モズラーの「逆リヴァイアサン」、もしくはMMTの全貌的イメージ
「新しいMMT入門」の第8回!
さっそくですが、こんな動画が出ました!
ここ note とはアプローチが違うのですが、今後も動画と連動していろいろできたらいいなと思っています。
ぼくが退出した後の一コマ。
初めての経験でしたが、どうやら楽しんでいただけたようでうれしさいっぱいです\(^o^)/
上の動画でもすこししゃべっているのですが、2019年、日本にMMTが本格的に流入してきたとき、「国債をいくらでも発行できる理論だ」と解釈する人が続出して、ぼく(や心あるごく一部の人たち)は鼻白んだ目で見ていたものです。
あの頃「いや彼らも本当のことはわかっているから」といって、ぼくたち怒り狂う犬をなだめようとする人も現れましたが、今となっては…(笑
手前みそになりますが、ぼくによる最初のMMT批判は以下でした。「MMT現代貨幣理論」というとんでもないバカ翻訳本が出版されたのが2019/8/30だったので、その直前のこと。
2019/3/28 最初の中野さん批判
2019/4/10 最初の松尾さん批判
今ならもっと嫌らしくできますが、ぼく自身まだ彼らの論理構造や、またMMTそのもについてもちゃんとした理解を確立していなかった頃ではあるものの、まぁ、これはこれでマトモな批判でしょう(でも自分は恥ずかしくて直視できない)。
時は下って、いまも「MMTで国債発行からの財政支出」という声は、賛成派にしても反対派にしても主流勢力として残存しています。
ぼくは日本におけるMMTウォッチャーの第一人者として、確かにここに面白さを感じるわけですが、他方、そのような社会の生活者としての自分にとってはバカバカしい限りのことで。
この活動(新しいMMT入門)とはちゃんとしたMMTを楽しむ仲間が増えたらいいなと思いから始まっているわけでして。
しかしここで「MMTが国債発行論ではないとすればいったいそれ何」問題が浮上します。
今回はそれをやってみましょう。
MMT、あるいは税と財政支出とはそもそも何なのか?
王が宮殿を作るにせよ、兵を集めるにせよ、贅沢三昧するにせよ、施しをするにせよ、彼に必要なのは国民の彼のための「仕事」に還元されます。
結局のところそれしかありません。
そしてその手段は、税と財政支出という対照的であり対称的な操作のコンビネーションに尽きることになるのです。
これは社会体制を超えた、超歴史的な普遍的真理と言っても過言ではありません。
まず、「税」とは。
一般に税は「公共サービスを提供するための資金を集める機能」と理解されるわけですが、ここを読んでいる方はもうよくご存じの通り、政府はそのために資金を必要としません。
すると残りは何かと考えると、よく言われるものとして「再分配機能」「景気調整機能」がある。
ここで問題はわたしたちはどうしてもそれに飛びつき、それをむしろ固く信念してしまう方向に行くんですよね。
ええ、ぼくもそうでした。
しかし実は、ビューが反転するMMTでは「すべてが逆になる」ことを思い出した方がいいのです。
この図の「?」に当たる部分の説明というか理解が必要なのです。
その方が絶対に早いです。
またぼくとしても、前々回(第六回)に出回っているこの図はダメ(気持ち悪い)と断言したことでもありますし。
ただ第六回を書いていたぼく(つい四日前)は、代替の図を決めていたわけではないのですよ。
まずは無心に還ってから、下の表を作ってみました。
実際のところ主流のビュー(左)もMMTのビュー(右)も話は税からスタートするのですよね。
(と考えると「スペンディング・ファースト」というスローガンはミスリーディングになりかねないというか、このスローガンの強調も日本的かもですね。ふつうはむしろ「税が貨幣を動かす」が先に来るわけで。)
さて、こうなるとオペレーションはますます「熱力学」めいて来るのです(第五回のエントロピー話参照)。
「熱機関」から「仕事を取り出す」モデルと対比してみましょう。
それにしてもこう見ると、主流ビュー(左)は問題設定を間違えていることがくっきりします。
まず、インフレや金利が問題として残ることになるのですが、それは第二のオペレーションで政府自身が市場支配者として参加している案件なわけで、理論が循環しているように見える。
第二に、MMTビューが問題にする「貯蓄」と「負債」の問題が隠れる。このことはマイケル・ハドソンがよく指摘していましたが、経済学の訓練がこの問題を隠す働きをしてしまう。
上の「ダメな図」にも同じ問題があると言えるでしょう(もちろん問題はそれだけではありませんが)。
熱機関から仕事を取り出す図
では図の準備に入ります。
Try it という学習サイトから熱機関の図をお借りします。
