クループ


はじめに

・クループは犬吠様咳嗽が特徴的な小児でよくみられる呼吸器疾患であり, 通常吸気性喘鳴や嗄声を伴う.

分類

・クループは原因や障害部位によって大きく以下の4つに分類される:(*12)
 ・喉頭気管炎
 ・喉頭気管気管支炎および喉頭気管気管支肺炎
 ・痙性クループ
 ・喉頭ジフテリア

・上記の分類のうち, クループの多くは喉頭気管炎か痙性クループである
・用語として似たものが多く, クループは総称して急性喉頭炎と呼ばれることもあるが厳密には異なるものである.

痙性クループ
・夜間に突然発症し, 声門下領域における炎症を伴わない浮腫が生じることで起こるクループで, 繰り返し発症することがある.
・ウイルス感染が引き金となるが, ベースとしてアレルギー素因の存在との関連性も指摘されている.
・クループの家族歴は繰り返すクループの危険因子である可能性が指摘されている(*6).



疫学

年齢
クループは通常6か月から3歳までが好発年齢として知られている. 米国での研究での入院症例を検討した研究でも, 5歳未満の小児が全体の90.9%を占めていた(*3)

性別
・やや男児の方が罹患しやすく, 一般的には男児:女児 = 1.4:1とされている

季節
・クループを引き起こす原因として頻度の高いパラインフルエンザウイルス1型(PIV1)が秋に流行しやすいため, 秋にクループが流行しやすいとされている(*5).
・日本でのデータはあまりないが, 三重県で行われた研究では7-10月にかけてPIV1の検出数が増えていた(*4).



病因

・頻度の高い喉頭気管炎, 痙性クループはいずれもウイルスによって引き起こされることがほとんどである.
・クループを引き起こす主なウイルスとしては以下のものが挙げられる:(*3, *13)
 ・パラインフルエンザ1型 (最も頻度が高い)
 ・パラインフルエンザ2型, 3型
 ・RSウイルス
 ・ヒトボカウイルス
 ・ライノウイルス
 ・エンテロウイルス
 ・インフルエンザA
 ・コロナウイルス
 ・麻疹ウイルス

パラインフルエンザウイルス(PIV)
・PIV1がクループの最も多い原因で, 前述の通り, 一般的には秋から冬に流行する.
・PIV2は時々クループのアウトブレイクの原因となるが, 通常はPIV1より軽症である.

麻疹
・麻疹が未だに流行している地域では麻疹はクループの重要な原因である

インフルエンザウイルス
・インフルエンザウイルスによるクループはPIVによるクループと比較してより重症となる傾向があることが示されている.
・PIVによるクループと比較してインフルエンザによるクループで入院した時は入院期間が長く, 喉頭症状の再発による再入院の危険性が高くなる傾向があるとする報告がある(*9). また同報告では入院中にエピネフリン吸入が使用される頻度も高かった(48% vs 11%)ことも示されている.
・ある報告ではクループ全体に占めるインフルエンザAの割合は9.0%を占めていた(*13). 従ってインフルエンザによるクループも珍しくはないと思われる.

胃食道逆流(GERD)
・GERDと反復性のクループについては関連性は指摘されており, GERDの治療によりクループ症状の発生が減少する可能性は指摘されているものの, エビデンスとしてはやや乏しい(*10).



臨床症候

・犬吠様咳嗽, 吸気性喘鳴, 嗄声の3つの症状がみられることが特徴的.
・夜間に症状が増悪しやすい特徴があり, 咳などによって睡眠が障害されることもある
・症状の持続期間は平均2-3日程度とされる(*18)

犬吠様咳嗽
・"犬が吠えるような咳"と表現されるが, 実際にはオットセイなどに似た, など様々な訴えで表現されることがある
・特徴的な症状であり診断にとても有用であると思われる. 一方, 夜間に症状がみられ日中に受診した場合にはその咳嗽の状態の把握が難しく, 診断が難しいケースもある.

時間帯による症状の変化
・クループでは日中よりも夜間に症状が増悪しやすい傾向があることが知られている(*8)
・韓国での研究では, 救急外来への受診は0時から3時の間がピークであったと報告されている(*7).



