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間違うのは本当に人だけなのか?…

 また痛ましい事故が起きてしまった訳だが、「クルマが暴走」というニュースをtwitterで最初に見た時に、私が思ったのは秋葉原の無差別殺人のような事件だったのだが、それが違うと分かって、次に考えたのは“クルマは何だったのか、あのクルマでは?”という疑いだった。

 上の記事も含めて、クルマの車種を書いてある記事はなかったので、いくつもの記事やネットニュースをあたって、車種がやはりというか、「プリウス」だということが判った。

 この「プリウス」の事故と言えば、私と同じように、3年前に病院に猛スピードで突っ込み、3人もの方がなくなった事故を覚えている方もいるだろう。実は、その事故の判決が最近、出たばかりだったのだ。

    この事故では、クルマの運転手は「ブレーキを何度も踏んだり、シフトを【B(ブレーキ)に入れようとしたが、クルマが止まらなかった」とクルマのトラブルをずっと主張していたのだが、その訴えは判決では一切認めらず、「アクセルとブレーキを踏み間違えた」として、責任は全て運転手にあるということになったのだ。

    ただ、さほど高齢とも言えない、それもプロのタクシーの運転手が200m以上もアクセルとブレーキを踏み間違えたまま、猛スピードで暴走して一時停止の交差点を二つも越えて病院に突っ込むのだろうか?

  それこそ警察も同じように考えたのだろう。この事件では、「ブレーキを何度も踏みなおした」という供述をし続けるタクシー運転手に認知症や精神疾患の疑いがあるといって、2カ月間にも渡って精神鑑定をする「鑑定勾留」まで取られたという。勿論、その結果は異常なしだったからこそ、判決でも責任能力あり、として有罪になった訳だが。

  こういう判決は実はこれだけではない。

 ■ タクシー暴走 4人重軽傷 南ア市 4台衝突 「突然、操作不能に」 8日午後3時50分ごろ、南アルプス市飯野の国道52号で、タクシーが対向車と衝突するなど計4台が絡む事故が起き、2人が重傷、2人が軽傷を負った。現場は白根巨摩中の約100メートル東側。運転手Aさん(66)=同市浅原=のタクシーが国道を北進中、センターラインをはみ出し、対向してきた韮崎市大草町下条西割、パートBさん(60)の軽乗用車に衝突。Bさんの車は、反動で後ろからきた南アルプス市の男性会社員(39)の乗用車にぶつかった……(中略)……Aさんが勤務するタクシー会社によると、Aさんは事故後「国道で突然、車が加速した。ブレーキを踏んでも止まらず、エンジンを切ることもできなかった」と説明したという。
 事故があったハイブリッド車を扱う自動車販売店によると、最近販売された同じタイプの車でこれまでブレーキなどに関する不具合は報告されていないという。『山梨日日新聞』(2010年11月09日)※記事上は実名表記を仮名にしました
 

    このタクシー運転手による「プリウス」の事故でも、2011年11月8日に甲府地方裁判所で判決が出たのだが、こちらも「運転手のアクセルとブレーキの踏み間違いによる事故」であり、『少なくとも800メートルの距離を、アクセルとブレーキの踏み間違えに気がつかず運転した』と裁判所は認定したという。

   …本当にそんなことがあるのだろうか。  

    運転している人ならば判ると思うが、確かに後ろを向いてバックで車庫入れする時などには体も伸びているし、アクセルとブレーキを交互に踏み替えるので、特に高齢者などが踏み間違うケースがあるのは判る。また発進の時にギアを間違ったり、アクセルを踏みすぎて急発進する事もあるかも知れない。

    ただ、普通にアクセルを踏んで前に進んでいる状態でアクセルとブレーキを踏み間違う、それもプロのタクシー運転手が何百メートルも踏み間違え続けることなど考えられないのだが……何より運転手の証言は信じられないのに、なぜ「プリウス」というクルマはそんなにも信じられているのだろう。

 そもそも「プリウス」というのがどんなクルマか知っている人は多いとは言えない。単純にエンジンと電気モーターを組み合わせて走っているハイブリッドカーというだけではなく、「プリウス」は「ドライブ・バイ・ワイヤ (drive-by-wire)」、直訳すれば“電線による運転”。つまり、アクセルやブレーキ、シフトチェンジなどを従来の機械的な制御ではなく、全て電気信号による電子制御で行っている特殊なクルマなのだ。

