小説やマンガ、創作に描かれている「大人」の存在感の薄さと日本の言論の幼稚さ

5月16日(木)曇り時々少し雨

昨日はいろいろなことがあり何だか忙しかったのだが、どういう状況なのかを動きながら考えないといけない感じが少し出てきて、まあ立ち止まってばかりいればいいというものではないからそれはそれでいいような気はするが、少し気が昂って眠りにくくなっているのがやや難点。昨夜も寝る前に少しうたた寝はしたがちゃんと就寝したのは11時を過ぎていたのに、目が覚めたらまだ3時で、お茶を飲んで頭の中のことを書き出してみて、もう一度寝ようとしてみたが眠れず、4時にはちゃんと起きてしまった。いろいろ考えることが多くて困るが、まあ中にはいい話もあるので、明るく前向きな気持ちでなんとかしていきたいと思う。

「日本が変わるためには大人が幼稚さから脱しなければならないとダメで、近代の象徴である文学に幼稚さが残っているから、そこをなんとかしないといけない」という言説を読んで、芥川賞の受賞作品をずっと読んでいた時期があるのだけど、面白いことは面白いけど大人が描かれている作品というものを感じたことはなかったな、ということは思い出してみて思った。

文学を遡ってみても、小説の主人公が責任を持っている大人、みたいな話はなかなか思いつかない。小説というのは基本的に青春小説だ、みたいなところがあって、主人公も若者が多いし、若いが故の失敗みたいなものや少数者としての差別との戦いみたいな感じなのはあっても、「戦われる側」が主人公だったりする話はなかなかない感じはある。

大衆作家であれば、城山三郎や塩野七生など歴史的な「大人」を取り上げた作品が思い浮かぶが、純文学ということになると志賀直哉や小林秀雄(批評だが)ぐらいまでは遡る必要が出てくる感じはする。批評的な要素が強くなるが橋本治などは割合そういう作家かもしれない。

カズオ・イシグロなどは日系の作家であっても大人が書けていると思うし、何れにしても大人が読んで生き方の参考にできるような、エンタメに特化したわけではない小説というものは確かに必要だろうと思う。

小説だけでなくマンガや創作全般に関してその中に描かれている「大人」の存在感が薄いことが多い。最近読んだマンガの「龍と苺」が面白かったのは、「大人が書けている」ことが大きいなとは思った。

創作の分野では特に小説はポリコレというか架空の若者、ないしは若者のつもりの中高年に向けて書いたものが多い気がするし、そういうものが今の日本の言論の幼稚さみたいなものを生んでいることはあるかもしれない。

逆に言えば、日本の文学にしろ創作分野にしろ、子供や若者に向けて書かれたもの、彼らを主人公にしたものが圧倒的に多いのは、「そういうものを読み慣れている」と理由がかなり大きいのだとは思うが、日本においては子供というものがある意味特権的な地位を占めているということはあるのではないかと思う。漫画においては「高校生・高校時代」というのが特に特権的な感じに最近はなっている。

そうなっているのは伝統的に日本の文化にはそういうところがあった、というのが「逝きし世の面影」などに描かれていると思うのだが、子供はとにかく無邪気に可愛がられるという文化があった。欧米では基本的に子供は「小さな大人」だから、大人になるために躾けられ、教育され、鍛えられる存在であり、子供時代はむしろ陰鬱な感じに描かれていることが多いように思う。

子供というものは基本的に「自由だが無力な存在」であるわけで、日本ではその自由さが愛でられてきたわけだが、欧米ではその無力さに焦点が当てられて鍛えられる、という感じがあり、それからドロップアウトして「怒れる若者」になったりするのもやむを得ない、みたいな感じはある。

日本の作品でも、「怒れる若者たち」を描いた、例えば「NANA」などでは子供時代は基本的にそんなに幸福な時代とは描かれていないわけで、「幸福な子供時代を幸福に描く」こと自体が日本の作品の大きな特徴だから、「いつまでも子供でいたい」と思う大人が大量生産されるのもやむを得ない、という感じはある。

エンタメに特化しておらず、社会問題とかにも傾斜しない、人としての大人が描かれている作品もむしろマンガの方が多いくらいだと思うのだけど、今の極端な言動をする政治家や学者や運動家などをみていると、実際何を読んで育ったのだろうという気はする。

まあ何をどうしたらそうなるというものを思いつくわけでもないが、問題意識だけでも持っておけば何かが違ってくるかもしれない、のではないかとは思った。もっと考えないといけない。


君塚直隆「イギリス国王とは、何か 名誉革命」(NHK出版、2024)を読んでいる。114/151ページ。名誉革命前後の事情を読みながらウェブで調べていたりしたのだが、結構知らないことが多くて、それを知って理解するだけでもかなり楽しめた感じがした。考えたことなどまたまとめて書きたいと思う。

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