掌編小説 イス


「先輩、それ、何やってんスか?」

「え? あぁ、ぺこぺこになってたイスの座面張り替え」

「へ? 先輩、そんなん出来たんスか」

「あぁ〜、やったことはないけど、やってみる。
 すわんの、あたしだし」

「ふーん」

小太鼓こだいこ先輩は、ヘンテコだ。
特に季節の変わり目には、“模様替え”と言って、
めんどそうなことをちびちびと隙間時間に、ひとりでやっている。

なんかを作ったり、リメイクするときには、ジージャンタイプのジャケットを羽織っている。足元は普段から動きやすそうな靴。小太鼓先輩にとってのメイク道具は、たぶんお化粧道具より大工道具?(あとできいてみたら、いや、じぶんがあんまり知らないだけで、化粧道具も、いろんなかたちと機能があっておもろいなぁといっていた)

3月から4月になる頃は、目詰まり気味だったカーテンレールの付け替えをするよといったとか思えば、ついでだからさぁ〜と、ささっとカーテンもシンプルな素材に変えていた。

お昼休みのランチタイムだっていうのに、先輩は一緒にいてあきへん。

きょうも、電動のドリルや、でっかいホッチキスのようなもンを、どっかから持ってきてた。

いつも、はじめに、まず、全体をぼんやりと見てる。そんで、じぶんのタイミングやペースで取り掛かる。ゆっくりと元の素材を外しながら、時にはまた手をとめてその仕組みをじーっと見ていたり、留め具なんかも(bowlのような)銀色の受け皿とか、(小分けの付いた)お菓子の箱を使ってネジを1個ずつ丁寧に入れていく。

ときどき、「あ、そっか」とか「へぇ〜、すごいなぁ〜」、「え?どういうこと?どういうこと?」「ここんとこが、わけわからんことだけは、わかったぞ」とかひとりごとをぼそぼそと言っている。紙にえんぴつでメモしたり、図を描いたり。そのあいだわたしはとなりで紙パックの飲みもンをストローで飲んでる。

先輩の机の上には、絆創膏の箱がしょっちゅう寝っころがっている。

どうやら、イスの座面張り替えは、2、3日かけてすることにしたらしい。(いまは、余ってた代用のを使ってる。)

先輩は「新茶の季節だから〜」と言って、急須を持って給湯室へ向かった。「お茶、のむ?」ときかれたので、「あ、はい、いただきます」とマグカップを手渡す。

イスのクッション部分をなでながら、
「どんな布にしよっかなぁ」と先輩。

湯呑みとマグカップには、新茶の緑が彩りをそえている。

あしたは来る道すがらにある和菓子屋さんに寄って、季節の和菓子をちょこっとたずさえてこようっと。

「どんな布にしよっかなぁ〜、わたしも」
机の上で、ミシンをかける動きをした。




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