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　――ボクたちは、あの場所で生まれた。

　あの場所は収縮した宇宙の中心であり、いくつもの人工的に生物をつくる機械があった。

　その機械の中でボクは女として生まれた。

　ボクの名前は最初、遊里道ゆりみち千早ちはやだった。

　生まれたときから、ボクの肌は白く、髪も、まつげも白かった。

　白いことには理由がある。

　ボクは白い百合の花の遺伝子をもとにつくられた花人類かじんるいだからだ。

　花人類かじんるいは新人類しんじんるいが作成した新たな宇宙をつくる存在である。

　花の遺伝子をベースにつくられた花人類かじんるいである少年少女たちは新人類しんじんるいに教育されて、消滅する宇宙から新たな宇宙へ移動することが我々の最重要目標であると言われ続けていた。

　ボクの未来は決まっていた。

　ボクは新たな宇宙の一部となり新世界の神となるのだ。

　そう決まったのは双子の姉である遊里道ゆりみち千歳ちとせを殺したからだ。

　殺さなければ、ボクは死んでいた。

　千歳ちとせか千早ちはやかのどちらかが新世界の神となるために、ふたりで殺し合いをしなければいけない状況をつくったのは新人類しんじんるいだ。

　終わりつつある世界にはレベルアップという概念があって、殺したものを経験値にして吸収するという概念がある。

　ボクは千歳ちとせを殺して吸収した。

　そしてボクたちは完全に同じ存在になったのだ。

　どちらかが買っても負けても、どちらにせよ新人類しんじんるいにとっては同じだったのだろう。

　ボクは新世界の神として転生し、新たな宇宙を茨門しもん紅一こういちたちとともにつくらなくてはいけなかった。

　それが新人類しんじんるいの願いだったから。

　……ボクの周りには同じような境遇の少女たちがいた。

　向郷こうごう万里奈まりな、十原とはら紫苑しおん、聖光院しょうこういん奏音かのん、越岡こしおか有加利ゆかり、天山あまやま有紗ありさ、幽谷ゆうこく映子えいこ……彼女たちも人工的に作成され、収縮していく世界からの脱出のために新人類しんじんるいから教育されていた。

　向郷こうごう万里奈まりなはボクの母にあたる遺伝子を持っている。

　年は三つほどしか違いがないのに、そんな感じがしないのは彼女が友達としてボクに接してくれているからだろう。

　彼女は聖母黄金花マリーゴールドの遺伝子を持つ花人類かじんるいだった。

　十原とはら紫苑しおんはボクより四つ年上の紫苑アスターの遺伝子を持つ少女である。

　聖光院しょうこういん奏音かのんはボクより二つ年上の花蘇芳レッドバッドの遺伝子を持つ少女、越岡こしおか有加利ゆかりはボクより二つ年上の有加利ユーカリプタスの遺伝子を持つ少女、天山あまやま有紗ありさはボクの遺伝子をもとにつくられたクローンであり女王百合クイーンリリーの遺伝子を持つ少女、幽谷ゆうこく映子えいこは、あらゆる世界の物体を透過できる透百合クリアリリーの遺伝子を持つ少女だ。

