見出し画像

てくてく北へ #8 「東北・北海道の旅」(森山智仁)


【この連載について】
フリーライター・森山智仁さんが、2023年4月から半年間、鹿児島から北海道まで各地の山に登りながら、ほぼ徒歩で日本縦断する旅「#日本縦走」。このチャレンジを「食」の観点から綴るフォトエッセイです。ついに旅も終盤、この連載もセミファイナルとなりました! 森山さんの旅の様子は、Twitteryoutubeから、リアルタイムで発信中です。
前回の記事はこちら


あの奥にも山々がある

岩手山は東の盛岡側から見ると独立峰のように見えますが、実際には奥羽山脈に属しています。江ノ島や函館山みたいな感じと言えば伝わるでしょうか。大きく飛び出してはいるけれど一応繋がっている状態。その橋のようなところを通る形で、秋田駒ヶ岳・乳頭山から続けて岩手山に登り、東へ下りてきました。

岩手山で見た御来光

5日振りに入ったコンビニでプロテインを飲み、その日の宿「ユートランド姫神」へ。岩手山の焼走登山口と盛岡駅の中間あたりという辺鄙な場所ですが、温泉は地元っぽい方々の日帰り入浴で賑わっていました。

由来はユートピア+ランド……かな?

温泉旅館というより泊まれる健康ランドという印象で、お料理に格別の期待は寄せていなかったのですが……

侮るなかれ

うおお、うまい……! 唐揚げは衣薄めで、個人的に唐揚げの理想形。サクサクジューシーという定型表現を使ってしまうのが悔しいほどです。ひっつみ汁(左上)もいいダシが出ていて超おいしい。ここに、接客の良さをふたつまみ。フロントのおじさまは温泉から出た時「疲れ取れました〜?」と声かけてくれたし、レストランのおじさまも言葉の発し方に思いやりが感じられ、温泉以上の回復効果がありました。

お部屋は寛ぎの和洋折衷

思い返せば、このユートランド姫神に限らず、健康ランドっぽい宿泊施設の食事が想像以上に「うめえじゃん!」ってことは度々ありました。老舗温泉旅館こそ至高と思いがちですが、低山でもしばしば絶景が見られるように、腕の立つシェフは意外と近いところにもいるものですね。

雪中行軍遭難事故で有名

青森県に入り、八甲田山に登って酸ヶ湯温泉に下山。人生で初めて混浴を経験するチャンスだったのですが、足がすくんで無理でした。でも男女別の湯でも十分癒されたし、歴史ある湯治場と現代的なラウンジが融合した感じは面白かったです。そして食事。

いただきます!

オリジナルのペールエール、お高いだけのことはありました。「酸ヶ湯」という名称からの思い込みかもしれませんが、独特の酸味みたいなものがあって、変わりダネ好きな自分にはドンピシャ。帆立の酒盗(中央)との相性が抜群です。お米と汁物は自分でよそってくるのですが……

ほああ……(合掌)

きのこたっぷりのつみれ汁が神。すごい密度でうまいものしか入っていません。これだけでごはんが無限に食べられそうだし、大鍋からいくらでもよそってきていいのに、なぜ自分の胃は有限なのか。いや、限りがあるからこそ尊いのか。

とうとう本州の端まで来た

ところで、この旅ではSNSで「おすすめの食べ物教えてください!」的なことを一切言っていません。なぜなら、徒歩って機動力が絶望的だからです。基本的に、すでに固めてあるルート上のお店にしか立ち寄れません。せっかく教えてもらっても行けない可能性が高いわけです。
 
が、行けるところなら喜んでGO! 当連載の第6回では長野のおいしいお蕎麦屋さんを教えてもらいました。そして青森では、YouTubeでも仲良くしていただいている「山のおじさん」からこんな情報が。

行ってみると行列ができていて、最初はヤメようかと思ったんですけど、並んだ甲斐がありました。

どーん!

長過ぎる名前から、ごちゃごちゃした闇鍋系のキワモノを想像していたら、良い意味で裏切られました。牛乳とカレーの主張がそんなに強くない! あくまでもメインは味噌で、牛乳とカレーとバターはコクを与える裏方。調和の取れた上質な味噌ラーメンでした。

青函フェリーで人生初の北海道へ!

