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被告【岸田文雄】判決文感想

公職選挙法違反起訴猶予損害賠償請求事件の判決についての批評文

◎事件の概要
 令和5年12月8日広島県南区比治山町において原告は、自民党総裁岸田文雄氏の政治活動のために使用する看板が同人物の所有する事務所ではなく、無関係の田邊博之氏(以下「田邊」と呼ぶ)の所有する畑に面したフェンスに無断で掲示されていたのを見て、憲法15条1項で保障される選挙権、民法1条の信義誠実を侵害され、精神的苦痛を受けたと主張し、10万円を請求した。尚、田邊はこの件で公職選挙法事件として訴訟を起こしており、その際の判決は不起訴であり、その要因が起訴猶予であったことを裁判所は認めている。
また、この事件においての被告は岸田文雄氏であり、同人物は読者もご存じの通り、現在自民党総裁を務めており、第101代総理大臣として政務を執りしきっている。今回の判決には総理が敗訴した場合の社会的混乱を鑑みて、裁判所側が忖度していることをご理解いただきたい。

◎判決
 私の意見としては、原告の主張は通りにくいと思います。理由としてはまず、原告の主張した民法1条の信義誠実とはかなり広義であり、実務の世界では、法律論で「信義則を主張したら負け」と言われているほど、定義が曖昧だからです。おそらくこの原告は、被告岸田文雄氏が公職選挙法を違反しているにもかかわらず、起訴猶予でその罪を逃れているところを見て、不誠実な行動をされたと思い訴訟を起こしたのだと思います。しかし、前提条件として事件前、原告が岸田文雄氏のことを信用していたという証拠がどこにもないため、この主張は通らないと思います。
しかし、憲法15条1項で保障される選挙権を侵害されたという主張は的を少し得ており、この主張がされていたため私は上記の結論で「通りにくい」という曖昧な表現をしなくてはならなかったのです。まず、判決文を見てみると「上記看板の提示により、原告の選挙権の行使が困難になったなどの事実を認めるに足りる証拠はない。」とあります。しかし、実際ここに看板があったため票を入れたということもなくはないのではないでしょうか。例えば、岸田文雄氏は自民党総裁ということもあり、有名人で知名度が高く、ここに看板がなくても票数が大幅に変わることはないでしょう。しかし、知名度もない初立候補で無所属の議員の場合はどうでしょうか。もしかしたら、ここに看板を置いたことで通り掛けに見た人たちが、その立候補者に票を入れるかもしれません。屁理屈に聞こえるかもしれませんが、政治に関心のない若者が多く、党の名前だけでどの立候補者に投票するか選ぶこの時代の人々にとって、政治活動用の看板というのは数少ない新しい政治家と出会うチャンスでもあると私は考えています。そのため、選挙の平等性を犯したとして被告岸田文雄氏を公職選挙法違反として訴訟してもよいのではと思ったのです。しかしながら、原告がここで訴えているのは看板を見たことによる精神的苦痛です。この主張はかなり広義で使われるため、通る可能性はあまりないのではないでしょうか。私個人の視点から見ると、原告は自民党をあまりよく思っていなかったため、批判する要素を見つけて感情のままに訴訟したのではと見えます。感情論を用いて裁判で勝訴をする確率は少ないため今回の不起訴は裁判する前から半分決まっていたと言っても過言ではないのではないでしょうか。
◎疑問点
私は、今回の裁判結果を見て「田邊が政治動用の看板の設置に関する公職選挙違反事件で不起訴処分になった事実、その理由が起訴猶予であった事実は認め、…」という文が気になりました。これは、仮に田邊氏が今回の件で公職選挙法を被告岸田文雄が犯していると訴訟したとしても起訴猶予であったとした文章です。私はこの文章に違和感を持ちました。なぜなら、被告岸田文雄氏が現自民党総裁であり、特別であるというのは上記のとおりの事実ですが、そのことを加味した上でもこの判決は、流石あり得ないと感じたからです。
刑法第206条 他人の建造物又は艦船を損壊した者は、五年以下の懲役に処する。よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。
刑法第206条 他人の建造物又は艦船を損壊した者は、五年以下の懲役に処する。よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。
軽犯罪法第1条 左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
33 みだりに他人の家屋その他の工作物にはり札をし、若しくは他人の看板、禁札その他の標示物を取り除き、又はこれらの工作物若しくは標示物を汚した者
軽犯罪法第1条 左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
33 みだりに他人の家屋その他の工作物にはり札をし、若しくは他人の看板、禁札その他の標示物を取り除き、又はこれらの工作物若しくは標示物を汚した者
注:しかし、二つ目に提示した建造物損壊罪は、張り紙が建物の原状回復が難しくなるほど強固に貼られている場合や原状回復に費用がかかる場合のみでしか法に抵触しない。また、他人の許可なく他人の建造物にポスターを張った場合に違法になるかもしれない罪状、威力業務妨害罪・為計業務妨害罪(脅したり圧力を家事けた場合に生じる刑罰)、強要罪・脅迫罪(本来なら義務ではないことを無理やりやらせようとした場合に生じる刑罰)、名誉棄損罪・侮辱罪(相手のことを傷つけようと相手にとって不名誉なことを書いた場合に生じる刑罰)は、この件で貼られたのが政治活動用のポスターである為、成立しない。
 上記を繰り返しますが、こんなに立派な犯罪が二つも成立しているのに起訴猶予ははっきり言ってあり得ないです。

