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大学教員始末記(4)

最先端技術を追いかける

「マスメディアと社会」2講目は、AIに代表される最先端技術で社会がどう変化しつつあるかをテーマに据えた。その変化でマスメディアはどう変わるのかも考えてもらうことにした。

そのための報道を常に追いかけた。毎年幕張で開かれるCEATECには可能な限り足を運んだし、ロボットが受付をするホテル(写真上)や、無人精算のコンビニなども見に行ったりした。

CEATEC2019で展示された自動運転車。幕張のまちで実証実験中だった

この7年間の変化の激しさは尋常ではない。自動運転を例にとれば、「近い将来、自動化が進みます」と報じられていたかと思えば、実証実験があちこちで始まり、少しずつ実用化が進んでいく様子が、日々のニュースから読み取れた。

授業では、医療、金融、農業など、「AIはあらゆる産業を再定義する」という孫正義さんの言葉通りに社会が大きく変わりつつあること、道路交通法改正からAI兵器の規制までルール作りが肝心だということ、一歩間違えば監視社会が進むことなどを伝えた。

「マスメディアと社会」の授業の受講者は一貫して4年生が多かった。就活をするうえでも、ニュースに触れておけという授業に興味を持ったのだと思う。職業を選ぶという視点からも、この回のテーマは重要だった。昔あった仕事(例えば窓をたたいて起こす仕事など)から、いまの子どもの3分の2は将来、いまはない仕事に就くという予測まで紹介した。

「ドリーム」という映画の話も盛り込んだ。主人公はNASAの有人宇宙飛行成功に貢献した黒人の数学者たちだ。この映画ではIBMのコンピュータがNASAに入るシーンもあるのだが、打ち上げ時には数学者の計算を優先したのだった。

マスメディアも例外ではない

マスメディアの変化も伝えた。企業の業績発表や高校野球の戦評にAIが使われはじめ、テレビにもAIアナウンサーが登場し、AIモデルによるCMまで登場しているのだから、無視できる存在ではない。ネットで届くニュースはパーソナライズ化されてもいる。

多くの職業でこうした技術が使われる背景には人出不足があるわけで、マスメディアも例外ではないということだ。そして、この働き手が足りないということは、次の回の授業にもつながる話題でもあった。

この回の授業後のレポート課題は、姿を消した仕事やこれから生まれるであろう仕事について調べたり考えたりしてまとめること、さらにメディアやコミュニケーションの変化についての見解を書くこと、とした。

後者の見解で、パーソナライズ化されて、自分に合ったニュースが届くようになることはいいことだと書いた学生がいたので、「自分に合った」とはどういう意味だろうと問いかけもした。「自分が必要とする」ニュースは、フィルターバブルやエコーチェンバーと呼ばれる現象と境目がないからだ。

最後の年には、この授業後課題を、生成AIも使った未来予測的なレポートとして書かせてみた。2023年春の時点では、まだ初めて生成AIを使う学生も珍しくなかった。秋学期の時点では、芸術学部の学生が生成AIを使って作詞をしたレポートなど面白いものもあって、使い方次第だと改めて思った。

                           (2024/5/5)

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