検査

臨床検査
・血液検査は診断において必要ない. 後述する鑑別診断が疑われる場合には行われることがあるかもしれない.

画像検査
・正面喉頭X線では声門下の狭窄を反映した画像所見がみられることがあり, steeple signやpencil signと呼ばれる.
・側面喉頭X線はその他の診断(例: 喉頭蓋炎, 細菌性気管炎)が疑われる場合に行われることがある.



診断

・基本的に臨床経過や身体所見などから診断し, 臨床検査や画像検査は不要である.
・下記に挙げられるようなその他の診断が疑われる場合には上記検査を実施することがある.


鑑別診断

主な鑑別診断(*8)
・喉頭蓋炎
・細菌性気管炎
・異物誤嚥
・咽後膿瘍
・扁桃周囲膿瘍
・血管性浮腫
・アレルギー反応
・心因性咳嗽

喉頭蓋炎
・喉頭蓋炎はHibワクチンの導入後から症例は減少しているものの, 吸気性喘鳴がみられる病気の鑑別において重要な疾患であることに変わりはない.
・喉頭蓋炎とクループを臨床症候を比較した研究では, 流涎が喉頭蓋炎の診断の予測において信頼できる徴候であった. その他の信頼できる徴候としては以下のものが挙げられている:(*16)
 ・座りたがる
 ・飲み込むのを嫌がる / 嚥下障害
・上記研究において, 咳嗽があることはクループに予測的であったことも示されているが, 咳嗽の存在で喉頭蓋炎は否定しないように注意する.
・喉頭蓋炎も夜間に受診する割合が高い可能性が示されている(*7)

犬吠様咳嗽と鑑別診断
犬吠様咳嗽はクループに特徴的であるが, 気管軟化症や心因性咳嗽でもみられることがあるため, 特に非典型例では経過などに注意を要する.



重症度

クループの重症度を評価する方法としてWestley scoreが知られている.

Westley Score

スクリーンショット 2020-12-30 17.48.052点以下: 軽症 / 3-7点: 中等症 / 8点以上: 重症

小児救急外来でのクループ患者で前向きに評価した研究では, 以下のような結果が示されている:(*14)
・重症クループ症例であっても, チアノーゼと意識障害は臨床的な意義がなかった
・陥没呼吸とair entry(空気の入り)が臨床的転帰を予測するために最も重要な因子であった
・最初のWestley scoreは病院の滞在期間と強く相関していた 



治療

クループに対する治療としては代表的なものとしては以下のものが知られている:
・全身ステロイド投与
・アドレナリン吸入

全身ステロイド投与
・通常, デキサメタゾン 0.15-0.6mg/kg 1回投与で治療が行われる(*13)
 ・最大量は16mgとされることが多い
・クループに対するデキサメタゾンの治療効果は様々な研究で示されている(*17)
・デキサメタゾンの投与量は0.15mg/kgから0.6mg/kgまで幅がある. 実際には下記に示すような研究から, 多くの症例では0.15mg/kgで十分効果は期待できると考えられる.
 ・デキサメタゾン(0.6mg/kg), 低用量デキサメタゾン(0.15mg/kg), プレドニゾロン(1mg/kg)投与での治療効果を比較したオーストラリアでのRCTでは, 1時間での平均Westley scoreや治療後7日以内での再受診率に明らかな差はみられなかった(*1)
 ・Westley scoreが2点以上のクループを対象としたオーストラリアでのRCTでも, デキサメタゾン(0.6mg/kg), 低用量デキサメタゾン(0.15mg/kg), プレドニゾロン(1mg/kg)投与で明らかな差はみられなかった(*2)
・重症例では投与量を増やすという考え方はあるが, 重症例ほど投与量が多い方がいいかどうかについての明確なエビデンスはない. ただし投与量が多くなることで明らかな有害事象が増えるといった報告もないため, 重症例では0.6mg/kgの投与は考慮してもよいかもしれない.

