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桃太郎(ohuton Remix)

それは、昔の話だけど、ただの「昔」ではない。難しい言葉で言うならば有史以前。ブロリーの筋肉が60%ぐらい無くなったような様相のおじいさんが、お婆さんの反対を押し切って山へ芝刈りに行った。その山は、「竹」と呼ばれる、恐ろしいほど真っ直ぐで成長が早い棒がたくさんある場所。おばあさんはその奇妙な棒を神の一物か何かだと思っているみたいで、それを刈るおじいさんを恐ろしく思っていた。

しかしおじいさんは行くのだ、山へ。

おばあさんが、彼の小さくなっていく背中を見えなくなるまで見送ってから。自身の精神の安定を保つために、川へ洗濯に行くのだ。洗濯とは、彼女にとって「道(タオ)」であり、「悟り」であるのだ。そんなとき、それは起こった。

事件。事件と呼ぶにはなかなか言葉足らずな気がしたのだが、大きな桃が川の上流から、その威風堂々たる佇まいで、流体力学の波に乗ってやってくるその状況を数秒で表すには「事件」という言葉しか思い当たらなかったのだ。

その桃は、お婆さんの腰ぐらいあった。
ゆっくりと流れ行くその「桃(Nakata Yasutaka Remix)」をその隆々たる筋肉で持ち上げて、お婆さんは家に戻った。

家には既におじいさんがいた。

「ばあさん、竹というものは神の一物なんかではなかった、その証拠に、今わしがここにいる」

「いや、時間差ってこともあるだろ、北斗の拳とかGANTZとか読んだことある?明日までビクビクしながらその生を繋ぐんだな」

「ふん、で、その後ろのバカでかい、え、バカでかい桃じゃん!ごめん感情支離滅裂だわ」

「これか、まあ、簡単に言えばサプライズってわけさ」

お婆さんはそれをギシギシ言う床に叩きつけ、彼女の父の大東亜戦争の形見である刀を振り、真っ二つにした。

中からは、赤ん坊が出てきた。

でも、それは大きな問題ではなかった。

おじいさん、おばあさんにとって、それは同じ「物質」でしかなかった。

「赤ん坊」と便宜的に名付けられた、なにか肌色の物質。
その周りに甘く匂い漂う、白い物質。
それを観測する二人の物質。

それだけである。

宇宙の片隅のゴミみたいなこの「原因」は彼らにとっては、ビックバンを目撃したような感動は発生せず、ただただ機械的に虚無を生成するのみ。

この物語の重要な事項は、桃の中から赤ん坊が出てくることではない。

これをここまで読んでくれた貴方のその失われた時間さえあればあなたに何ができたか、ということであるのだ。

これをあなたの明日までの宿題にします。

一日一回勝負
ほな、また明日