溶連菌性咽頭炎 Q&A (ver.1)

溶連菌性咽頭炎についてのQ&A形式の記事です.

*溶連菌は一般的には複数の意味で使用されており, 詳細は後述していますが, ここでは断りがない場合は溶連菌とはA群β溶血性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)の意味で使用しています.

溶連菌とは何ですか?

溶連菌と一般に呼ばれるものはA群β溶血性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)(GAS)という名前の菌のことで, またA群β溶血性連鎖球菌による咽頭炎・扁桃炎の意味で使用されていることが多いです.

溶連菌は小児の咽頭炎の中で比較的よくみられる原因で, 小児の咽頭炎の原因の20-30%を占めるとされています(*1).

ちなみに溶連菌は皮膚感染症や頸部リンパ節炎などその他の様々な感染症を引き起こす事があります.


溶連菌性咽頭炎はどのような症状がみられますか?

溶連菌性咽頭炎の症状は主に3歳未満と3歳以上で分けて考えるのが好ましいです.

<3歳以上>
溶連菌性咽頭炎の症状としては発熱, 咽頭痛, 頭痛, 腹痛, 嘔気・嘔吐, 頸部リンパ節腫脹, 発疹などがみられることが少なくないです. また鼻汁や咳嗽がみられやすいその他のウイルス性上気道炎(風邪・感冒)と異なり, 溶連菌性咽頭炎では鼻汁や咳嗽はみられないことが多いことが特徴的です.

<3歳未満>
3歳未満では症状が非典型的となりやすいことが知られていて, 鼻汁や鼻閉などが目立つこともあります.(*2)



溶連菌性咽頭炎はどのように診断するのでしょうか?

溶連菌は咳嗽や鼻汁を欠く事がある, 腹痛や嘔気・嘔吐を伴う事が少なくない, などウイルス性咽頭炎とやや異なる特徴が知られているものの, 多くは症状が重複しているために特定の症状や徴候のみで診断することは難しいです.

ある研究で, 症状や徴候などの組み合わせで臨床的に高い精度で診断できるかを検討していますが, 現時点で知られている方法では臨床的に高い精度で診断することはできないと報告されています.(*3)

従って診断には臨床的に疑って検査を用いて診断する必要があります. 検査には
・咽頭スワブを用いた迅速検査 (綿棒のようなものでのどの奥をこすられ, 15-30分程度で結果が出る検査)
・咽頭培養
のいずれかが用いられます. 咽頭培養の方が診断精度は良いのですが, 結果が出るのに数日必要なことから, 一般的な臨床現場では迅速検査が用いられていることが多いと思われます.
従って臨床的に溶連菌性咽頭炎が疑われ検査で陽性となり診断される, というのが一般的な経過になるのではないでしょうか.



どのような場合に溶連菌性咽頭炎が強く疑われるのでしょうか?

一般的には年齢や流行状況や症状, 身体所見などから総合的に判断することになります.

具体的な指標としては
・ウイルス性が強く疑われる流行状況
・ウイルス性が強く疑われる症状(例: 咳嗽, 鼻汁, 嗄声, 口腔内潰瘍)
がある場合には, 可能性が低いと判断されます.
例えば, 発熱や咽頭痛がなくて咳が強く続いているような状態であれば, 溶連菌が関与している可能性はとても低いと考えられます.

また逆に溶連菌性咽頭炎がより疑われる指標としては
 ・猩紅熱様発疹
 ・口蓋点状出血
 ・滲出性咽頭炎
 ・嘔吐
 ・有痛性頸部リンパ節腫脹
が知られています.(*3)
その他いくつかの指標が知られているかと思いますが, それらを参考にしながら判断することになります.



溶連菌性咽頭炎を治療する目的は何でしょうか?

溶連菌性咽頭炎と診断された場合には後述の通り抗菌薬で治療を行いますが, 治療することにより以下に対して有益であることが知られています:

・症状期間の短縮
・周囲への感染のリスクの軽減
・溶連菌による合併症(扁桃周囲膿瘍など)のリスクの軽減
・リウマチ熱のリスクの軽減



3歳未満では検査は通常適応とならないと聞いたのですが?

米国感染症学会のガイドラインでは, 以下の理由により3歳未満では流^亭での診断的検査の適応とならないとしています:(*1)
・3歳未満ではリウマチ熱は稀
・3歳未満では咽頭炎のうちで溶連菌が占める割合が低い
・3歳未満では典型的な症状を示すことが少ない

ちなみに兄弟で溶連菌性咽頭炎と診断された人がいる, といった危険因子がある場合には考慮されるかも知れないとされています.



溶連菌性咽頭炎はどのように治療するのでしょうか?

溶連菌感染症に対してはペニシリン系が第1選択とされています. セフェム系抗菌薬の短期療法も同等の効果があることを示す報告がいくつかあり, 両者はほぼ同等と考えられています.

小児呼吸器感染症診療ガイドライン2017では以下の理由によりペニシリン系のアモキシシリン(AMPC)が第1選択となっています:(*4)
・AMPCよりも経口第3世代セフェム系の方が抗菌スペクトラムが広い
・AMPCよりも経口第3世代セフェム系の方が高価
・セフェム系抗菌薬ではリウマチ熱予防のエビデンスがない

 AMPC治療は10日間であることと比較してセフェム系ではより短期間(5日間)であるため, 最後まで抗菌薬を内服してくれる可能性は短期療法の方が高いという有益性はあります. しかし有益性を上記の理由が上回るため, 少なくともペニシリン系が使用できる状況で経口第3世代セフェム系を選択するのは好ましくないかもしれませんがよいと思われます.



