ミック

シリコンバレー出羽守見習いの備忘録

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最近の記事

存在するはなぜ二階の述語なのか

拙著『達人に学ぶ SQL徹底指南書』の中で、EXISTS述語の使い方を解説している章があるのだが、そこでEXISTS述語だけが唯一SQLの中で二階の述語である、ということを説明している。これはEXISTS述語だけが行の集合を引数にとる述語だからである。それは分かるのだが、なぜ述語論理を考えた人(具体的にはゴットロープ・フレーゲ。タイトル画像のおじさんである)はこんな着想を得たのか、そこが分かりにくいという質問をしばしば受けることがある。確かに、数ある述語の中でなぜ「存在する」

    • 早飯早グソは三文の得

      ちょっと品のないタイトルで昼時から申し訳ない。しかしこれは今回の話の根幹にまつわる単語なのでどうしても使わざるをえなかった。ご容赦いただきたい。 筆者がシリコンバレーで働いてた頃、日本側がBoxを入れたいというのでBox社との打ち合わせに参加していた。その時、「せっかくシリコンバレーに住んでるなら一度本社に来なよ」とお誘いをいただいたので、お言葉に甘えてひょこひょこと見物に出かけた。完全なおのぼりさんムーブである。 わざわざガイドの人がついて、色々と社内を見せてもらった。

      • Microsoft賛歌

        はい、今日はみんな大好きMicorosoftについてのお話だよ! 寄ってらっしゃい見てらっしゃい。 実際のところ、Micorosoftの製品がすごく好きで好きで仕方ない、という人は少ないと思う。WindowsやOfficeはデファクトだからなんとなく使っているだけだし、TeamsよりはZoomのがUIが洗練されていていいなあ、と思う人も多いと思う。筆者もそうである。 筆者にとって、Microsoftは長らくSQL Serverの会社だった。昔データベースを触っていたので、

        • SQLは滅ぶべきか

          でかい釣り針が来たので釣られてみる。とりあえず以下の資料を読んでいただきたい。そんなに長くないのでサクッと読める。 SQLの記述順序と思考の順序が違うので書きにくいし、エディタの補完機能の恩恵が受けられないのが嫌だ、という意見はもう大昔からある。何度も何度も何度も繰り返されてきた議論である。以下の2011年のスレッドでも「SQLはFROM句が最初に来るべきではないか?」という問いが提起されている。すぐに出てこないが、筆者はこれより古い文書も見た記憶がある。 実際、Micr

        存在するはなぜ二階の述語なのか

          関数としてのテーブル - 写像と命題関数

          拙著の一つに『おうちで学べるデータベースのきほん』というデータベース初心者向けの入門書がある。2015年刊行なのでそれなりに年月が経っているのだが、ありがたいことに今でもコンスタントに読んでいただいている。 この本の中で「リレーショナルデータベースのテーブルは関数として捉えられる」という話をしているのだが、ある読者の方からそこがよく分からなかった、という質問をいただいた。ちょうどよい機会なので、少しこの点を補足説明しておきたいと思う。 テーブルが関数だと言うとき、二つの含

          関数としてのテーブル - 写像と命題関数

          AWS Outpostsに見る軍需産業とITの結びつき

          先日、XでAWS Outpostsの使い道が分からないというツイートに対して「軍の前哨基地で使うことを想定している」というコメントをしたところ、大きな反響があった。Outpostsを何に使うのか疑問に思っていた人は思ったより多いようだ。 確かに、Outpostsの日本語サイトを見ても、軍需関連の単語は一つも出てこないので、AWSとしても日本向けには意図的に避けているのだと思われる(実際、日本が戦闘のために軍を国外に送る機会はまずない)。日本で軍需産業と思われてもあまりマーケ

          AWS Outpostsに見る軍需産業とITの結びつき

          君子は豹変す - Google Cloud Next 2024 Recap

          4/9 - 11の期間、ラスベガスでGoogle Next 2024が開催された。今回もいろいろと大きな機能追加の発表があり、多くのメディアで取り上げられている。一般的にはやはり生成AIまわりの注目度が高いだろう。筆者も、データベースエンジニアをしていたこともあり、Gemini in BigQueryによる自然言語からクエリ生成を行う機能などは非常に気になる機能だ。 ペンタゴンへのメッセージだが、Googleのビジネスにとって最もインパクトの大きいものを挙げろと言われれば、

          君子は豹変す - Google Cloud Next 2024 Recap

          Salesforceはインフラ企業の夢を見るか

          先日、Salesforce社がインフォマティカの買収を検討しているというニュースが流れた。CRMの企業がなぜデータ連携の企業を? と疑問に思った方もいるかもしれないが、ここにはSalesforce独自の戦略が見て取れる。本稿ではSalesforce社が何を考えているのかを、その買収戦略から読み解いていきたいと思う。通常のクラウドベンダーとは一味違う戦略を持っており、インフラエンジニアの方にも興味深い内容になっていると思う。 SaaSから垂直統合サービスへ生まれ変わる筆者がS

          Salesforceはインフラ企業の夢を見るか

          ソフトウェアと愛 - あるいはOSSとAWSの確執

          OSSというのは、不思議なソフトウェアだ。世界中で何百万人もの人が一円にもならないのに開発に協力し、コミッタと呼ばれるエンジニアキャリアをOSSに賭ける人々が現れ、多くのユーザがユーザ会を組織し、時には大規模なイベントを開く。MicrosoftやGoogleといった大企業もOSS支援を表明している。GoogleにいたってはandroidとKubernetesという重要なOSSを世に送り出した企業でもあり、その貢献は計り知れない。 そんな中、OSSに対して敵対的、とまでは言わ

