かう道中、前方20mほど先からカップルが歩いてくる。

男は歩きタバコをしていて、女は横を歩いている。

腕を組むでもなく、カップルか夫婦かペアであることはわかるだけの並びで歩いている。

僕はこういうペアを見るたびに、「崩壊」していると思う。

関係性が崩壊しているという意味ではなく、というかそんなことは僕にはわからないので、じゃなくてペアとして崩壊していると思う。

二人三脚と言うとなんか古臭くてダサいが、お互いを補うものである。

しかし僕のこの考えも決めつけや偏見が混じっているということもわかる。

全パターンを羅列します。

（1）女は男の歩きタバコを「カッコイイ」と思っている

（2）女は男の歩きタバコを「別にいい」と思っている

（3）女は男の歩きタバコを「やめてほしい」と思っていて、言えていない

（4）女は男の歩きタバコを「やめてほしい」と言ったことがある、やめてくれないので諦めて、今は受け入れてしまっている

（5）女は男の歩きタバコを「やめてほしい」と言ったことがある、もしくは常日頃から言っているが、やめてくれなくて、今も不満や怒りや恥ずかしさでいっぱい

（6）そもそも恋愛関係ではなく、友達や同僚や親戚や親子だ

僕の言う「崩壊」とは、そのペアが（1）か（2）だという決めつけに基づく。

一緒にいるということは好き同士であるという先入観、すなわち「どうしようもないなこいつら」という、僕のストレスの的にしてしまっている部分もある。

（1）の「カッコイイ」は本当にどうしようもない。
いつか冷めてしまう未来があるか、子どもができたタイミングで子どものためか世間体で改善されるか、子どもの有無は置いといてそのまま鈍感に幸せに添い遂げるパターンも全然ある。

（2）の「別にいい」がいちばん厄介。
たまになんか車の排気ガスに比べたら…みたいなことを得意げに言う人がいるが、そんなことじゃなくて、すれ違い様に、タバコのニオイがすることが超不快だったり、歩きタバコを見かけるというだけで蹴り飛ばしたくなるくらい、いや蹴り飛ばしちゃダメな理由を納得できるまで教えて？って気分になるということはご理解いただけるだろうか？ここに「別にいい」と思っているこんな人たちと「議論」を交わさなければならないという面倒さがあるのが本当に厄介なのである。（1）は僕の言い分をある程度は理解した上でそんなことは「でもだってカッコイイじゃん」と恋の力で拳4つ分くらい余裕を持って飛び越えるのである。そこに議論はない。

（3）の「やめてほしい」を言えていないパターンは、申し訳ございません、という思いでいっぱいである。
そこには他者が踏み込めない気持ちや事情があるはずで、別れたいと思っていて別れられないとか別れてくれないとか、言い出せないとか、歩きタバコをやめてくれさえすれば一緒にいたいとか、でもなんか言えないとか、そこに暴力とか威圧がなかったとしても、「なんか」言えないとか、それぞれあって、もしかしたら男も、いざ「やめてほしい」と言われると意外とスッとやめるかもしれなくて、あー言ってくれれば全然やめたのに、みたいな、フットワークの軽い不良ぶりたい奴、もしくは能天気にポイ捨てしたり税金や家賃を滞納したりするような感覚の持ち主、ってだけかもしれない。

（4）の言ったけど聞いてくれないので諦めパターンは、崩壊し切った後、という感じである。
それでも一緒にいるということは、経済的な事情だったり、打算的に、まぁ歩きタバコくらい我慢して、恥ずいけど一緒に歩くことを選択している、もしくはその他に選択肢がない、やることはやったし私は、言ったし、やめてって言ったし、聞く耳を持たないこいつがアホなだけで、私は精一杯やった上で歩きタバコを連れて歩いています、おそらく他のパターンに比べて「面（つら）」が違うと思う。『効き歩きタバコ横女』があったら楽勝問題だと思う。楽勝問題田中。

（5）は、すれ違ったときに僕と目が合うと思う。
SOSなのか、「そうですよねそんな目で見ますよね」という共感なのか、憎悪を向けている僕に対する「こっちもしんどいんじゃボケ」という反抗なのか、いずれにせよそういった点が「受け入れ型」「達観型」の（4）とじゃ違うさすが「現役バリバリ選手」である。

（6）のそもそもペアではないパターンは、プールに張ってある水を見たら熱湯とは思わないよね、といったことで、まぁ、一応パターンに入れておかないと鬼の首を取ったかのように指摘される可能性があるので、自己保身のために入れただけである。

「あっっっつっっっっっっ！！！！！！」

信じられないが、まさか、女が僕の左手の甲に根性焼きをしてきた。すれ違い様に根性焼きをしてきた。男→女→甲へタバコリレー。男女はふた手に分かれて全速力で走って逃げていった。ひとまず根性吸い殻を拾って駅前の交番に駆け込んだ。

「パターン（7）です！」