◎この件を通して
私は田邊の裁判の件を見て、岸田文雄氏(内閣)と裁判所(司法)が分立できていないのではないかと指摘します。そもそも司法権とは憲法76条で「すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する」と決まっています。にもかかわらず、この判決では明らかに政治家への忖度が行われています。この例を見て、私は忖度の範疇を超えていると断言します。この例の政治的意味合いは極わずかですが、日本政府が掲げる「三権分立」という原則を犯しているという意味合いは非常に大きいと思います。

◎追記
草案65 条で「この憲法に特別の定めのある場合を除き」としたのは、
草案において、内閣総理大臣の「専権事項」として、次に掲げる3 つの権限を設けたことに伴うものです。

① 行政各部の指揮監督・総合調整権(72 条 1 項)
② 国防軍の最高指揮権(9 条の 2 第 1 項、72 条 3 項)
③ 衆議院の解散の決定権(54 条 1 項)

以上の 3 つの権限は、総理一人に属する権限であり、
行政権が合議体としての内閣に属することの例外となるものです。
なお、現行憲法下においても、例えば次のような権限などは、
広い意味での「行政作用」に含まれる権限ではありますが、
憲法上、明文規定をもって内閣以外の機関が行うこととされており、
これについても、本条の「この憲法に特別の定めのある場合」に該当することになります。

④ 会計検査院による決算についての検査(90 条 1 項)
⑤ 地方自治体の地方行政に係る権限(第 8 章・地方自治)
草案65 条で「この憲法に特別の定めのある場合を除き」としたのは、
草案において、内閣総理大臣の「専権事項」として、次に掲げる3 つの権限を設けたことに伴うものです。

① 行政各部の指揮監督・総合調整権(72 条 1 項)
② 国防軍の最高指揮権(9 条の 2 第 1 項、72 条 3 項)
③ 衆議院の解散の決定権(54 条 1 項)

以上の 3 つの権限は、総理一人に属する権限であり、
行政権が合議体としての内閣に属することの例外となるものです。
なお、現行憲法下においても、例えば次のような権限などは、
広い意味での「行政作用」に含まれる権限ではありますが、
憲法上、明文規定をもって内閣以外の機関が行うこととされており、
これについても、本条の「この憲法に特別の定めのある場合」に該当することになります。

④ 会計検査院による決算についての検査(90 条 1 項)
⑤ 地方自治体の地方行政に係る権限(第 8 章・地方自治)
(日本国憲法改正草案Q&A増補版より引用)

いくらきれいごとを並べていて、条件も複雑であるとはいえ、自民党がこの条文を通した後にしたいことは、「司法権よりも行政権の方が上であるという事実を作り、司法権を脅かす」ということです。私は、もしこの法案が通ってしまえば、被告側が政治家、内旨それに属する親族や権力者であった場合の裁判結果が有罪であっても、裁判所側が彼らに忖度し、起訴猶予と判決してしまう事例が増えると確信しています。もしかしたら、今回の田邊の起訴猶予は、裁判所側が自民党のこの憲法改正の動きを見て、憲法改正後の自分の立場を顧みて彼らに忖度したものなのかもしれません。


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