ワクチン接種後の水痘 (Breakthrough Varicella)

要約

・水痘ワクチン接種の効果は2回接種でも約95%であり, 時に接種している児でも水痘を発症することがありbreakthrough varicellaと呼ばれている
・ワクチンが1回接種のみの児や, 接種後から時間が経過している児でかかりやすいかもしれない
・症状は通常の水痘よりも軽い傾向があるが, 典型的な水痘となることや合併症を併発する例も存在する
・診断は臨床診断で行われるが, 軽症例では難しい例も存在するかもしれない.


はじめに

水痘はヘルペスウイルス科に属する水痘・帯状疱疹ウイルス(Varicella Zoster virus; VZV)によって引き起こされる感染症である.
水痘は特徴的な皮膚症状がみられるほか, 時に発熱といった全身症状がみられることもあり, 主に小児科領域でみられるが, 感染歴のない成人例も稀にみられ重症化のリスクがより高いことが知られている.

水痘にはワクチンがあり, 現在乾燥弱毒生水痘ワクチンが用いられている.
任意接種として1987年3月から接種可能となったが接種率は高くなく, 導入当初は20%弱でその後上昇傾向はみられたが2010年頃でも50%程度であった(*1). そのためワクチン導入後も引き続き多くの水痘症例がみられていた.

水痘やその合併症などを減らすため, 接種率向上の必要性であると考えられるようになり, 2012年に日本小児科学会で2回接種のワクチン接種が推奨されるようになった.
さらに水痘ワクチンは2014年(平成26年)10月1日から定期接種となり接種率は大きく向上(平成29年度 1回目約98%, 2回目約90%)し(*2), 導入後から水痘症例は大きく減少した(図)(*3).

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(図: 水痘の小児科定点報告 報告者の推移, 参考文献3の図1から引用)

水痘ワクチンの効果はとても高く, 水痘の発症に対しては1回接種で80%, 2回接種で95%程度と考えられている(*4).
さらに神経学的合併症に対する予防効果がある可能性についても示されている(*5).
[水痘ワクチンについての詳細は水痘ワクチンQ&Aの記事に記載している]

その一方で時に水痘ワクチンの接種後にも水痘を発症することが知られており, 一般的にbreakthrough varicella(BV)と呼ばれている.

日本でのワクチンの定期接種導入後も散発的に水痘の小規模な流行がみられており, その中でもBVの症例も少なくないと考えられる.
水痘は周囲への感染力が強い感染症の1つであることが知られており, 免疫機能が低下した人など重症化のリスクが高い人への感染をなるべく避けるためにも診断に至ることは重要であると考えられる. そのためBVへの理解を深めることの意義は小さくないだろう.


疫学

実際にどのくらいBVが発生しているかはわかっていない.
ただし2回接種であっても有効率は100%ではないことから一定数は発生していると考えられる.

危険因子
1回接種と比べて2回接種の方が有効率が高いことから, 2回接種と比べて1回接種の方がBVのリスクは低いと考えられる.
2018年のシステマティックレビュー・メタアナリシスでも2回接種の方がBVのリスクが低いという結果が示されている(*6).

またワクチン接種後から時間が経過している方がBVのリスクは高まる可能性が指摘されている(*7, 8).

さらに集団におけるBVの症例数が多い方がよりリスクは高い可能性が示されている(*8).
従って, 症例数が増えてくるとアウトブレイクに向かっていく可能性があり, 実際に学童前の児でのアウトブレイクも報告されている(*9)

また女性ではややリスクが低い可能性が報告されている(*10). また一般的に喘息のある児でも水痘ワクチンの効果は変わらないと考えられているが(*11), 喘息のある児ではややリスクが高くなる可能性が報告はある(*12). ただし十分には検討されておらず, さらなる研究が求められるところだろう.


臨床的特徴

一般的にはワクチン接種していない児で発生した水痘と比べてBVは軽症となりやすいと考えられている.

ワクチンを接種した児と接種していない児での水痘を比較した研究では, BVは:
・発熱がみられる割合が低い, また有熱期間がより短い
・発疹が少ない, また発疹の期間が短い
・発疹のほとんどが班状丘疹である
・合併症が少ない

傾向にあることが示唆されている(*13).
また水痘が中等症以上(皮膚病変が50個以上)となるリスクや合併症が起こるリスクも低いことが示されているが, 逆に言えばBVであっても中等症以上となることや合併症が起こる例はあるということには注意が必要だろう.

発疹の分布については, 通常の水痘では頭皮から始まり, その後体幹や四肢へ広がる, そして体幹でもっとも皮膚病変が多いという特徴がある.
BVの皮膚病変の分布に関しては, 通常の水痘との違いについては特に知られていないため, 同様の分布傾向を示すと考えられる. 


