加澄ひろし|走る詩人

『走る詩人』加澄ひろしです。詩を書いています。【自然派】ときに【社会派】 自然を愛し、…

加澄ひろし|走る詩人

『走る詩人』加澄ひろしです。詩を書いています。【自然派】ときに【社会派】 自然を愛し、自然を歌います。 東京都出身、宮崎県在住 kasumi@tokyo.ffn.ne.jp

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【詩】岬馬

海を見おろす丘の背で 澄んだ瞳の鼻づらが 黙々と 草の若芽を喰んでいる 葉をむしり取る乾いた音が 根をちぎる湿った音が聞こえている 草は芽吹きを繰りかえし 馬の血となり肉となる 草食の 渇きに宿す螺旋の糸は 星から降り 海へと注ぐ 野生をつなぐ血の流れ 荒ぶる 発情に堰き止められて たしかな 胎動を始めている 草は 滑らかに血に溶けて ゆたかに溢れる乳となり 仔馬は しぶとい腱を得る 草も 馬も たくましい 人だけ ひ弱で やわらかい ©2024 Hiroshi K

    • 【詩】あれなぁに?

      母親に 男の子が手をひかれ まるい瞳を光らせて 「あれなぁに?」と問うている 手当たり次第 「あれなぁに?」を繰り返す そのたび 若い母親は辛抱強く 「あれはね・・」と まなざしの先を覗きこむ 思いのままに目をとめて 「あれなぁに?」と訊いた日々 いつも 隣りにあなたがいて 世界はふたりきりだった 「あれはね・・」と あなたに教えるようになり 目をこらした ふたりの眺めは とびらのむこうに 消えてしまった ひとり 手をかざす樹のしたで この星の得体をみつめている ©20

      • 【詩】迷い子

        イソヒヨドリが啼いている ビルのアンテナの枝にとまって 碧く透きとおる声色で なぎさの恋を歌っている 街をさまよう海の子よ おまえの調べは 自由を告げているのだろうか 孤独を嘆いているのだろうか 人は空の底にいて 水面を行き交う雲を見あげて 空のひろさを抱えている 響きわたる喉笛に 夢の居場所をさがしている 街をさまよう星の子よ 壁でさえぎる日かげの道で 右往左往に明け暮れて 何を追いかけているのだろう ©2024 Hiroshi Kasumi

        • 【詩】渇き

          田んぼは 口を開けて 喉を干している 光のしぶきに 乾いた地肌をさらして 冷めた目を さぐっている 浮かんだ影のすき間を 雲の吐息が 舐めていく 目覚めを急いだ無数の命が せわしなく啄ばまれ 競うように 失くしていく 涸れた土手で 緑と黄いろのとりどりが 背伸びをはじめている ひたすら 風のゆくえを 見守り続けた 茅の穂が 疲れて ひれ伏する 茂みの裏で 抑えきれない 右往左往がうごめいている 山の眺めも 森の姿も 風のにおいも 空の高さも 凍えきった呪縛を解いて 回帰を

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        • 【詩集】自然派
          76本
        • 【詩集】宮崎にて
          20本
        • 【詩集】イタリア紀行
          9本
        • 【詩集】多摩・武蔵野
          18本

        記事

          【詩】失業者と猫

          今夜、おまえの温もりで すこし、夜更かししていたい あしたの朝は、ゆっくりだから しばらくは、毎日が日曜日 いつまで、みつめたところで 慰めに、なりはしないけど 澄んだ瞳の、みずうみを 風が、通りぬけていく 深いため息を、聞きながら 今夜は、ずっと、こうしていたい 過ぎた夢の、さざ波が 手放した、ともし火の名残りを追って 闇夜の海を、およいでいる 髭を舐め、爪を逆立て 仔猫のように、あまえて欲しい 明日を、思い煩うこともなく 潮が、寝息をたてるまで 身を揺らす、咆哮が 声を、

          【詩】旧友

          四十年ぶりに会う君は あの頃と おなじ 約束の時間に すこし 遅れてあらわれた あの頃と 変わらないまなざしで 白く変わった 髪のむこうに 記憶の底を さわっている おなじ庭の おなじ樹の まだ あおい かさを被った団栗が はなればなれの森にまかれて とどかない 空をめざし 芽吹き 枝を張り 葉を繁らせた あの頃と おなじ顔いろで 変わらない 手つきで酌みかわし ともにすごした月日より 遥かに ながい時間の切れ端を うなずきあい なぐさめあい 旨味も 苦味も かみしめあう

          【詩】落涙

          雨あがりの くだり坂を 風が 力まかせに駆け降りてくる 春をうながす 烈しい息吹きに 樹々は 容赦なくおそわれている 千切られて 枝をはなれた無数の葉が 煽られて 転がりながら 繰りかえす 殴打を浴びて 我もわれもと 斜面をすべる 背中にしょった おもいの丈を 渇いた声で 吐き出しながら 坂にまかせて 堕ちてくる ちりぢりに ばらけて 渦巻く 奔流の行く手に 待ち伏せるのは 絶望だけだ どのみち 吹きだまりに身を寄せて 萎びて 朽ちてゆくのだから 樹は くびを大きくよじらせて