アドレナリン吸入
・アドレナリン吸入は症状を軽減するなどの有益性があることが示されている15).
・アドレナリン吸入治療を用いる場合には以下の点に注意する必要がある:
 ・海外で効果を示した投与量と比べて, 日本で一般的に用いられている量は少ない
 ・効果は10分以内にはみられはじめ, 1-2時間程度続く
 ・効果がみられなくなったあと, 症状は元に戻るかそれに近い状態となることがある
 ・吸入がうまくいっていないと, 期待ほどの効果が得られないかもしれない
・上記よりアドレナリン吸入による治療を単独で行う場合, 効果が切れたあとまで観察することを前提とした治療として捉える

その他
・鎮咳薬や去痰薬といった薬剤の有効性は示されていないため, 通常これらの処方は不要である.


<参考文献>
1) Parker CM, Cooper MN. Prednisolone Versus Dexamethasone for Croup: a Randomized Controlled Trial. Pediatrics 2019; 144(3): e20183772.
2) Fifoot AA, Ting JY. Comparison between single-dose oral prednisolone and oral dexamethasone in the treatment of croup: a randomized, double-blinded clinical trial. Emerg Med Australas 2007; 19(1): 51-58.
3) Marx A, Török TJ, Holman RC, Clarke MJ, Anderson LJ. Pediatric hospitalizations for croup (laryngotracheobronchitis): biennial increases associated with human parainfluenza virus 1 epidemics. J Infect Dis 1997; 176(6): 1423-1427.
4) Yano T, Fukuta M, Maeda C, et al. Epidemiological investigation and seroprevalence of human parainfluenza virus in Mie Prefecture in Japan during 2009-2013. Jpn J Infect Dis 2014; 67(6): 506-508.
5) Counihan ME, Shay DK, Holman RC, Lowther SA, Anderson LJ. Human parainfluenza virus-associated hospitalizations among children less than five years of age in the United States. Pediatr Infect Dis J 2001; 20(7): 646-653.
6) Pruikkonen H, Dunder T, Renko M, Pokka T, Uhari M. Risk factors for croup in children with recurrent respiratory infections: a case-control study. Paediatr Perinat Epidemiol 2009; 23(2): 153-159.
7) Lee DR, Lee CH, Won YK, et al. Clinical characteristics of children and adolescents with croup and epiglottitis who visited 146 Emergency Departments in Korea. Korean J Pediatr 2015; 58(10): 380-385.
8) Bjornson CL, Johnson DW. Croup. Lancet. 2008; 371(9609): 329-339.
9) Peltola V, Heikkinen T, Ruuskanen O. Clinical courses of croup caused by influenza and Parainfluenza viruses. Pediatr Infect Dis J 2002; 21(1): 76-78.
10) Coughran A, Balakrishnan K, Ma Y, et al. The Relationship between Croup and Gastroesophageal Reflux: A Systematic Review and Meta-Analysis. Laryngoscope 2021;131(1):209-217.
11) Rihkanen H, Rönkkö E, Nieminen T, et al. Respiratory viruses in laryngeal croup of young children. J Pediatr 2008; 152(5): 661-665.
12) Cherry JD. Clinical practice. Croup. N Engl J Med. 2008; 358(4): 384-391.
13) Petrocheilou A, Tanou K, Kalampouka E, Malakasioti G, Giannios C, Kaditis AG. Viral croup: diagnosis and a treatment algorithm. Pediatr Pulmonol 2014;49(5):421-429.
14) Yang WC, Lee J, Chen CY, Chang YJ, Wu HP. Westley score and clinical factors in predicting the outcome of croup in the pediatric emergency department. Pediatr Pulmonol 2017; 52(10): 1329-1334.
15) Bjornson C, Russell K, Vandermeer B, Klassen TP, Johnson DW. Nebulized epinephrine for croup in children. Cochrane Database Syst Rev 2013; (10): CD006619.
16) Tibballs J, Watson T. Symptoms and signs differentiating croup and epiglottitis. J Paediatr Child Health 2011; 47(3): 77-82.
17) Gates A, Gates M, Vandermeer B, et al. Glucocorticoids for croup in children. Cochrane Database Syst Rev 2018; 8: CD001955.
18) Thompson M, Vodicka TA, Blair PS, et al. Duration of symptoms of respiratory tract infections in children: systematic review. BMJ 2013; 347: f7027.

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