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異世界転生したらたんぽぽだった

 異世界へ何かただならぬものに変わって転生したいと思うことは、私のこの世界における諦めの一種のようだった。生きる世界を間違えた。こんなに息苦しいのは、もしかしたら自分が地球外生命体であるのではないかという考えを浮かべてしまうほど。また、それを本当の本当だと自分の中で錯覚してしまうほど、自分は自身の内側における限界を感じていた。だからこそ、異世界へ。この途方もない苦悩から開放してくれる、ただ一つの、この世に存在しない馬鹿げた希望。超自然的な何か、であった。
 でも朝になると、このような考えが泥酔の中の制御不能な空想のようなものに思えてしまって、恥ずかしくなるのだ。それと同時に、いつもどおりやってくる忌々しい朝日と苦悩が、生まれてから自身の背中に刻印された焼印のように、強制的に受け入れるべき運命のようだった。希望への諦め。その時初めて昨日までの馬鹿馬鹿しい希望が、本当に「馬鹿馬鹿しい」ものであるのだと気付かされるのだ。それを本気で夢想してしまう数々の苦悩が、恐ろしくて仕方がなかった。

 気づいた時、暗闇だった。
 違和感のある暗闇。わけのわからぬ暗闇。
 ただ1つ、微かに頭の中にこの暗闇に陥る前の記憶があるのだが、それは鮮明さを失っていて、霧の中に居ながらもその全体像を掴むような無謀なものであるとすぐに悟った。

 今、私は何だ。
 手を伸ばそうとしても手があるのかさえ分からないし、空気が肌を触れるような気配も、匂いすら無かった。暗闇なので自分の体すら確認することができない。音もない。正真正銘の真空の中に突如として投げ込まれたようだった。ただ1つ確かなことは、私の思考があった。それは紛れもない真実で、自分が自分であると確認するただ1つの手段となった。本当に「思考」だけの存在になってしまったようだった。存在、あるいは概念のような、自分の肉体だけがすっぽり抜けて幽霊のような私が今ここにいるような感覚。私は急に怖くなった。助けを呼ぼうとしても、口がないのか、叫べない。それとも、叫んでいるけど自分の声が聞こえないか。私は後者に賭けてみた。しかし、いくら叫んでいるような「気分」になったとして、この膨大な絶望の中では徐々に空虚の成分が色濃く私を包んで、最終的にはなにもしなくなった。思考すら元気が無くなり、この空虚が今後永遠に続いていくかのような絶望すら感じた。私は生きている。生きているのだ。しかし、生きているだけ。何もできない。何一つできない。死んでいるのと同じだ。空想だけが生きていて、私の外側に及ぼす影響は無だ。考えているだけの何か。……。

もう何時間が過ぎたか。いや、何日か?何ヶ月、何年、何世紀か……。時間の感覚すら感じられない。それ以前に、時間とはなんだったのか。時間の感じ方を忘れていた。もう…思い出すことも無かった………。………。何かを考えるキッカケすら……………無だ。もしこの肌に、空気のある一つの原子が触れてくれたら、それが巡り巡って一つの思考のきっかけとなってくれるのに、………………。それが無い。だんだん、自分がわからなくなってきて……………自分すら無になってしまいそうだ。もうわからない……。………。

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エルフ「あ、あそこにきれいなたんぽぼがある!摘んで帰ったらお姉さまにプレゼントしよ〜」

ぷちっ

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