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自信がつく文章力の磨き方【vol.37】

文章を書くのが上手になりたいと思っている人は多いと思います。しかし、何をもって上手と言えるのかわからない人も多いのではないでしょうか。

いつも仕事が多くて忙しかったり、原稿料の単価が高かったりすれば、自己評価はともかく、第三者から評価される文章は書けていると実感はできます。しかし、クラウドソーシングなどで毎回単発で単価の安い仕事を受けていたら、はたして自分の文章は上手なのか下手なのか、わからないままですし、自信すら失いかねません。

そこで今回は、自分に自信がつく文章力の磨き方を紹介したいと思います。

それは、とにかく短い文章を書きまくることです。

いま振り返ると、文章力を磨くうえで最も訓練になったのは、短い文章をたくさん書いたことだと、私は信じています。 

私自身、残念ながらライターとしての自己評価は決して高いとは言えません。だから自信を持ってライターと名乗ることもほとんどありません。それゆえに「ライターは本業でない」ことを口実に文字単価の仕事や自分の専門外の仕事は受けないことにしています。それでもフリーランスになってからは書く機会も増え、幸いライターの仕事は途絶えることなくいただけています。

それは、やはり若い頃に短い文章をたくさん書いてきたからだと自負しています。

私が20代〜30代に経験した思い出深い「短い文章修行」は4つあります。まず映画のレビュー記事。そして書評。3つ目はAV(アダルトビデオ)の寸評。最後は編集後記です。

私が20代に勤務した会社はみな小さな編集プロダクションだったので、自身で原稿を書く機会も結構ありました。

編プロに就職して間もない頃、WOWOWの番組プログラム誌の編集を担当していたとき、よく映画のレビュー記事を書いていました。レビューと言っても1記事200字です。毎月一人30本くらいは書いていたと思います。たった200字なので書けるのはせいぜいあらすじだけです。200字でどんな内容なのかがわかって、かつ読者に観てみたいと思わせなければなりません。

200字という短さで最も難しいのは、文章がワンパターン化しないように書くことです。200字という短さでは冒頭や締めの文章がどうしても定型文になりがちです。

定型文とは、「ひょんなことから」「〜と言っても過言ではない」「〜をご存知だろうか」「〜みてはいかがだろうか」「ある意味〜」「〜に違いない」「見る価値あり!」「見逃すな!」「忘れられない1本」「珠玉の作品」「感動間違いなし」「いかがだろうか?」といった使い古された常套句です。

こういう常套句をいかに使わないで、バリエーション豊かな表現を使うかに頭をフル回転させて言葉をひねり出すわけです。

一人30本くらいを4人で手分けして毎月100本以上の記事を書いていたのですが、編集部のみんなが「同じ言葉やありきたりの言葉は絶対使わないぞ!」という意気込みで、競い合うように書いていました。

毎月、30本以上書くわけですが、文章が短いおかげで意外と飽きることもなく、集中力も維持できるので、文章力を磨くにはとてもいい教材だと思います。

書いた原稿は編集長が厳しく添削をしてくれるので日々勉強になったのですが、たとえ編集長や先輩の指導がなくても、「同じ言葉やありきたりの言葉は絶対使わないぞ!」という意識で原稿を書くだけで、自ずと文章力は磨けると思います。

そして、書評。アメリカン・エキスプレスの会員誌の編集を担当していたときは、ときどき特集記事に絡めて書評を書く機会がありました。書評はだいたい400字程度で多いときで月2〜3本でしたが、仕事でなければ読むことのなかったような本を毎月定期的に読めたのは、文章力を磨くのにとてもいい肥やしになったと思います。

最初は書評なんてどう書けばいいのか検討もつきませんでした。しかし、先輩たちが書いた過去の記事を参考にしながら、編集長から毎回容赦ないダメ出しをもらいながら、徐々にコツがつかめるようになっていきました。