          【詩】輪廻

          今年も春がやってきました 風が、やさしく撫でていきます 田んぼが喉を鳴らしています 蛙が声を交わしています 陽は、あまりに眩しいけれど 曇れば風がひんやりします 時おりの、雨が一面をうるおして 大地に、目覚めをうながします うごめく、無数の生き物が 息の根を軋ませながら ふやけた肌に、血と汗をたぎらせ 無数の匂いを追いつ、追われつ 飢えの連鎖を、満たします 陽は、目を見ひらき 飽食の舞台を、照らしています 悲劇は、あまりに軽やかで こざかしい音を立てるのです そこに、嘆きも哀

          【詩】背中のむこう

          真一文字の水平線に しろいネコが 浮かんでいる 波のひだを 見おろして 日ざしを 浴びている とおい空のむこうから 風は絶え間なくおし寄せる たどりついた岸辺に 砕けて 力つきて ネコは 薄目をあけて 寝ころんで 眺めている 地球が 本当に まるいのなら みつめているのは 自分の背中だ ネコは 風にうずくまり 水面と宇宙の 深々としたすき間に 突き抜ける 紺碧を見すえている 肩に担ぐ 奈落に浮かんだ しろい 瀑布の先を ©2024 Hiroshi Kasumi

          【詩】背中のむこう

          【詩】春よ

          冬が過ぎ 乾いた大地が溶けてゆく 土は ほどけて泥となり 隠されていた 鼓動が 風に くすぐられ 想いのまま さ迷いはじめる 凍えた大地に 幽じこめていた たくらみが 痩せた素顔をあらわにして 軋むとびらを開けはなつ 日々は変わらず過ぎていく うごめく影を見ないふりして 傷痕を 嘘でぬぐい 涙の得体をわすれてしまう 草むらに 花弁の粒が肩をならべて 瞳を 震わせている ©2024 Hiroshi Kasumi

          【詩】引力

          水平線のむこうから 海の吐息が押し寄せてくる その背中に、しずかに浮かんだ 船の影が、はこばれてゆく 潮の流れのはげしさを しばし忘れて 滑るように、引かれてゆく 海のあおさと、風の冷たさと 陽の熱にさらされて 汐は月にみちびかれ 満ち干を重ねているという 瞳にあふれる涙は 星がたぐっているのだろうか 岸に砕ける慟哭が とめどなく、叫びを繰り返す 力まかせに叩くたび 千のしぶきを、空に散らして ©2024 Hiroshi Kasumi

          【詩】予感(春)

          突堤で 川面をみつめている 尾を振り 首をかしげて 水の行くえを 追っている 昼は 日に日に歩をひろげ 枯れた土手が 萌えて 人知れず ちいさな花が 黙って 揺れている 空は ぬくみを抱えて 風の背中に 追いすがる ふり注ぐ 眩しさと こみ上げる 高鳴りに 濡れた産毛を 羽ばたいて 華奢な踵で 伸びをする 揺らぐ水面に 目をこらす 波紋が 雲を追いかけていく 声が もやを散らして あおい空に 突きぬけていく ©2024 Hiroshi Kasumi

          【詩】海はこんなに

          こんなに空は大きくて こんなに海も大きいけれど 空はこんなに青くて 海は もっと青いけれど こんなに空は高いのに 空はあんなに静かなのに 海は あまりに声をあげて 空はあんなに遠いのに 海は あまりに悩ましい 空と海の境界線に ポツンと浮かぶ一艘の船 何をしるべに ゆくのだろうか 空はこんなに広いのに 海はあんなに深いのに 人は あまりにちっぽけで 岸辺にそそぐ水際で 俯いて 浮いているだけ ©2024 Hiroshi Kasumi

          【詩】海はこんなに

          【詩】川浚い

          水底をさらっている 腕づくで 力まかせに 川床をかきまわし 濁りを掬って 土手のむこうに放り出す 喉につかえた 焦りも 気がかりも もろともに 濁りの渦に絡めとり 波打つ淀みに しのび込ませて 淵に宿す 忘れられた約束は 声もあげず さらわれ 濁りにただよう おびただしい屍が 何事もなかったかのように 血でよごしている ©2024 Hiroshi Kasumi

          【詩】沈視

          川面は口をとじたまま ふるえるもなく ゆらぐもなく やましさも、うしろめたさも みつめるまま 滔々と あせりも、しらじらしさも わすれて 見あげている 青々と、つめたく 淵のひなたを突きぬけて さわぐもなく ほどけるもなく つかの間、眺めをかかえたまま 手ごたえなく たいらな淀みを通りすぎる 羽をほして 瀬にうつむく姿だけ ため息に くるまって ©2024 Hiroshi Kasumi

          【詩】 空のかぼちゃ

          裏庭の 柿の木に かぼちゃの実が なっている いくつも 大きな顔で ぶらりぶらりと 吊られている こっそりのばした 縄のはしごで 節くれだった 背中をのぼり ちゃっかり おぶわれて ここが居場所と 決め込んで 空に浮かぶ くろい影 畑を抜けでた はぐれ弾 きわどく繋いだ 蔓にすがる 約束のない みなし児だ しがみつかれた 柿の木は あり得ない 重みに動ずるもなく 採りのこされた あかい実の あまく熟した ほとぼりを ひっそり かざしている 場ちがいな 同居の宇宙 突き

          【詩】 空のかぼちゃ