          ソフトウェアと愛 - あるいはOSSとAWSの確執

          NewSQLはデータベースに革命を起こすか - NetflixにおけるCockroachDBのユースケース

          近年のデータベースの新潮流にNewSQLと呼ばれる一群のデータベース製品群の登場がある。そのコンセプトを一言でいうと、RDBとNoSQLのいいとこどりである。SQLインタフェースと強いデータ一貫性(ACID)というRDBの利点と水平方向のスケーラビリティというNoSQLの長所を兼ね備えた夢のようなデータベースである。下図に見られるように、RDBとNoSQLが鋭いトレードオフを発生させていたのに対して、NewSQLではそれが解消されているのが分かる。 本当にそのような夢の実現

          NewSQLはデータベースに革命を起こすか - NetflixにおけるCockroachDBのユースケース

          Solorigate事件の教訓 - サプライチェーンアタックを防ぐことは可能か

          先月末、主要なLinuxディストリビューションなどで広く使用されているファイル可逆圧縮ツール「XZ Utils」に、悪意あるコードが挿入された問題(CVE-2024-3094)が確認されたとして大きな波紋を呼んでいる。このコードが挿入されたバージョンのXZ Utilsがインストールされたシステムは、特定条件下で、SSHポート経由で外部から攻撃者が接続できるような改ざんが行われる可能性がある。 今回はすんでのところで気づいた人がおり(SSHによるログインが僅かに遅延することに

          Solorigate事件の教訓 - サプライチェーンアタックを防ぐことは可能か

          看板戦争 - 恐竜とカタツムリの戦い

          最近少し重いテーマのエントリが続いたので、今日は息抜きに笑えるテーマでお届けしようと思う。 少し前にXでOracleとInformixの「看板戦争(Billboard War)」の話をツイートしたのだが、その実物の看板の画像を発掘したのでお見せしようと思う。 この看板は、1996年にInformixというデータベースの会社が101というシリコンバレーを南北に縦断する高速道路(筆者も通勤に使っていた)に出したものだ。写真だと少しわかりにくいが、看板の背景に描かれているのはO

          看板戦争 - 恐竜とカタツムリの戦い

          米国連邦政府におけるクラウド戦略 - クラウドシフトを支える組織と法令

          さて、米国連邦政府のクラウド戦略その3である。その1とその2はこちらからどうぞ。今回は、米国の連邦政府という組織と法令という観点からクラウド戦略を見ていきたいと思う。これらはエンジニアからすると周辺的なことと思われるかもしれないが、実際にクラウドを活用していくには欠かすことのできない観点である。 それでは初めにまずは組織の観点から見ていこう。 クラウドシフトを支える組織エンジニアの直接雇用と内製文化 連邦政府はよく知られているように多くのエンジニアを直接雇用しており、伝

          米国連邦政府におけるクラウド戦略 - クラウドシフトを支える組織と法令

          米国連邦政府におけるクラウド戦略 - クラウドセキュリティをどう担保するか

          さて、米国連邦政府のクラウド戦略についてのレポートその2である。その1はこちらを参照。その1を読んでいなくても支障はないが、歴史的な話をしているので先に読んでいただくと理解が捗ると思う。 前回は、どちらかというと連邦政府の取り組みがうまくいかなかった、というトーンで話をしたが、公平を期して言うならば、成功している部分もあるし、うまくいかなくても諦めず粘り強く進行している取り組みもある。こういうとき米国人というのは強くて、失敗を教訓にどんどん再トライを繰りかえし、大きなブレイ

          米国連邦政府におけるクラウド戦略 - クラウドセキュリティをどう担保するか

          米国連邦政府におけるクラウド戦略「Cloud First」の失敗と教訓

          本稿の趣旨は米国連邦政府のクラウド推進戦略、いわゆる「Cloud First」から始まる一連の政策が辿った経緯を概観することである。米国のクラウド戦略は、掛け声こそ勇ましかったものの、あまりうまくいかなかった。これは筆者の主観ではなく、連邦政府自身がそれを認めるレポートを出している。あとで具体的に見ていこうと思う。 本邦においてもガバメントクラウドが本格的に動き出している。さくらインターネットが政府公認のベンダーとして認証を受けたことが話題になったのはつい最近のことだ。本邦

          米国連邦政府におけるクラウド戦略「Cloud First」の失敗と教訓

          セキュリティと情報共有のジレンマ - 議事堂襲撃と国家機密

          米国時間の2020/1/6 に起きたトランプ支持者による議事堂襲撃は5人の死者を出し、FBIも160件以上の捜査を行うという前代未聞の暴動(Riot)として全世界に衝撃を与えた。その規模の大きさと不釣り合いな犯人たちのあっけらかんとした正義感の不気味さ(マスクで顔を隠していなかったので続々と逮捕されている)、暴動を煽ったとしてトランプ大統領や共和党支持者のSNSアカウントが停止されることと言論の自由との対立など、様々な方面に大きな波紋を投げかけている。 今回の襲撃では、暴徒

          セキュリティと情報共有のジレンマ - 議事堂襲撃と国家機密