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【感想】光る君へ  第17回「うつろい」

前回から道隆が明らかに「飲水の病」にかかっているとわかっていましたが、病状が悪化、そして亡くなってしまいました。
井浦新さんは『平清盛』で崇徳上皇を演じられた際に、朝廷へ呪詛を吐きながら憤死(激しい怒りのうちに死ぬこと)する演技をしていましたが、藤原道隆役においても呪詛かのように「伊周を関白に」「定子は早く皇子を」と、言い続けていました。
今際の際は愛妻に看取られて幸せそうだったという違いはあるものの、井浦新さんは再び気の触れた役を演じて、どちらも見事に視聴者を魅了させてくれたのでした。
狂った人の役をやるのが本当にうまい。

道隆に関連して、安倍晴明についても。
死相を浮かべた道隆の形相は、何かに取り憑かれた妖物そのもの。
しかし安倍晴明ははっきりと「呪詛ではなく寿命」と言い切りました。
安倍晴明は多くのフィクションで悪霊を退散してきましたが、今作の安倍晴明は実にリアリストな側面を持っていて、道隆についてもこれ以上仕える価値はないと見限る非情さ。
これまで見てきた「安倍晴明」とは一味も二味も違うけど、それでも道隆邸から陰陽寮に戻ってきた晴明がまじないを唱えると、それまで風のようにザワザワとしていた音が鳴り止むという演出で、これまでの「安倍晴明」像を完全に壊さずに妖しげな術で穢れを断ち切ったと思わせてくれました。
なんという憎い演出。
これまでに幾つかの「安倍晴明」を見てきた私も大満足の今作の「安倍晴明」です。

かつては創作するタイプのオタクだった私が、今回一番まひろの気持ちが分かったのは「何を書きたいのかは分からない。けれど筆をとらずにはいられない」という心の声。
おそらく脚本の大石静さんや多くの創作するタイプの人は経験したことがあるとは思うのですが、「まとまっていないけど、今すぐ何か書(描)かないと心が落ち着かねえ!」となることがあります。
創作意欲というのは、そんなにお行儀よく湧いて出てこないし、天から降ってくることもありません。
衝動が起きて冷静になった頃にロジカルな思考に戻り、そうしてやっと人に見せられるものが出来上がるのです。
道綱母との出会いで書くことは心の癒しであると知り、さわさんのおかげで無性に筆を取りたくなる衝動を覚えたまひろ。
夜空に浮かぶは上弦の月。
まひろにとっての望月までもう少し、といったところなのでしょう。


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