櫛野展正(クシノテラス)

日本唯一のアウトサイダー・キュレーター。 「鞆の津ミュージアム」 を経て、2016年4…

櫛野展正(クシノテラス)

日本唯一のアウトサイダー・キュレーター。 「鞆の津ミュージアム」 を経て、2016年4月よりアウトサイダーアート専門ギャラリー「クシノテラス」設立。 社会の周縁で表現を行う人たちに焦点を当て、全国各地の取材を続けている。 http://kushiterra.com/

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中條 狭槌 -洒落っ気パラダイス-

群馬県西部にある甘楽郡。 近くには工場見学などが楽しめる無料のテーマパーク「こんにゃくパーク」があり、少し足を伸ばせば世界文化遺産に登録された富岡製糸場にも近い。 そんな小さな田舎町に、ひときわ異彩を放つ不思議な場所がある。 「アートランド竹林の風」「ナニコレ珍庭園」「ふれあいセンター銘酒館」「名勝楽賛園」などいくつものサイケデリックな手書き看板が掲げられ、周囲にはたくさんの廃品が並べられたその場所は、見所満載で眺めているだけでも時間を忘れてしまうほどだ。 道路を挟ん

    • 沖井 誠 -空飛ぶ男-

      見渡す限りの水平線上に、島々の陰影が描き出す景色が広がる瀬戸内海。 広島在住の僕にとっては慣れ親しんだはずの海も、対岸の愛媛県から眺めるとまた違った景色に見えてしまうから不思議だ。 この愛媛県伊予市双海町は、「夕日の美しい街」として知られている。 海岸沿いをドライブしていると、道路に沿って飛行機の模型や宇宙人のオブジェなどが密集した場所が目に留まった。 潮風を受けて、飛行機のプロペラが一斉に音を立てて回りだしている。 慌てて車を停車させ、インターホンを押すと現れたの

      • 志村けんに会った日

        1.お茶の間のヒーロー2020年3月29日、新型コロナウィルスに感染し、お茶の間のヒーローが姿を消した。 もう「だっふんだ」と変顔をするおじさんは現れないし、「うれしいなぁ」と音楽に合わせて陽気に踊る白塗りの殿様や度の強い眼鏡をかけたマッサージ師のお婆さんもいない。 その作り込んだコントは、世代を超えて多くの人に愛された。 みんなの心にポッカリと空いてしまった穴は、どうやらしばらく埋まりそうにないようだ。 僕は志村けんさんに、いまから11年前の7月、いちどだけお会いし

        • 丹 作造 -苦しみの絵画-

          1.苦しみの絵画 蛇腹状に広げられた帳面の両面に描かれた絵画。 手にとって広げると、苦悩の表情を浮かべる人々の顔がいくつも描かれている。 片面は、1枚の壮大な絵巻になっており、つくり手の途方も無い情念のようなものさえ感じてしまう。 本作は、2020年1月、ニューヨークで開催されたアウトサイダー・アートフェアで、世界の人々から驚きを持って迎え入れられた。 作者は、丹作造(たん・さくぞう)と名乗る人物だ。 彼との出会いはフェアが始まる2ヶ月ほど前のこと。 小雨の降る

        中條 狭槌 -洒落っ気パラダイス-

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        • アウトサイダー・アート コラム
          21本
        • ダウン症のユーキくんと僕
          6本

        記事

          鴨江ヴンダーカンマー -怪奇幻想の王国-

          1.浜松に誕生した怪奇骨董秘宝館静岡県西部、遠州地方に位置する県内最大の都市・浜松市。 駅から車で西へ5分ほど走ったところに、「鴨江観音」の名で知られる鴨江寺(かもえじ)はある。 この遠州地域では、かつて人が亡くなれば、その霊は鴨江寺へ行くと信じられており、死んだ霊をなぐさめるため、彼岸に「鴨江まいり」をする風習があった。 鴨江寺で春と秋に開催されるこの彼岸会には、境内が参拝客で大賑わいとなり、サーカスや見世物小屋だけでなく、境内周辺の道路には瀬戸物市や植木市、玩具や飲

