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技術はなにと比較されるのか?

最近は後輩(若い世代の飲食業界の人)に対して相談を受けたり、DMが送られてきたりするので、色々と僕なりの考え方やアクションを伝えているのですが、それが思いの外気づきになっていたりするようです。

僕自身は特別なことだと思っていないし、当たり前の感覚だと思っていたのですが、改めて書き出してみる事で少しでも役に立つ人がいれば良いなと思います。飲食の人向けの内容にはなりますが、他のモノ作りの業界や表現者の方にも幾ばくか役に立てるのかなと思います。



モノ作りの仕事をしていると、自然と自分の作ったもので評価されるので、自分が良い物を作れば評価される!と思いがちなのですが、世の中はそう単純ではありません。

菓子屋なら、他の菓子屋との味の比較が1番最初にイメージすることだと思います。有名な菓子屋と比べて自分の作っているものがおいしいかどうか?これを最初の基準に置くのは至極当然です。

同じ業界内で比較をして、自分の作っている菓子の正当性を示したり技術力の比較をしたり。ほとんどの場合がAという店のシュークリームよりうちのシュークリームの方がBという理由でおいしいよね!みたいな話ですね。

これは僕自身も当たり前のようにそう思っていましたし感じていたので、正しい判断軸です。でもいくつもある軸の1つでしかありません。それを知っているかどうかで考え方が変わります。


業界人と一般人でみている範囲が違う。


これも僕がよくいう話なのですが、業界人と一般人でみている範囲がかなり違います。

例えばですが、料理のプロは料理の写真を見ただけで誰が作っているかやどんなレベルの技術を持っているかの判別が可能です。それは眼が肥えているからで、少ない情報からでも正しく判別できるからです。僕も写真を見ればなんとなく判別が可能です。

ここで問題になるのは、みんなが同じように判別できる!と勘違いしてしまうことです。自分が分かるからこそ周りも同じように感じている!と勘違いします。これが多くの問題を複雑化させます。

僕は料理は見ればなんとなく分かると言いましたが、例えばですが、髪を切ったばかりの人が三人並んでいて、それぞれのカットの技量とセンスを判断しなさい、と言われても正直主観でしか判断できず、判別なんてもってのほかです。

自分の専門領域以外は判断材料がないので、わかりやすく話題になっているかなどの情報が必要になり、情報だけで判別をしやすくなります。

この認識があるだけで、自分が作っているものの判別は基本的に一般の人は難しい、ということがわかり、自分が持っている1つの判断軸はあくまでも自分と同じような属性が持っているだけで、一般の人とは違う軸だということが理解できます。(当たり前なんだけどこれが重要)

そうなった時に、専門領域以外の一般の方にもわかりやすく自分の作るものの特徴や差別化のポイントを情報として持っていなければなりません。ものの判断軸を複数用意する、ということです。


世の中のなにと比較されるのか?


菓子屋は自分の作ったお菓子が、他の店舗のお菓子と味の部分で比較されると考えがちですが、実際にはもっと多くのポイントから比較されます。

味、値段、ビジュアル、立地などがお菓子としての比較には使われるでしょう。その中でも値段はお菓子だけで比較されません。1個数百円から数千円するお菓子の場合、その金額で他になにができるか?も比較の対象になります。

僕がレストランで働いている時に考えていたのは、一回の食事は2〜3万円、時間にして2〜4時間かかる体験で、これと比較されるものはなにがあるのか?という事です。

例えば、映画は1800円ほどで約2時間。それで泣いたり笑ったり感動したりできます。しかも同時に多くの人がその話題を共有できます。スポーツでもプロ野球なら2000〜10000万円と幅はありますが、3時間くらいで体験ができます。

価格と時間と体験価値で比較した場合、レストランでの体験の価値がどうやって判断されるのか、判断軸がいくつあるのか、判断するために必要なリテラシーはなんなのか?ということを考えていました。