　ボクたち少女は最終的に新世界を創造するための生贄となり、それが正しいことであると新人類しんじんるいに教育されてきていた。

　ボクが恋していた女性である千道せんどう百合ゆりも花人類かじんるいだったのだが、特別に新人類しんじんるいのひとりとして新世界へ行くことを許された存在だった。

　千道せんどう百合ゆりにも双子の姉である千道せんどう薔薇ばらが存在していたのだが、ボクと同じように殺し合いをしたらしい。

　そうして千道せんどう百合ゆりも世界の一部となるために戦っていたのだ。

　けど、ボクが一番、宇宙を創造するのに適していたと判断した新人類しんじんるいは千道せんどう百合ゆりを、その枠から外した。

　だからボクが、その枠を引き継ぐ形となった。

　でも、最終的にボクは、それを拒絶した。

　ボクは新人類しんじんるいも花人類かじんるいも裏切ってしまったのだ。

　ボクの恋は叶わなかった。

　千道せんどう百合ゆりは葉渡はわたり刃弥じんやという新人類しんじんるいのひとりである男性と婚約したのだ。

　ボクは絶望した。

　そしてボクの運命も決まっていた。

　ボクは茨門しもん紅一こういち、葵あおい青菜あおな、竹木たけき類るいという少年たちの中心となり、新世界の創造をおこなわなければいけなかった。

　ボク、茨門しもん、葵あおい、竹木たけきの頭にはヘッドギアのような形状の機械が取り付けられていた。

　光の三原色をもとに、ボクが白の役割を、茨門しもんが赤の役割を、葵あおいが青の役割を、竹木たけきが緑の役割を担にない、新世界を創造するために厳しい実験にも耐えなくてはいけなかった。

　ボクたちは幻覚剤であるＬＳＤを飲まされ、高次の意識状態を強制された。

　その状態で新世界を創造しなくてはいけなかった。

　なぜボクたちが、かつていた日本人の名前を付けられているのかというと、なにやら日本人にはスピリチュアルな能力を持っているという言い伝えが残っており、ボクたち花人類かじんるいには日本人の遺伝子が組み込まれているのだ。

　精神で新世界を創造することができるのは日本人にしかできないと新人類しんじんるいは信じているらしい。

　ボクも日本人が生み出した書物を読んだことがある。

　それはライトノベルと呼ばれる書物だ。

　ライトノベルは西暦二〇ＸＸにせんダブルエックス年代によく読まれていた書物であり、特に、そのころは異世界転生と呼ばれるジャンルが流行っていた。

　コミカライズからアニメ化、ゲーム化、映画化などがされ、今もネットに掲載されている小説は、バーチャルな化石として、終わりつつある世界にも記録されている。

　ボクは、それらに感銘を受けていた。

　ボクも異世界に転生できたら、今、目の前で起こっている現状から脱出できると思ったのだ。

　だからボクは千道せんどう百合ゆりを失った世界の拒絶をおこないたかったのだ。

　千道せんどう百合ゆりは殺された。

　葉渡はわたり刃弥じんやによって殺害されたのだった。

　ボクは葉渡はわたり刃弥じんやと戦うことになった。

　ナイフで刺された千道せんどう百合ゆりには、わずかに意識があった。

「ワタシをあなたの中に入れて」

　それはボクに改めて殺してほしいと願ったということになる。

　彼女の年齢はボクより一回り上だった。

　ボクは彼女と同じになりたかった。

　同い年の少女として……いや、それは違う。

　ボクは少年になるべきなんだ、と。

　そうしたら彼女と恋人になれたのかもしれない。

　葉渡はわたり刃弥じんやは悪男にナイフで刺されることもなかった。

　ボクは、この世界を許さない。

　ボクは空想でつくられた箱である空想の箱エーテルボックスを使い、ふたつの世界に分けた。

　女性と男性を別々の世界に分け、この世界が消滅するまで待とう、と。

　そうしてボクは、オレ・・になったんだ。

　少女だったボクは心器しんきである黒百合くろゆりの衣ころもをかぶって少年のオレになった。

　百合世界リリーワールドで唯一存在する生殖能力を持たない男に転生したんだ。

　百合ゆりちゃんのそばにいられる次元に行きたかった。

　でも、オレは葉渡はわたり刃弥じんやのような男にはならない。

　少女たちは守らなくてはいけないんだ。

　遊里道ゆりみち千早ちはやは、千道せんどう百合ゆりの百合と、葉渡はわたり刃弥じんやの刃弥を取って、合わせて百合道ゆりみち千刃弥ちはやを名乗ることになる。

　これが終わりつつある世界の真実だったんだ。

　オレは忘れていたんだ。

　目の前にある現実から逃げていたんだ。

　だからオレは、すべての元凶だったんだ。

　もう、この世界は終わっていくんだ。

　まだ、戻りたくはない。

　夢の世界で、生きて、いたかった――。