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まじウケるんですけど #書もつ

4月に入って4日・・新しい環境になった方も、いるかも知れない。せっかく新しい季節なので、新しい環境(海外)で暮らした方のエッセイを紹介したい。

毎週木曜日は、読んだ本(聴いた本)のことを書いている。

イヤホンから聞こえてきた声に、いや言葉に度肝を抜かれた。作品を聞き始める前から、タイトルで、その筆者はわかっていたと言うのに、やっぱり確かめたいと言うか、ほんとうに⁈と疑いたくなる。

書いたのは、J K(女子高生)・・らしい。マジか・・!

心象、風景、比喩、さまざまな言葉によって表現している筆者の世界に、驚きを禁じ得ないままに聞き入ってしまう。嘆息気味に、思わず「じょうず・・!」と呟いてしまった。

選んだ言葉の美しさに加えて、強い説得力を持って、そして優しさが滲む。なんだこれは。

湧き上がるこの感じ、共感なのか?同感なのか?それは、僕がかつて訪れたことのある国だったから?

しかし、それは勘違いだった。

筆者の言葉を聞きながら、頭の中で、飛行機や空港の風景を思い出す。同じ場所に行ったことがあるはずなのに、あの景色を見ただろうか。あの音を聞いただろうか。

ことごとく不安になる。

聞き覚えのある名前の空港、市街地に入る道もきっと変わらない。果たして僕は、インドに行ったと言えるのだろうか。

JK、インドで常識ぶっ壊される
熊谷はるか

「親の仕事の都合で、外国で暮らすことになった」

そんなふうに聞いて、その行き先がインドだろう、と、どのくらいの人が考えるだろうか。たぶん、カレーが好きな人でなければ、ほとんどいないだろう。

筆者はJKという多感な時期に、親の仕事の都合でインドに連れられている。その過程の記述もとても楽しいが、やはりインドの真骨頂は、インドの中にしかない。

言葉が素直で、語彙も豊か。どんな風景でも鮮やかに立ち現れてくる感じはいったいなんなのだろう。インドが刺激的なだけでなく、筆者の感性の瑞々しさに知性が相俟って、清らかな水が流れているような文章なのだ。

ちょっと無粋な言葉だけれど、品が良い。そのくせ、たまに“ぴえん”とか言ってJKらしさも備えている。ずっと聴いていたくなる。(ちょっと気持ち悪い感じだったらすみません)

作中、ほとんど観光ガイドのような景色は見かけず、街中や学校で見る日常の欠片に、インドの力強さや、おおらかさを感じられる。また、日本と比べて、想像を絶する生活や文化の相違も鮮やかで、可笑しみさえわく。

インドでは、プロモーションのためのコピーとして、Incredible India!を掲げている。かつて僕も、旅行中に何度も見かけたし、作中にも何度も出てくる言葉だ。

incredibleは、信じられない、という意味。マジか!・・でも良さそうだ。

驚きと感動と、不安と悲しみと、様々なものがまぜこぜになって、混沌とした雰囲気がある。筆者が経験してきたインドでの暮らしには、日本人が知らない、知ろうとも知ることができないような生々しい景色もあった。

考え、感じて、それをこうして作品にした、その力に感謝したい。タイトルに騙されないで欲しい。J Kの語彙や行動のイメージは、もしかしたら僕の無知なのだとも思えた。


聴く読書は、再生している間、つむぎ出される言葉を止めることができない。通勤の途上、耳から流れ込む描写や心情に、ふいに堰を切ったように感情が昂り、涙が出てきた場面がいくつかあった。

筆者が聞いたという、“「コンコン」と車窓を叩く音”は、僕も現地で何度か聞いた。

その窓の外には、小さな子どもがじっとりとした視線を向けて、手を差し出していた。ひとりの時もあったし、何人もの視線が刺してくることもあった。

そういうことがある、それは他の国でも体験していたから、旅行者として知ってはいた。

筆者はそうしたことも、臆することなく書いていた。それは、景色ではなく、自分たちと同じ人間であり、子どもなのだと。

華々しい異国情緒の陰に、当たり前の生活すら疑って生き延びる子どもたちがいることに、読み手は驚かされる。分かっていたつもりだった僕は、恥ずかしくなって、不意に申し訳ないような謝りたいような気分になって、電車を待つホームで涙が溢れてしまった。

無視するのでなく、考えて言葉にすることで、きっと未来が変わってくるかも知れないと思った。


話し言葉ではなく、書き言葉だからこその表現が、バランスよく含まれていた。これは勝手な思い込みだが、筆者はかなりの読書家ではないかと思う。

とある動物の例えが、“芥川龍之介の「羅生門」の老婆”のよう、なんて誰が言えるのだろう。ニューデリー駅前が、“沢木耕太郎の「深夜特急」のはじまりの地だ”と、どのくらいの人が知っているのだろう。


インドに行ったことがある僕のような旅行者と、筆者のように、暮らしていた生活者には、明確に違いがある。過ごした時間の長さや、移ろう季節の風景、そして出会った人の数が格段に違う。

僕は、観光地ばかりでインドを知った気になっていた。筆者の驚くべき筆致によって、インドがもっと近く感じられる。そして、もっと深く考えるきっかけになる。

筆者のインド生活の終わりは、とても呆気ないし、やるせない。世界が闇に包まれたあの感染症の拡大により、学校に通えなくなり、インドから帰国せざるを得なかったのだ。


常識をぶっ壊されたJKの見たインドを、多くの人に知ってもらいたい。もはやインド云々というより、筆者の表現力に触れて欲しい。

インドは、カレーの国、数学の国、それは単なる氷山の一角である。

まじで。


こんな感じの女子高生が、この作品を書いたなんて!と驚かされました。infocusさん、サムネイルありがとうございます!



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