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Re:本 『しずくのぼうけん』
「まりあてるりこふすか」
「ぼふだんぶてんこ」
作者の名前を声にしては、きゃきゃきゃと笑っていた。それが誰かの名前だという認識もなく、異国の不思議な音として。
今、手元にある絵本よりも、もう少し横長の、すこしグレーがかった水色の絵本だった。表紙には、すました顔の「しずく」が、気障な格好で(と思っていた)くつろいでいる。
「うちだりさこ・やく」続けて訳者の名前を声にする時、それはロシアという遠い国
次の方、どうぞ(14) 匂い
「あたしほんっとにダメなんです、匂いがきついの」
通勤中の電車内で、香水や柔軟剤のきつい匂いで不快感を覚える、さらには吐き気や頭痛に襲われる、という化学物質過敏症候群が話題になって、もうずいぶん経つ。にもかかわらず、発症する人を「特殊なひと」とする世の中の動きには、あまり変化がないように思う。
それにしても、だ。
ダメなんです、と声高に叫ぶこの女からは、得も言われぬ匂いが漂っている。わたしの中の匂
次の方、どうぞ(13) 社長教サラリーマン
「なんにもしてない、みたいに言うなっ、俺は、俺なりの立場で、やることやってんだよ」
ろれつの怪しい、怒号とともに中年男性が診察室に転がり込んでくる。見本のような酔っ払いは、まっすぐ歩けてはいない。なのに患者用の椅子にはしっかり座ることができる。背もたれもないのに。
「酔ってないぞおらぁ」
俺は、なのか、「オラァ」と威嚇しているのか、語尾の意味はどちらともとれる。アルコール臭がきつい。
何故、泥酔し
Re:本 『わたしのいるところ』ジュンパ・ラヒリ(Jhumpa Lahiri) 中嶋浩郎 訳
一言で言えば、音のしない本。
現代文のテストで副題を提案されたなら、「静謐」と表現するかもしれない(正しく漢字が書ければ!)。
46の短編が連なる「長編小説」とあるが、どこを切り取っても一枚の絵のような情景が見える。解釈次第でどんなふうにも読み取れるという点では、絵画よりも水墨画に近い、あるいはアジア的と感じた。
作者の母語---ロンドン生まれのベンガル人としてのそれを英語とするなら、だが--
「英会話できます」じゃないバスツアー#10
<2023年5月 ホバート@タスマニア 市内観光バスツアー顛末>
10
完全に、遠足の帰り道気分だった。前の晩から高揚したまま出かけ、気持ちの乱高下を抱えながら1日を過ごし、ややぐったりしつつもまだうわずった気持ちは冷めない夕方。バスに乗せてもらって、自分で運転する必要もない。「町に帰ります」のあとはDさんのガイドアナウンスもお休み。夕日が、丘の向こうに沈んでいこうとするのをぼんやり眺める。家畜
「英会話できます」じゃないバスツアー#9
<2023年5月 ホバート@タスマニア 市内観光バスツアー顛末>
9
帰国後に見た多摩動物園のニュースによると、2頭のうち「ダーウェント」は今年のはじめに死んでいて、残る1頭の具合がよくないということだった。ホバートを流れる川の名が、2頭に名づけられていたことをはじめて知る。そして数日前(10月になってしまった)残る「テイマ―」の訃報を知る。国内でタスマニアデビルに会える場所が、なくなってしまっ
「英会話できます」じゃないバスツアー#8
<2023年5月 ホバート@タスマニア 市内観光バスツアー顛末>
8
そこに住むウォンバットは、わたしのイメージする「まるっこさ」はあるものの、なんというか表情にアジア人らしさがあった。ちょっと目が離れていて、某有名漫画の言葉を借りるなら「平たい顔族」感がある。それが単純な個体特徴なのか、なにがしかの事故など保護された事象によるものなのかは、繰り返すが、お姉さんの説明が聞き取れないので、わからな
「英会話できます」じゃないバスツアー#7
<2023年5月 ホバート@タスマニア 市内観光バスツアー顛末>
7
タスマニア島には、人が乗れる鉄道は敷かれていない。明確に調べもせずに来てしまったけれど、ホバートの街中にあるのは「メトロ」と書かれたバスの表示だけで、地下鉄もトラムも走っていなかった。長距離を走る鉄道の話題も聞かない。
ところが、だ。ボノロングに向かうバスは、貨物列車とすれ違った!
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