単純に他店のレストランとの比較しか意識していないと、味や見た目や店の空間などにしか注意は向きませんが、そこにスポーツや映画、旅行なども検討できると、もっと体験の価値をあげなければいけないことがわかります。

人はお金を使う時に、近しい範囲だけでは比較はしないし、判断もしません。この金額があれば服も買えるし、日々の生活費にもなるし、貯金にもなる。こういったいくつもの可能性を超えて、お金を使ってもらえているんだという感覚をも持つことが大切で、そこまで考えた上で自分たちの体験価値を定義するべきだなと。

菓子屋にいて、他店の近しい競合との比較しかしない人と、コンビニもその他の体験も競合だと考えている人では、戦い方が全く変わるはずなのです。ましてやオンラインでの販売などをすると、実店舗とは違い、商圏という考え方もなくなるので、さらに無差別な戦いが始まります。

菓子屋が菓子の事しか考えていなければ、菓子屋にすら勝てなくなるという事です。しかもこれは短期では影響が少ないので、長期間じっくりと真綿で締められるようにじわじわと侵攻します。それが本当に危険なのです。


技術だけではない価値を定める。


僕は技術に対する自信はありますが、それだけで生き抜けるほど簡単な世の中ではないと様々なことから感じました。だからこそ、技術以外の部分へも意識を向けて、世の中の人がなにを軸にものの判断やお金を使う判断をしているのか?を考えて、さらに自分がなにをどうやって伝えれば良いかを考えました。

最初はPRやマーケティングという言葉に拒否反応もありましたが、知れば知るほど必要な要素で、正しく理解して、意思を持ってやり抜くことで大きな武器になるのだと実感しています。

全く同じ技量であれば、有名な店で働いている人の方が話題になりやすいし、業界によって若い方が有利、歳を重ねた方が有利などの条件も違いますね。技術だけでは図れない価値をどうやって定めるのか?

どんなポジションにいれば良いのか?ポジションはどうやって決まるのか?自分でポジションを作ることはできないのか?など、意識することは段々と増えていきます。これらは全て知ることから始まると思うのです。

だからこそ、多くのものやことに触れて学ばないといけないし、特に飲食業界のように拘束時間が長く外との触れ合いが少ない業界は、より意識的に視野を広げる必要があります。

そして、戦いとは、自分が望む望まないに関わらず、勝手に発生してしまいます。うちはコンビニとは全然違うお菓子を作ってるから比較はされないよ、と思う人がいるかもしれませんが、それは店側ではなく、顧客が判断することなので、自分が巻き込まれないと思っていても巻き込まれる可能性があるのです。

だからこそ、戦いに巻き込まれる前提で、戦いから外れるにはどうしたらいいか?という戦略が必要なのです。

今回言いたかったことは、自分の想像以上に比較対象は世の中に多くて、知らない間に比較され精査されてしまうということです。SNSでの情報発信も簡単になり、格差は生まれやすくなっていく一方です。

自分の将来を考えるときに、比較的調節しやすい自分の状況だけではなく、調節が難しい、不可な状況を鑑みて、これからの自分の強みや戦い方を意識して成長できると良いのかなと思います。

もちろんそれは専門領域の技術が最低限あった上での話なので、まずは自分の技術を磨きつつ、多くのことを考えて学んでいきましょう。

僕は少しでも飲食業界の若い世代が、今後の働き方や新しい挑戦をしやすい環境になってもらいたいと思っています。僕が経験した事しかお話はできませんが、何か迷っている、悩んでいることがあればDMでも良いのでご連絡ください。インスタライブとか音声配信とかでも話ができたらいいな、なんて思っています!


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新しい料理人の働き方から、個人でどう生きていくか、どう価値を生みだしていくかを色々な視点で書き綴ります。月3~4回ほどの更新なので、定期購読がお勧めです。

曜日や時間、場所に捕らわれずに料理を自由に表現するためにレストランを辞めた料理人の働き方を変えていく奮闘記。 これから増えていくだろう料理…

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