          鴨江ヴンダーカンマー -怪奇幻想の王国-

          ダウン症のユーキくんと僕 (6)

          1)習慣をつくるドライブへ行く前に、お風呂に入る。 この流れが習慣化してきた。 声をかけなくても、僕の顔を見ただけで脱衣所へ行って服を脱いでいることもあるし、僕がやってくる前から自主的にお風呂へ入っていることだってある。 当初は早くドライブに行きたいがために、シャワーを浴びることしかできなかったけれど、いまではゆっくりと湯船にも浸かることができるようになった。 自分で洗体をすると洗い残しがあるため、僕が介助しているけれど、ここでのコミュニケーションもユーキくんは楽しんでいる

          ダウン症のユーキくんと僕 (6)

          小林伸一 -家中を埋める優しき細密画-

           横浜市の西区と保土ケ谷区をまたにかける洪福寺松原商店街。ダンボールを屋根に積み上げた光景が名物の外川商店をはじめ、あたたかい下町人情が漂い、「ハマのアメヨコ」としていつも賑わいをみせている。  その商店街の中にある総菜店「京町屋」で、なぜかいつも自分のメガネを中性洗剤で洗ってもらっているという人に出逢った。この店の常連でもある小林伸一(こばやし・しんいち)さんだ。そのメガネは、とても変わっている。レンズはセロハンテープで固定され、耳にかける部分は何重にもガムテープが巻かれ

          小林伸一 -家中を埋める優しき細密画-

          酒井寅義 -おんせん県のペルソナ宇宙-

           別府温泉がある別府駅からほど近い、昔ながらの街並みの中に「酒井理容店」はある。理容店といっても外側に看板が出ているわけでもなく、営業中はサインポールがクルクルと回っているだけ。ただ、このサインポールの中で回っているのは、良く目にするあの赤・青・白の模様ではなく、デコレーションされた不気味な仮面や人形なのだ。  店主の酒井寅義さんは、1936年生まれ。いまも現役でひとりお店に立ち続けている。酒井さんは愛媛県北宇和郡奥南村(現在の宇和島市)に10人兄弟の7番目として生まれ

          酒井寅義 -おんせん県のペルソナ宇宙-

          馬田亮一 -自給自足のアートハウス-

           佐賀県大和町にある「巨石パーク」。静かな森に10m以上の巨石群が17基も点在し、いまや佐賀県を代表するパワースポットになっている。佐賀駅からその「巨石パーク」に向かう途中、国道263号線沿いで異彩を放つ建物に遭遇した。  たくさんの廃材や廃物が幾重にも重なり構成されたその建築物は、一見すると廃墟のようでもあるし、どこか異国の要塞のようでもある。入り口にはコンクリートや茶器やガラスなどを組み合わせて制作されたシーサーがこちらを見据えている。その周りの黒板にはポップな社会風刺

          馬田亮一 -自給自足のアートハウス-

          トゥッティ(武装ラブライバー) -ヲタの祝祭-

           数年前からTwitterで目にするようになって、ずっと気になっていた。その姿は、画面の中で見るたびに進化し続け、どこか異国の民族衣装やRPGゲームのラスボスのようにも見えるし、そのファサード感は絢爛豪華な祭りの山車のようでもある。これは『ラブライブ! School idol project』のグッズを身にまとった男性の姿だ。  2010年にゲーム雑誌の読者参加企画として始まった『ラブライブ!』は、9人の女子高生で構成されるスクールアイドルグループが学校統廃合の危機を救うた

