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kichijiの詩

9
詩集
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9 昨日の愛

9 昨日の愛

ホンの少し前のこと
私は「真理」という言葉を使えなかった
真理の周りに渦巻く虚偽の煙が先に見えてしまったから

ホンの少し前まで
私は「魂」という言葉を使えなかった
その言葉にまとわりつく
胡散臭い汚らしいものがベタつくから

つい昨日まで
私は「愛」という言葉が使えなかった
キラキラと装飾されスポットライトを浴びた言葉など、使うものかと決意していたから

真理も魂も愛も
私が欲しくて欲しくて仕方

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8 私の目をとおして

8 私の目をとおして

神よ
私の目をとおして、ご自分の作品を見るがいい
この美しい絵を
この素晴らしい作品を

神よ
あなたが創りたもうた
この荘厳な叙事詩を
一日のラストシーンを
最後の物語を
58歳の衰えた私の目をとおして味わってほしい

なんと神々しい
なんと美しい
言葉に置き換える行為を醜いと思うほど
あなたの作品は崇高で美しい

全ての人間に配られた作品鑑賞のチケットを使う人は少ない
私は独りで江戸川の河川敷

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7 さらさら

7 さらさら

さらさら

水の流れる音を聴け
さらさら
ぽこぽこ
ごうごう
流れる
流れろ
さらさら、さらさら

血液の流れる音を聴け
とくとく
どぐどぐ
ざあざあ

とらわれるな
淀むな
愛憎も執着も
どうにも整理のつかない、この屈辱も
後悔も
流れろ
さらさら
流れて流れろ

この曲がり角にとどまらず
わだかまらず
しがらみの隙間を抜けて
さらさら流れろ
さらさら
さらさら

確実に流れる時間のように
季節

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6 冬の月

6 冬の月

冬の月

君は昨夜の月を見たか
びょうびょうとなく風の中
黒雲の濁流が乱れる中
忽然と
微動だにせず
ただ満月がある

不吉なまでに美しい
その恐ろしさに眩暈がする

君は昨夜の満月を見たか
あの月光を浴びたか
悪意に満ちた月光は
人の善良を踏みにじる

抑え続けた破壊の欲があふれ出し
男は狼に化身する
隠しに隠した淫蕩が、にゅるりにゅるりと頭をもたげ
女は蛇に姿を変える

君は昨夜の月光を浴びた

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5 ご褒美

5 ご褒美

こんな気分
こんな哀しみ
こんな寂しさ
こんな虚しさ

こんなの、もう何度もあった
その度に私は一人で越えてきた
だから今度も大丈夫
私は一人で越えられる

うきうきした気分も
こんな気分も
一時のこと
数日のうちに綺麗に消える

うきうき気分は一瞬で煙のように無くなるが
こんな気分は澱のように
私の身体のどこかに溜まる
そう溜まっていく

ほら、今日は上手に酔えたじゃないか
この身体に溜まったも

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4 YES

4 YES

Yes

はい
Yes
All light
結構です
良いです
わかりました
了解
承知




そう、今こそ肯定の言葉を
全ての受容を
多くを諦めて
多くを捨てて

今こそ承認の言葉を

私を殺して
私のために

3 35歳の切望

3 35歳の切望

35歳の切望

嗚呼、果物が食べたい
瑞々しく新鮮で
初夏の香りに溢れる
あの果物が食べたい

甘く、酸っぱく
プチプチと弾ける果肉で
おもうさま身体を満たしたい

あの爽快
あの充実
あの懐かしい生き生きと漲るものを
もう一度味わいたい

嗚呼、あの果物が食べたい
もう一度
もう一度

若くありたい

2 この世で一番のもの

2 この世で一番のもの

この世で一番のもの

膨らんだつぼみ
夏の終わりの蜩
幸福な子供時代
口いっぱいのクリーム
きときとのお魚
お日様の匂いのお布団
湯気で溢れる朝風呂
子供の笑い声の目覚まし
西日のなかの昼寝
暖かいあなたの抱擁

1 美しい言葉を探そう

1 美しい言葉を探そう

美しい言葉を探そう

至誠・善意
真摯・正直
高潔・純粋
品格・情愛

美しい言葉を探そう

春うらうらの花の下で
あなたと二人でひとつずつ

美しい言葉を探そう