診断

一般的には水痘ワクチン接種から42日以上経過した後に発症した水痘がBVと定義されている(*7).
時に水痘ワクチン接種後に全身性に水痘でみられるような発疹が数個(平均5個)出現することがあるが, これは水痘ワクチンによる副反応でありBVと異なることについては注意が必要だろう.

BVにおいても通常の水痘と同様に基本的には臨床的に診断される.
軽症ではない, 通常の水痘と同様の臨床像を示す場合には診断は比較的容易だと思われる.
その一方で軽症例では前述の通り皮膚病変が少なかったり, あるいは水疱性病変の形成が乏しい傾向がみられるため, 臨床像が典型的ではなく診断が難しい場合もある.
特にエンテロウイルスなどによるウイルス性発疹症との鑑別が困難な場合があるかもしれない.

手足口病は手・足・口に特徴的に発疹がみられるウイルス感染症であるが, 近年皮膚病変がより広範にみられやすいものがみられるようになってきており(*14), BVとの鑑別疾患となりえるかもしれない.
しかし水痘では手掌や足底に皮膚病変がみられることは稀であり, これが鑑別のポイントとして有用だろう.


治療

水痘は一般的に自然治癒する感染症であり, より軽症な傾向があるBVでも同様であると考えられる.
従って一般的には抗ウイルス薬やカチリ®(フェノール・亜鉛華リニメント)と呼ばれる外用薬が用いられることがあるが, いずれもルーチンでは不要であろう.

ただし一般的な水痘で重症化するリスクがより高いと思われる因子を有する場合には抗ウイルス薬も検討されるかもしれないが, 決まった見解はない.


管理

保育所・幼稚園や学校の出席停止期間については, BVにおいても通常の水痘と同様の基準が適応される.
従って「全ての発疹が痂皮化するまで」は出席停止とすべきである.

前述の通り, 集団における患者数が多いとよりBVの発症リスクが高まる可能性があるため, 早期の発見が流行形成の抑制には重要であると思われる.



<参考文献>
*1 Ozaki T. Long-term Clinical Studies of Varicella Vaccine at a Regional Hospital in Japan and Proposal for a Varicella Vaccination Program. Vaccine 2013; 31(51): 6155-6160.
*2 厚生労働省. 定期の予防接種実施者数. 
*3 国立感染症研究所. 水痘ワクチン定期接種化後の水痘発生動向の変化 ~感染症発生動向調査より・2019年第37週時点~ (掲載日: 2019年10月16日).
*4 Marin M, Marti M, Seward JF, et al. Global Varicella Vaccine Effectiveness: A Meta-analysis. Pediatrics. 2016; 137(3): e20153741.
*5 Streng A, Grote V, Liese JG, et al. Decline of Neurologic Varicella Complications in Children During the First Seven Years After Introduction of Universal Varicella Vaccination in Germany, 2005-2011. Pediatr Infect Dis J. 2017; 36(1): 79-86.
*6 Zhu S, Zeng F, Zhang, J, et al. Incidence Rate of Breakthrough Varicella Observed in Healthy Children After 1 or 2 Doses of Varicella Vaccine: Results From a Meta-Analysis. Am J Infect Control 2018; 46(1): e1-e7.
*7 Chaves SS, Gargiullo P, Seward JF, et al. Loss of Vaccine-Induced Immunity to Varicella Over Time. N Engl J Med 2007; 356(11): 1121-1129.
*8 Qin W, Xu XK, Su H, et al. Clinical Characteristics and Risk Factors Associated With Breakthrough Varicella During Varicella Outbreaks. Hum Vaccin Immunother 2020 Mar 2.
*9 Fu J, Wang J, Ma T, et al. Outbreak of Varicella in a Highly Vaccinated Preschool Population. Int J Infect Dis 2015; 37: 14-18.
*10 Cheng HY, Chang LY, Huang LM, et al. Epidemiology of Breakthrough Varicella After the Implementation of a Universal Varicella Vaccination Program in Taiwan, 2004-2014. Sci Rep 2018; 8(1): 17192.
*11 Verstraeten T, Jumaan AO, Chen RT, et al. A Retrospective Cohort Study of the Association of Varicella Vaccine Failure With Asthma, Steroid Use, Age at Vaccination, and Measles-Mumps-Rubella Vaccination. Pediatrics 2003; 112(2): e98-103.
*12 Umaretiya PJ, Swanson JB, Juhn YJ, et al. Asthma and Risk of Breakthrough Varicella Infection in Children. Allergy Asthma Proc 2016; 37(3): 207-215.
*13 Chaves SS, Zhang J, Seward JF, et al. Varicella Disease Among Vaccinated Persons: Clinical and Epidemiological Characteristics, 1997-2005. J Infect Dis 2008; 197 Suppl 2: S127-131.
*14 Huang WC, Huang LM, Chan LY, et al. Atypical Hand-Foot-Mouth Disease in Children: A Hospital-Based Prospective Cohort Study. Virol J 2013; 10: 209.

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