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虫の目、鳥の目の推敲【vol.34】

自分の原稿の良し悪しを判断するのは非常に難しいものです。だからこそ、編集者という第三者が存在し、原稿の良し悪しを客観的にチェックしてくれます。

しかし、ライターも原稿を書き上げたあとは自分でチェックをしなければなりません。この作業を推敲と言います。推敲とは「文章を書いた後、字句を良くするために何回も読んで練り直すこと」を言います。

「推敲」の語源は中国の故事成語から来ています。詳しくは検索すればいろいろ説明が出てきますので興味のある人は調べてみてください。

推敲されていない稚拙な文章を読まされては編集者もうんざりします。それだけ無駄な時間を費やすことになるので、仕事は当然減っていきます。また、自身で文章力を磨いていく上でも推敲は欠かせません。

あの村上春樹氏も著書『職業としての小説家』で推敲の大切さを語っています。

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長編小説の執筆は野球と違って、いったん書き終えたところから、また別の勝負(ゲーム)が始まります。
僕に言わせてもらえば、ここからがまさにかけがいのある、おいしい部分になります。
第一稿を終えると、少し間を置いて一服してから(そのときによりますが、だいたい一週間くらい休みます)、第一回目の書き直しに入ります。ここではかなり大きく、全体に手を入れます。

村上春樹氏はこの本で「一週間くらい休みます」と言っていますが、たとえば文豪のヘミングウェイは「原稿を冷蔵庫で一晩寝かせた」と言われていますし、ホラー作家のスティーブン・キングは「少なくても6週間寝かせる」ことをすすめています。

推敲はほどよく忘れた頃にするのが一番効果的のようです。

ちょっと横道に逸れました。

さて。

推敲は「虫の目」と「鳥の目」で見ることをおすすめします。

「虫の目」とは、事象を細分化し、掘り下げて細かく見ること。見えないモノを見る目、そして普段見ない角度から物事を見ることを意味します。つまり、それは視点の深さ、観察力、洞察力、論理的思考のことを指します。

「鳥の目」とは、物事を全体的に大きくとらえること。また、広く物事を見て、その要点や本質を見抜くこと。こうした視点を持つことで、「向かっている方向は間違っていないか?」「無理な構造になっていないか?」「おかしな点がないか?」ということが見えてきます。 

原稿は最終的には編集者や校正・校閲者がチェックしてくれますが、誤字脱字や事実誤認があまりにも多いと、そもそもライターとしての信頼を損なうので、推敲は手を抜かず綿密にやる必要があります。

では、それぞれどんなことをポイントにチェックすればよいのか具体的に見ていきましょう。

虫の目の推敲のチェックポイント

以下のポイントを一つずつ潰していきます。

■事実確認はできましたか?
■誤字脱字はありませんか?
■表記ゆれはありませんか?
■重複表現はありませんか?
■トートロジー(同語反復)はありませんか?
■文体は統一されていますか?
■似た表現を繰り返していませんか?
■分割できる長い分はありませんか?
■もっといい表現で短くできる文はありませんか?
■不要な接続詞はありませんか?
■常套句は使っていませんか?
■曖昧な美辞麗句は使っていませんか?

虫の目推敲で一番手っ取り早いのは、Wordの校正機能を使うのがよいでしょう。またネットにも「so-zou.jp」「漢字使用率チェッカー」「Tomarigi」といった無料ツールから「文賢」「Brushup」といった有料ツールまでさまざまあります。

しかし、最初からこうした校正ツールに頼っていては自分の推敲能力が磨けませんので、まずは自分で推敲したあとに答え合わせのつもりで利用するのがよいでしょう。


虫の目の推敲のチェックポイント

鳥の目の推敲は校正ツールではなかなかチェックが難しいので、編集者と相談しながら、あるいは自分でスキルを磨いていくしかありません。原稿を書くたびに下記のようなチェックポイントを意識することで精度が上がり、何度も繰り返して推敲しているうちに、自ずときちんとしたレベルの文章が書けるようになっていくのではないでしょうか。

■主旨は明確ですか?
■誰が読むのか想定できていますか?
■読者が読んだあとに得るものは何ですか?
■客観的ですか
■論理的ですか?
■独自性がありますか?
■各章のポイントは明確化ですか? 
■順番を入れ替えることでわかりやすくならなりませんか?
■冒頭と結論がありきたりの表現になっていませんか?

チェックポイントが理解できていれば、自分の原稿のどこが足りないのか、どこが間違っているのか、どこがわかりづらいのか、などある程度は自己判断ができます。

推敲である程度のレベルを保てれば、あとは編集者のアドバイスでより上のレベルの文章をめざすことが可能になります。

推敲されていない誤字脱字や事実誤認の多い稚拙な30〜40点の原稿を90〜100点にすることは非常に難しく編集者もうんざりします。しかし、しっかり推敲された60〜70点の原稿を90〜100点にすることは可能ですし、その作業はライターにとっても編集者にとっても一番やりがいがあって楽しいものです。

修行における「守破離」ではありませんが、やはり文章もまずは「守」からです。上手に書くことよりも、まずは基本に忠実に正しく書くこからすべては始まると考えて間違いないでしょう。


成田幸久(プロフィール)

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