これは高校レベルの熱力学で、大学レベルになるとエントロピーを考えることになりますが、ずっと変わらないのは「あるシステムに外部からの操作を加えると内部でどのようなことが起こるか?をモデル化する」という考え方と言えます。
そこでまずは「操作の対象」のイメージを作るあるわけですが。。。
そうしたらモズラーの呟きが目に飛び込んできました。
で、これだ!と思ったのです。
ぼくは芋づる式に、モズラーがおそらく昨年(2023年)ごろから言い始めている、経済を一人のランナーとして考える説明を思い出しました。
さすがモズラー、これはまったく素晴らしいアイデアだと思うので、全面的に採用することにします。
経済を一人のランナーとして考える(The economy as a runner)
彼のアイデアはホッブズのリヴァイアサン(1651年)のいわば「逆バージョン」と見ることができそう。
下図の表紙が知られていますが、ホッブズは、無数の人々で構成される統治者を考えたわけですね。
絵をよく見ると、王の身体がたくさんの小さな人々で構成されているのがわかります。
モズラーは「経済を一人のランナー」として把握することを提案します。
つまり、「統治する側」ではなく「統治される側」の方を、無数の人々で構成されている一つのもの(a runner)としてまず把握してみよと。
こんな感じでしょうか?
ここから熱力学です。
第一のオペ:課税
この巨大なランナーから「仕事」を取り出すために、政府は課税と財政支出という二つのオペレーションを組み合わせることになります。
まず、課税はこう。
小さくなって、頭に何かをかぶっています。
政府はランナーの頭にビニール袋をかぶせます。やってみるとわかりますが(真似してはいけません!)、こうするとやがてものすごく呼吸が苦しくなり、パフォーマンスが下がった状態になります。
その状態を人工的に作るのが、課税。
第二のオペ:財政支出
次のステップの「財政支出」のイメージは「ランナーが王のための『仕事』をすれば、袋が外され元の状態に戻る」です。
ここで「仕事」が取り出される。
STAP細胞みたいですね!
課税-支出のサイクルオペで「仕事」を取り出す図をまとめましょう。
この図こそが、上の「ダメな図」にとって代わるべき、MMTの全体像ではないでしょうか\(^o^)/
せっかく作ったので説明していきましょう。
青い矢印はランナーのパフォーマンスを表し、税債務の負荷でパフォーマンスが落ちることを表します。
ではピンクの矢印、灰色の矢印は?
ピンクの矢印は Drag(抗力)。
Drag(抗力)
ここからは、熱力学ではなく航空力学のアナロジーぽくなります。
そこでは進行方向と反対向きに働く力を Drag と呼ぶ。下図の通りです。
実は以前から drag という語はモズラーに独特な言葉の使い方だなと見てはいました。もちろん完全に彼オリジナルというわけではなくて、投資用語で ”tax drag” という表現があるにはあります。
けれども "the drag of the tax liabilities" という表現は彼しかいないかもしれない。
ぼくはかつてドイツ文学を研究していたせいか、たとえば「ゲーテにおける”崇高”」のような要領でぼくは彼の言葉を分析しているからそういうことがわかるんです。
そして彼がついに「頭にビニール袋を被ったランナー」の比喩に到達したのは、ぼくが知る限り結構最近のことなんですよ。
2023/7/20
2023/10/2
2024/1/1
改めて、これらを並べて眺めるとさまざまなことを考えさせられます。
さらに「図6:課税-支出オペで「仕事」を取り出す図」を作ってみると実にいろいろなことを語ってくれる把握であることがわかります。
たとえば。。。
熱力学のカルノーサイクルは「理想気体」の挙動を操作的に吟味するわけですが、ここではちょうど「理想人間」のようなものが思考されている。それも経済学の「合理的個人」とは全く違う形で。
あと、この「理想人間」はマルクスの「抽象的人間」と同じものとみなすことができてしまう!
さらにはJGPのこと、財政スペースのこと、エントロピーのこと、などなど、連想は尽きません。
モズラーという人はいわゆる「言語優位」なタイプで、ぼくは『視覚優位』というやつだと思うんですよね。
ぼくは図にするといろいろ見えてくるのだけれど、彼は言葉でそれをやっているのだろうと思う。
というわけで、
次回、この図をもう少し深堀していきます。
そのことによって、「国債でどんどん財政支出\(^o^)/」ではない、MMTの大まかな全体像を皆さんは一気に把握できることでしょう。
うらやましい!
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