浦島太郎(ohuton remix)

海辺をゆっくりと歩きながら水平線を眺めて、あの先に何があるのか想像している。その想像が今後の未来に、何かしら役に立っでもなく、ただ想像の快楽に身を委ねて漂うだけ。そんな、退屈な休日に起こったこと。

遠くで、何やら少年たちが大騒ぎしながら棒で何かを叩いているのが見えた。僕はその騒ぎに心底近づきたくないと思ったのだけど、何を叩いているのかだけは気になった。少年たちに気づかれないギリギリの距離を保ちながら、自分の視界のピントが、その「なにか」に合う距離を探した。そして、なんとなくわかったのは、そいつがウミガメであるということだった。少年たちは、そのウミガメを棒で叩いていたのだ。

僕は、あの亀を助けてやらなければいけないと真っ先に思った。

でも、怖くて何もできなかった。

少年たちがいなくなったあと、ウミガメのところに行った。
ウミガメは傷だらけではあったが、かろうじて息をしていた。

「よかった…」

「卑怯者」

そう亀に言われたような気がした。

「俺がイジメられているのを見るだけ見て、アイツらがいなくなったら善人気取りか?」

まったく、言い返せなかった。
亀は僕を睨みつけ、再び海の方を眺めた。

「見ての通り、俺は人間より弱い。人より速く移動できない。のろまだ。自分より弱いやつを見つけては優越感に浸る、人間の掟らしいが、面倒くさいな。優越感。こっちは、食うか食われるかだ。それだけだ。自分たちの劣等感をどう解消していくか、人間が作り出した道徳の中でもがきながら、あの少年たちは俺をいじめるに至った。そして、お前さんも、そうなのかもな。」

亀の声が次々と聞こえる。

「僕は、あの少年たちが怖かった。僕も弱虫だ。」

「そう言うと気持ちいいか?弱虫なのは構わない。それを俺の前で言うな。」

少し、沈黙した。
波の音すら鬱陶しく聞こえた。

「浦島太郎は、勇敢だね。」

「確かにそうだ。」

亀は、一瞬僕を見た。

「僕は浦島太郎になれない」

少し冷たい風が、服の中に潜り込んだ。

「浦島太郎にはなれなくていい。俺はあいつが嫌いだ。あの亀も嫌いだ。」

それから数分、僕にとっては数時間にも思えた数分後、亀はゆっくりと傷だらけの体を引きずり、海に帰っていった。

僕はそれを静かに見ていた。

亀が見えなくなったとき、やっと僕の人生が動き出したような、そんな心地がした。