九州・四国・本州で登った山々を思い返しながら津軽海峡を渡り、ついに北海道上陸! 函館で「とりあえず海の幸に挨拶せねばなるまい」とキョロキョロしていると、都合よく「どんぶり横丁」を発見。

「史実(ふみ)」のいか・イクラ丼とほっけのセット

おふぉふぉ(笑)。イクラやば。頬張ったら自然と笑顔になってしまいました。おいしいものってすげーや……行き渡ったらきっと世界は平和になる……

「まるかつ水産」のトロトロのウニで二度目の笑顔

洞爺湖の中島を歩いて一周するはずが、強風のため立ち入れず、羊蹄山は大雨で登れず、思い通りにいかないこともあったのですが、洞爺湖の湖畔のゲストハウス「リポーゾ」ではまた新しい味に出会えました。

見たことのない料理

「鶏のオレンジ煮です」と説明され、「鶏のオレンジ煮……!?」と訝しみながら食べてみると、本当に鶏のオレンジ煮でした。言い表すのが難しい。でも、めちゃくちゃおいしい。確かに鶏の味もオレンジの味もして、ケンカしていません。こんな組み合わせがあったとは驚きです。FF5の薬師の「調合」が反則級に強いのを思い出しました。

朝は優雅に

パンにつけるやつ(上)が蜂蜜・ジャム・バターの三種。「ルバーブ」という植物を初めて耳にしたのですが、ジャムはルバーブ&ブルーベリーのオリジナルでした。鶏とオレンジが異色のコンビなら、こちらは正統派ユニットという感じ。濃厚でありながら爽やかさもあって、おかわりのパンもあっという間に完食。蜂蜜はヨーグルトにもよく合いました。

16階に屋上露天風呂

できるだけリーズナブルな宿を選ぶようにしているのですが、「札幌の奥座敷」と呼ばれる定山渓温泉には立派なホテルしかありませんでした。「じゃあ仕方ないよね」と言い訳しながら定山渓ビューホテルに投宿。

国賓の部屋かな?

こんな良い宿に泊まったらごはんはおいしいに決まってるわけで、わざわざ紹介するのはどこか悔しいような気持ちもあるのですが、そういう庶民の抵抗感はあっさり打ち破られてしまいました。

もしや「渓谷」を表現している……?

前菜の中では特に「蓴菜の梅酒風味」(ヤングコーンの右上)がおいしかったです。立ち昇る非日常感。機内誌とかで「おいしそ〜」って眺めてたやつが目の前に出てきたみたい。

ふつくしい……

刺盛は帆立の昆布巻きがクリティカル。東京にいる間は帆立って「普通に好きだけど食べ過ぎたら気持ち悪くなりそう」って存在だったんですが、北国の帆立、旨いッスね……! しつこさがなくて、いくらでも食べられそうです。

フタが開かれた時の喜び

こちらは鯨頬肉の陶板焼き! すんごいやわらか。野菜と一緒ににんにく醤油につけていただくと、口の中が夢の世界になりました。

すすきの交差点

大都会・札幌では、キタノステラの編集長にして、僕の動画のナビゲーター・やまこのイラストを描いてくれているチヒロさんが、お友達と一緒にビアガーデンで歓迎会を開いてくれました。

茜空の下で肉と酒

久々に知った顔を見て一安心。一ヶ月以上前からDMで打ち合わせしていたこともあり、この会が自分の中で一つの節目となっていました。残り三週間と少々、最終章のスタートです。

やまこが現実世界に!

チヒロさんが作ってくれたアクリルスタンドを携えて、大雪山系の旭岳・トムラウシを縦走し、阿寒岳・斜里岳・羅臼岳でゴール。「てくてく北へ」というより「てくてく東へ」となりますが、もうちょっとだけお付き合いください。

【北海道上陸から8日目・羅臼岳まで車道最短距離で418km】 
 


文・写真:森山智仁
Twitter:https://twitter.com/bacoyama
blog:https://moriyamatomohito.hatenablog.com/

●森山智仁のyoutubeチャンネル「東京登山」
https://www.youtube.com/channel/UC0HDQAfdJHYJtPpHgJUds1Q
Twitter:https://twitter.com/yamako_yamalove



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?