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【短歌連作】粉微塵――微塵の子Ⅱ

ふたり暮らし。それは楽しいことだけじゃない。
次第にぶつかり合うことも増えた。
ぶつかった後、やり直すための時間が
思うように取れないまま、すがりつくこともあった。

教育的配慮だったな。あの笑顔。あの励まし。あの、あれは、あなたの

一、換気。二、給湯器の主電源。三、継続は力。と、あなたは

内心で永平寺。と唱えていたらまるで永平寺なの。あなたが

遅くなります、返信は不要です、帰れない、変われないと、あなたへ

休日はあなたと過ごす。そうやってこころを守る。あなたと、あなたと……

切り出したのはあなたからだった。
あなたは諦めない気持ちで、続けることを選んでくれた。
しかし、そこには共依存に陥りかけていた関係性を
ほどくことも条件に含まれていた。

<プロジェクトチーム(定員はふたりだけ):恋人ごっこは解散しよう>
<プロジェクトチーム(改組/定員はふたりだけ?)もう、家族になろう>

「ねえきっと近すぎたんだ 家族って各々生きていくべきじゃない?」

まづもろともにかがやく宇宙の微塵となりて無方の空にちらばらう
しかもわれらは各々感じ 各別各異に生きてゐる

宮沢賢治『農民芸術概論綱要』


ふたりの生活のあり方を見直す。
しんどい作業だった。 
本業の忙しさも手伝って
私はしばしば情緒不安定になった。
あなたは我慢強かった。
私を叱りながらも、前に進む方法を模索してくれた。

傷つけるかも知れないと宣言をすることですでに傷つけていた

いつからか減点式の書置きを読む 二十五時 水虫が膿む

深夜には二千年代ばかり生えていて 好きじゃなくてもすき家に入る

そうやってちょうどいい間柄が
やっと見えてきて、
将来に向けた道筋もつかんだ
2月の終わり。
仕事都合で、私はあなたをひとり置いて、
家を出ていくことになった。当面。
行動制限があり、いつでも帰れるわけじゃない。

当然、抵抗した。
でも、覆らなかった。

近づきすぎた間柄について
考え直すには必要な距離と時間かも知れない。
しかし、「家族になること」に
向けたプロジェクトチームとして、
いちど組んだ生活を解体し、離れ離れになった上で、
私たちは動き出すこととなった。

巨きな人生劇場は時間の軸を移動して不滅の四次の芸術をなす
おお朋だちよ 君は行くべく やがてはすべて行くであらう

宮沢賢治『農民芸術概論綱要』

(ハワイより船に乗ろうと選ぶ余地すらなく進むしかないのかよ)


人生が牙を剝いてもなお塵や芥を拭い暮らしは続く

とぼとぼと歩くな、春は分かたれた 半分の月とともに走れば

まづもろともにかがやく宇宙の微塵となりて無方の空にちらばらう

宮沢賢治『農民芸術概論綱要』