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真実は必要か〜映画「落下の解剖学」

フランスの人里離れた山荘で暮らし始めた作家サンドラと、夫サミュエル。
そして、11歳になる息子ダニエル。
さらには家族に飼われている犬のスヌープ。
ダニエルは4歳の時に事故に遭い、視覚障害を患っているが全盲と言うわけではなさそうだ。
ある日、犬と散歩に出かけたダニエルは、自宅の倉庫前に横たわる父の姿を発見する。
頭から血を流し、すでに息絶えているサミュエル。
これは、事故か自殺か、それとも殺人なのか。
検察は、妻のサンドラを殺人容疑で起訴する。
裁判の過程で、妻と夫の確執が明らかになっていく。
順調に作品を出版し続ける妻。
一方、同じく作家志望ながらなかなか書けない夫。
しかもその夫には、自分のせいで息子に障害を負わせたという引け目がある。

この映画、チラシや予告編を見ると、最後にどんでん返しでもありそうな犯人当てゲームのようだが、そうではない。
僕もそう思って、あまり予備知識もなく見に行ったが、途中から視点を切り替えた。
この物語を通じて、耳鳴りのように流れ続ける、唸りとも言えない響きがある。
見終わってその正体がわかったが、それはダニエルの声にもならないほどの唸りなのだ。
しかし、これはダニエルという1人の少年の成長物語ではない。
彼の目を通して、世界が僕たちの前に立ち現れる。

誤解を恐れずにひと言で言うならばこうだ。
何も真実のわからない世界で僕たちは生きていかなければならない。
何ひとつ真実のわからないままに、僕たちは岐路に立たされて、二者択一を迫られる。
それは、もはや真実など役に立たない世界。
そこで、僕たちは時に愛し合わなければならない。

第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で最高賞のパルムドール賞を受賞、第81回ゴールデングローブ賞ではでは「最高脚本賞を受賞、第96回アカデミー賞では「作品賞」「監督賞」「脚本賞」「主演女優賞」「編集賞」の5部門にノミネートされている本作品、2時間半と少し長尺ではあるがシートにゆったりと腰を沈めてその世界に浸って欲しい。

しかし、なんと言っても、今回最高の演技を見せたのは、犬のスヌープだ。
あれはどうしているのだろう。
演技だったらすごい。

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