映画レビューと少し違ったのは「主観」や「意見」が入る余地があったことです。しかし、書評は読書感想文ではありません。独善的にならないように客観性を保ちつつ、その本を読んでみたいと読者に思わせる魅力を伝えなければなりません。

この経験は、自分の文章力だけでなく、作家やライターに寄稿を依頼するときにもとても役に立ったと思っています。書評は主観と客観のバランス感覚、全体を俯瞰する「鳥の目」と細部を緻密に分析する「虫の目」を養うのに最適の教材でした。

そして3つめはAVの寸評。これは30代前半に一度フリーランスになったときに経験した記事作成です。毎月20本程度のAVを観て150字でまとめるというものでした。原稿料はとても安かったのですが、ただでAVが観られるから一石二鳥という軽い気持ちで始めました(笑)。

映画レビューと同じ150字でしたが、映画と違ってストーリー(あらすじ)はほとんど重視されません。重視されないというか、ストーリーはどれも似たりよったり、というかストーリーはないに等しいので、逆に作品ごとの違いを出すために、独断と偏見を交えて主観的に書くことが求められました。いかに気の利いたコピーをつけるか、いかに粋なフレーズを盛り込むか。つまり、大喜利みたいなものです。

最後は編集後記です。私は月刊誌に携わることが多かったのですが、月刊誌にはどれも編集後記というものがありました。編集後記はいつも校了間近の締めくくりとして書きます。たいてい50字〜60字という短い文章でしたが、私は編集後記を書くのに一番苦労したかもしれません。フリースタイルであることが多いので、どれだけ自分の担当した記事への熱い思いを伝えられるか、どれだけ面白い文章にするかに全力を注ぐわけです。また、最も自己主張ができる場でもあったのです。

私が経験したこの4つの記事作成の仕事はどれも読者ターゲットが決まっていましたが、これをたとえば、「10代の女性」「30代の男性」「50代の男女」といったように、自分でターゲット別に書き分けてみるとさらにいい訓練になると思います。

同じ内容でありながら、ターゲットによって表現のパターンや訴求ポイントを変えなければいけないため、それだけ表現方法や切り口の引き出しが増えるわけです。

以上、4つの記事の仕事を通して、効率よく自分で自信が持てる文章の書き方について紹介しましたが、共通点はどれも50字〜400字という短文だったことです。

文章力を磨くなら、1500字の原稿を1本書くより、150字の原稿を10本書くほうが近道だと私は信じています。

短い文章をたくさん書く経験を積めば、長い文章を書くことにはそんなに苦労はしません。なぜなら、短い文章を書くということは、無駄な文章を極限まで削り、重要なポイントを抽出し、わかりやすく簡潔にまとめる、といった文章作成に大切なことを一通り身につけることができるからです。長い文章を書くだけは、これほど効率よく訓練はできません。小は大を兼ねるのです。

とはいえ、そんな短い記事を書く仕事はなかなかないと言う人も多いでしょう。特にWebメディアは文字単価で計算するところがほとんどなので、1文字1円で150字の仕事なんて気が遠くなります。150字と1500字で苦労はさほど違いはありませんから。であれば、趣味を兼ねてブログでも書いてみてはいかがでしょうか。テーマはなんでも構いません。文字数をできるだけ短く設定して書き続けるのです。

ただし、ツイッターみたいに思いついたことを脊髄反射のようにつぶやくのでは意味がありません。1500字の文章を書くのと同じくらいの時間と頭を使って書くことが重要です。

そうすればきっと、1年後には見違えるほど文章が洗練され、書くことも楽しくなっているはずです。

ちなみに私はいま、ライター仕事はあまり受けていないのですが、この5年ほど150字3万円の原稿書きの仕事を楽しくやらせていただいています。文字単価の仕事がいかにナンセンスであるかを証明するためにこの仕事を続けています。


成田幸久(プロフィール)

 

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