   最近は普通のクルマでも、アクセルなどは機械式ではなくペダルを踏み込んだ角度をセンサーが感知して電子制御で行う、というタイプも増えているが、「プリウス」は全てのペダルやシフトレバーがこれ。特にブレーキが普通のクルマとは全く違う。

「プリウス」のブレーキは「回生協調ブレーキ」。簡単に言えば、車輪を回すモーターのスイッチを逆に入れ換えると発電機になって、それが抵抗力を生む仕組み(回生ブレーキ)を応用したもの。具体的には、ドライバーがアクセルペダルから足を離した段階で、モーターを発電機に変えて軽い回生ブレーキをかける。次に、ドライバーがブレーキペダルを踏むと、センサーでペダルを踏む速度と踏み込み量を感知して、ドライバーが要求する制動力がどの程度かを判断し、最大限の回生ブレーキと、足りない分を油圧ブレーキで補う。

     これで判るようにかなり複雑な仕組みで、ブレーキペダルを踏んだらワイヤーが引っ張られて油圧ブレーキが効く、というような普通のクルマとは全く違うのだ。

  もしブレーキのセンサーが反応しなかったら、アクセルから足を離したことをセンサーが感知しなかったら、そもそも制御するコンピューターが誤作動したら…そんな事を考えるのは当然だろう。

    例えば、上の判決などでも、最終的に決め手になったのは「プリウス」についている「EDR」という衝突から5秒遡った時点から衝突までの操作などを記録したドライブレコーダーの記録。これに「アクセルが踏まれていた、ブレーキが踏まれていない」という記録があった為に「アクセルとブレーキの踏み間違い」という結論になった訳だが、間違ってはいけないのは、これはあくまでもクルマのコンピューターがこういう指令を受けていたということ。必ずしも「人間がアクセルペダルを踏んでいた、人間がブレーキペダルを踏んでいなかった」ということとイコールではないのだ。

   過去にもトヨタは米国でも急加速事故などで問題になり、当初は「フロアマットがアクセルペダルに引っかかった為」とされたが、結局、アクセルペダルの交換やブレーキを制御するソフトの改良などのリコール、更にはブレーキをアクセルより優先させる「ブレーキオーバーライド・システム」の導入などの対応をとったのは事実(上の日本の事故などでも「フロアマットが引っかかった説」は一時、言われたが、結局、否定されたらしい)。

  トヨタの姿勢や対応などについては、上のこの記事を読んでもらうのがいいと思うが、いずれにしても「プリウス」は今までのクルマとは全く違うハイテクの固まりのようなクルマ。勿論、何重にもセーフティー機能や自己診断や修復の機能も付けられている筈だが、それでもエラーを起こすのが機械なのではないだろうか。 

  それこそ最新鋭のボーイング737でさえ、それもクルマなどと違って毎日毎日詳しい点検や整備を受けていても、センサーの些細なトラブルで墜落事故を起こしたように、どんなに進化した機械でもトラブルや事故は起きるもの。何よりボーイング737の時には、パイロットの間違い「ヒューマンエラー」では片付けずに徹底的に調査し、検証したからこそ機械の間違い「マシンエラー」が見つかったのではないのか?

    トヨタが日本最大の企業なのは判るが、「プリウス」はそのトヨタがつくっているというだけで、トヨタの広告に頼っているマスコミは勿論、警察も、国交省も、裁判所も、あまりに簡単に人間の間違い「ヒューマンエラー」と決めつけていないだろうか?

   今回もほぼ間違いなく、“アクセルが戻らなかった”という運転手の言葉は一顧だにされず、“半分ボケたような年寄りがアクセルとブレーキを踏み間違えて、とんでもない事故を起こした”で片付けられるのだろうが、本当に機械の間違い「マシンエラー」の可能性はないのだろうか?

   今回もまた人命が失われている以上、航空機の事故調査委員会と同じように、今度こそ徹底的に事故原因を調べることこそが本当に大切だと私は思うのだが…。


※上の写真は今回の事故を起こしたクルマではありません。photo by http://haisya-kansai.jp/

   【追記】

 また「プリウス」による事故が起きました。今回は、走行中ではなく、ブレーキを踏んで停止中に急発進したようで、池袋の事故とは微妙に内容が違うようですし、原因もクルマなのか、運転者なのかは判りません。

 ただ、今回もマシンエラーの可能性はマスコミなどにも取り上げられる事はなく、「アクセルとブレーキの踏み間違い」という、いつものヒューマンエラーで片付けられるのはほぼ間違いないことに暗澹たる気持ちがしています。



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