          トゥッティ(武装ラブライバー) -ヲタの祝祭-

          けうけげん -架空芸人ワールド-

           僕の人生で不可欠なものの一つに「笑い」がある。小さい頃から『オレたちひょうきん族』(フジテレビ)や『8時だョ!全員集合』(TBS)に夢中になり、あの時代の誰もがそうであったように、学生時代は「ダウンタウン」の影響を大いに受けた。そこから過去の漫才やコント番組を見返すようになり、本格的にネタを作ることこそ無かったものの、今でも頻繁に若手芸人やネタ番組をチェックしているし劇場にも時々足を運んでいる。最近、お笑い芸人の方々とトークライブで共演させていただいているのも、そうした憧れ

          けうけげん -架空芸人ワールド-

          井脇満敏 -親子のパラダイス-

           宮崎駅から電車に揺られること1時間。緑と清流と温泉の町、宮崎県日南市北郷町にやってきた。無人駅となっている北郷駅から5分程歩いたところに、魚やモアイ像、二宮金次郎像などのイラストが外壁に描かれた家がある。中を覗くと、雑多な品が並ぶ庭先に2体の人型のオブジェが見えた。  「これは僕の両親がモデルでね、チェーンソーでつくったものなの」と中から声をかけてきたのが、作者の井脇満敏(いわき・みつとし)さんだ。  井脇さんの車に乗って、しばらく県道33号線を走っていると道沿いの

          井脇満敏 -親子のパラダイス-

          土屋修 -なんぞしなあかん-

           日本列島のほぼ中央に位置し、「水の都」と呼ばれるほど、豊かな地下水に恵まれた土地として知られている岐阜県大垣市。市内の県道沿いには、カンガルーやキリン、孔雀などのオブジェが顔を並べる場所がある。この家に住む土屋修(つちや・おさむ)さんが、古いタイヤを利用して制作したもので、子どもたちに人気の名所となっている。  保育園のマイクロバスが止まって、よく子どもたちが来てくれて。子どもらが『トカゲや怪獣がおる』って言うから、『これはトカゲやなくてワニやよ。あっちのは、怪獣やなくて

          土屋修 -なんぞしなあかん-

          小林一緒 -あの味を忘れない-

           2014年12月、埼玉県さいたま市の埼玉会館で『うふっ。どうしちゃったの、これ!? えへっ。こうしちゃったよ、これ!! 無条件な幸福』という展覧会を観に行った。これは埼玉県障害者アートフェスティバルのひとつとして企画された展覧会で、5回目を迎える。障害のある人たちの作品群が並ぶ会場を歩いていると、隅の方に展示されていた奇妙なイラストに目が留まった。『俺の日記』と題されたその作品は、ルーズリーフやノートに弁当やラーメンなど実に美味しそうな料理のイラストが描かれている。料理の名

          小林一緒 -あの味を忘れない-

          稲村米治 -昆虫レクイエム-

           都心から60キロの場所にある群馬県の東の端・群馬県邑楽郡板倉町。東武日光線「板倉東洋大前駅」付近は開発が進んでいたニュータウンの面影が残り、街のほとんどは広大な農地がいまも広がっている。遠くに見える浅間山を横目にのどかな田園風景を車で走ること10分、とある民家の床の間に飾られていたのは、高さ80cmほどのガラスケースに入った武者人形だった。目を凝らして見ると、驚くべきことに、カブトムシやクワガタムシやコガネムシなど同じ種類のたくさんの昆虫の死骸が左右対称にピンで付けられ

          稲村米治 -昆虫レクイエム-

          ダウン症のユーキくんと僕 (5)

          お母さんと僕とユーキくんの3人で、ドライブには行けるようになった。 1時間ほど、お母さんの車で市内を巡っては家に帰る。 そんな行程を、しばらくの間、繰り返していた。 だけど、「そもそも、お母さんとユーキくんとの関係が崩れていることも要因だったんだから、お母さんが支援に介入しないほうが良いのではないか」と考えるようになった。 改めて、僕とユーキくんの関係性を構築する必要があるのだ。 果たして、支援者である僕は、どういう存在であるべきなのだろうか。 僕は、「支援者とは楽しみ

          ダウン症のユーキくんと僕 (5)