溶連菌性咽頭炎の罹患後に尿検査は必要でしょうか?

結論から述べれば全例(スクリーニング)で行う必要はないと思います.

溶連菌性咽頭炎の罹患後2週間程度で急性糸球体腎炎と呼ばれる合併症を発症することがあります. 適切な抗菌薬治療を行ってもその合併症は予防できないため, その発見目的で, 溶連菌感染後2-3週間で全例で尿検査が行われていることは少なくないと思われます.

尿検査を全例で行うメリットとしては考えられるものとしては
・腎炎の発症を早期に発見できる
・腎炎を発症する頃の経過をみることができる
ことが挙げられるかと思います.
ただし, これらが実際にメリットとなるかと言えばそうとも限りません.
また尿検査を行うこと, 受診することのコストなども考慮しなければなりません.

ちなみに溶連菌性咽頭炎罹患後2週間だと, 児は通常元気であることから, 尿検査提出のための受診時には児が病院に来ていない, というのも実際には少なくないと思います. その場合には後者のメリットは消えてしまっていると言えるかもしれません.

さて, 全例で検査する上では少なくとも以下の点を考慮すべきかと思われます:
・早期発見することの有益性はあるのか
・尿検査の時期の設定の適切性と, 尿検査後の発症例の可能性についてどのように考えるか
・軽症例をどのように取り扱うか(軽度の血尿のみの場合, 良性家族性血尿などとの鑑別の困難さ, その後のフォローの適切性)

早期発見することの有益性はこれまで知られていません. つまり早期に発見, あるいは早期に介入しても, その後の予後が良いなどの報告は知られていないです.

尿検査の時期の適切性については
・2週間後に尿検査 → 2週間後以降で発症する例は結局見逃すことになるのでは?(尿検査を行っていない状況と同じではないのか?)
・3週間後に尿検査 → 2週間程度で発症する例では尿検査は間に合わない(尿検査を行っていない状況と同じではないのか?)
という問題が生じるかと思います. かといって頻回の検査を行っている施設は多くないと思います.

腎炎は軽症例も少なくないことから, 見た目には分からない程度の血尿のみが生じることもあります. ただ, その一方で小児では良性の軽度の血尿が持続する良性家族性血尿などの症例も稀ではありません.

腎炎の早期なのか良性の血尿なのかの区別は1回限りの検査では困難なことも多いと思われますが, 後者では6-12か月に1回程度のフォローでよいですが, 前者ではより早期のフォローが必要になると考えられるでしょう(そうでなければ最初に発見する意味がなくなってしまいます). その際にフォローの適切性については考慮しなければならないかと思います.

尿検査は侵襲性がないことからとりあえずで実施している, ということもあるでしょうが, 不要な検査は極力避けるべきであるため, 溶連菌性咽頭炎罹患後の尿検査についてはよく検討すべきかと思います.



治療後も検査で溶連菌が陽性になるのですが?

溶連菌性咽頭炎は適切な抗菌薬治療により多くの症例では, 早期に検査で菌を認めなくなります. しかし一定の割合で症状は改善しても咽頭に溶連菌を持続して認める状態となることがあり, その状態はキャリアと呼ばれています.

キャリアに対してはルーティーンでは治療は推奨されていません. それは
・リウマチ熱を引き起こすリスクが極めて低い
・周囲へ感染させるリスクが低い
ためです.

従って, 通常は治療は不要であるため, キャリアかどうか(除菌されているかどうか)の検査も不要です.



溶連菌性咽頭炎を繰り返すのですが?

溶連菌性咽頭炎は5-15%程度で反復するとされています. ただし全例が溶連菌が原因というわけではなく上述のキャリア+ウイルス性咽頭炎のこともありえると思います. ただ実際にはその場合でも溶連菌性咽頭炎として診断・治療されるかとは思います.

繰り返す症例に対しても治療は明確に決まっているわけではありませんが, 一般的に初回治療と同様にペニシリン系が使用されます. ただし, 2回目か3回目の再発時にはクリンダマイシンを用いるとする意見もあります(*5).

ちなみに繰り返す症例であっても治療後に検査で除菌を確認する必要はありません.



溶連菌性咽頭炎の出席停止期間はどのようになっていますか?

溶連菌性咽頭炎では, 適切な抗菌薬開始から24時間経過するまでは出席停止となります.

ある研究で治療開始後12-23時間の再検査で溶連菌陽性だった患者は9%のみだったということが示されており(*6), 米国では今後24時間から12時間に短縮されるようです.
従って, 日本でも今後出席停止の期間は短縮されるかもしれません.


<参考文献>
*1  Clinical practice guideline for the diagnosis and management of group A streptococcal pharyngitis: 2012 update by the Infectious Diseases Society of America. Clin Infect Dis 2012; 55(10): e86-102
*2  Detection of group A streptococci in children under 3 years of age with pharyngitis. Pediatr Emerg Care 1999; 15(5): 338-340.
*3  Accuracy and Precision of the Signs and Symptoms of Streptococcal Pharyngitis in Children: A Systematic Review. J Pediatr 2012; 160: 487-493.
*4  小児呼吸器感染症診療ガイドライン2017.
*5  Moffet's Pediatric Infectious Disaeses. 5th edition.
*6  A Reappraisal of the Minimum Duration of Antibiotic Treatment Before Approval of Return to School for Children With Streptococcal Pharyngitis. Pediatr Infect Dis J 2015; 34(12): 1302-1304.

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