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バンザイ

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自伝的青春小説
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記事一覧

自伝的小説 『バンザイ』 最終章 永久的リメンバー娘

自伝的小説 『バンザイ』 最終章 永久的リメンバー娘

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 アラームが鳴る。
 目を覚まし、しばらく放置してからそれを止める。時刻は七時半。ウトウトしているとまた携帯が震える。すぐさまそれを止め、またウトウトする。そんなことを繰り返し、七時五十分まで粘り、ようやく重い身体を起こす。

 風呂場の洗面所に行き、電動歯ブラシを濡らし、歯磨き粉を付け口に突っ込む。鏡で寝癖と顔をチェックする。そのまましばらく磨き、終わったら口を濯ぎ、今度は電気シェー

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自伝的小説 『バンザイ』 第十章 悲しみの果て

自伝的小説 『バンザイ』 第十章 悲しみの果て

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 何も考えることができなかった。

 親が買ってくる飯を口に運び、あとは布団の上で眠るか寝転がるだけ。誰からの連絡も返さない。テレビを見てもネットを見ても何も感じない。風呂には入ることができなくなり、身体を擦ると消しゴムのカスのような垢がたくさん出てきた。

 何をしていたのか覚えのない時間が三ヶ月過ぎた。その間一度も風呂に入らなかった。消しゴムのカスはピンポン玉サイズの塊になっていた

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自伝的小説 『バンザイ』 第九章 ぼくたちの失敗

自伝的小説 『バンザイ』 第九章 ぼくたちの失敗

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 誕生日はタマと過ごした。いつものように横浜でデートをし、ホテルに行った。そういうことをする気にもならなかったけど、なんとなく流れで一度した。そのあとはずっと横になっていた。

「元気ないですね」

「そんなことないよ」

「だって、今にも死んじゃいそうな顔してる」

「そう?」

「うちと一緒にいても楽しくないですか?」

「……そんなことないって」

「じゃあ、はい。ギューってしてあ

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自伝的小説 『バンザイ』 第八章 罪と罰

自伝的小説 『バンザイ』 第八章 罪と罰


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「こうやって普通にデートするの久しぶりだよね」

「そうですね。御茶ノ水の時以来ですかね?」

 横浜の赤レンガ倉庫に来ていた。僕の左腕はタマの右腕と組まれている。

「なんか、すげー恥ずかしいんですけど」

「うちもですよ。お酒飲んでないとやってられないです」

 ショッピングモールを歩いて回る、ごくごく普通のデート。お互い空いている手には酎ハイの缶を持っていた。

「彼女できるの、

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自伝的小説 『バンザイ』 第七章 空も飛べるはず

自伝的小説 『バンザイ』 第七章 空も飛べるはず

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 東京都八王子。二十三区外にある名の知れた街。何度かライブをしに来たことはあるが、駅の外れまで歩くのは初めてだった。僕らは四人は全員ソワソワと落ち着きなく、駅からの道のりを歩いた。お兄ちゃんが加入してからは初めてのレコーディングだ。

「あー、やばい緊張してきちゃったよ」

 ホシくんが不安そうな顔で震えている。

「大丈夫だよ。今日は説明と見学だけらしいし、文化祭も明日からだし」

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自伝的小説 『バンザイ』 第六章 深夜高速

自伝的小説 『バンザイ』 第六章 深夜高速

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 大学の屋上にいる。理由はこうだ。

 僕とタマは度々会う機会に恵まれた。場所はいつもライブハウスだった。定期的に開かれる轟音祭で対バンしたり、ライブを観に来てくれたり、観に行ったり。不思議と僕らは、どこかのタイミングで二人きりになった。そしてお互いにいつも酔っぱらっていた。恥ずかしくてシラフではまともに話せなかった。

 酒の力を借りれば、ドラマチックなセリフだって平気で言えて

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自伝的小説 『バンザイ』 第五章 everything is my guitar

自伝的小説 『バンザイ』 第五章 everything is my guitar

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 少し時間が過ぎた。
 季節はもう冬になっていた。

 僕はいつものように音を出し、働き、飯を食い、そして眠っていた。
 
 変わった点はただ一つ。あの子と連絡を取り合うようになっていたこと。下北沢でのライブ日、酔っ払いついでに連絡先を交換し、そこからずっとやり取りをしている。

 初めて彼女から来たメールは、「月が綺麗ですね」という言葉から始まっていた。深い意味はないかもしれな

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自伝的小説 『バンザイ』 第四章 天井裏から愛を込めて

自伝的小説 『バンザイ』 第四章 天井裏から愛を込めて


  4 

 赤信号を待つ。目の前には横断歩道を渡る、複数のサラリーマン。ヘッドライトの光が足元を照らす。

 敷かれたレールからは決してはみ出さず、無理も無茶もせず、現状維持、腹八分目、省エネルギー、毎日同じことを繰り返し、貯金をし、年金を払い、老後の準備をし、ゆっくりと、のほほんと、まったりと、焦らずに生きていく。
 僕には理解できないこと。

 信号が青に切り替わる。ラーメン屋の行列を横目

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自伝的小説 『バンザイ』 第三章 ドアをノックするのは誰だ?

自伝的小説 『バンザイ』 第三章 ドアをノックするのは誰だ?

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 真夜中。外を走る。息を吐き、そして吸い込む。首筋には汗。イヤホンからはロックが流れる。最近はこのバンドばかり聴いている。ドラムが頭おかしいくらい上手いスリーピースバンド。自分の呼吸音すら聴こえなくなる。BPMに合わせて、順番に足を蹴り上げる。しばらくすると、赤信号にぶつかる。呼吸を整え、ストレッチで身体をほぐす。音楽と向き合い、自分と向き合う時間。

 走ると自分の弱さが浮き彫り

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自伝的小説 『バンザイ』 第二章 リンダリンダ

自伝的小説 『バンザイ』 第二章 リンダリンダ

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 今月のライブは二本決まっている。下北沢は一昨日終えたばかり。そして今日は蒲田だ。昔からよく出させてもらっていて、今でもお世話になっている、蒲田トップスという名のライブハウス。

 高校生の頃、初めてコピーバンドで出演したのが始まりだった。初めてのライブで僕はクボタたちと出会った。まだクボタとホシくんは、もう1人のメンバーを連れたスリーピースバンドだった。僕らは高校の友達や地元の友達が混

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自伝的小説 『バンザイ』 第一章 東京少年

自伝的小説 『バンザイ』 第一章 東京少年

  まえがき

 この物語を書くにあたって決めたことがある。
 それは、『何が何でも書き切る』ということ。
 それも、二十代のうちにだ。

 僕は現在二十九才で、あと数ヶ月で三十才になる。
 三十才になってしまったら、色んなことがやりにくくなるかもしれない。つまらない大人になってしまうかもしれない。初期衝動のようなものを出せなくなってしまうかもしれない。ドントトラストオーバーサーティ、なんて言葉も

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