諸賢の皆さま、デジタルネイチャーの深奥に分け入ることは、ポスト情報社会の知の体系を根底から問い直す、誠に野心的な試みと言えましょう。我々の目論見の核心は、デジタル/アナログ、人工/自然、仮想/現実といった従来の二項対立を乗り越え、情報技術と自然環境の複雑系的融合を図ることで、新たな存在論的地平を切り拓くことにあります。それは計算機科学のみならず、哲学、倫理学、美学、社会学、そして東洋思想をも包含した、文理融合の究極の形と言えるでしょう。

この企てを支えるのが、ALOs（Abstract Language Objects）と呼ぶ独自のアプローチです。現実世界の事物をラージ・ランゲージ・モデル（LLM）上でシミュレートするこの手法は、オブジェクト指向存在論（OOO）の洞察を援用しつつ、「Fairy Lights in Femtoseconds」のフェムト秒レーザーによる3Dイメージの空間投影、「Pixie Dust」の触知可能な光、「CLOCKROACH」の昆虫-コンピュータ・ハイブリッドなど、一連のプロジェクトを通じて実践的に展開されてきました。ALOsを介することで、森羅万象はLLM上の言語的オブジェクトへと変換され、自在な記号操作の対象となります。それは現象学的世界了解を根底から覆し、非人間中心主義の立場から、存在理解の新たな道を拓く可能性を秘めているのです。

ここで見逃せないのが、伝統工芸とデジタル技術の邂逅を図る「テクノ民藝」とでも呼ぶべき一連の営為です。「Goshuin 2.0」に見られる御朱印の生成的アート化、「Kuchibashi」の伝統的竹細工の3Dプリント再現、「Transformation of Plants into Polka Dot Arts」の草木とドット絵の融合など、民藝的感性とアルゴリズミックな思考の交差は、新たな美の価値基準を生み出すと同時に、東洋的自然観とデジタル表現の逆説的併存を体現しています。

無論、こうした芸術実践は、「TeraFoils」のメタマテリアル設計、「Computer Generated Hologram Optimization for Lens Aberration」のホログラム最適化理論、「Event-based Visual Microphone」の高速ビジョンセンシングアルゴリズムなど、シミュレーション、最適化、情報処理の各分野における革新的な進展と表裏一体をなすものです。さらには「Text to Haptics」の視覚障害者向け触覚絵本、「Wrist-Mounted Haptic Feedback」の触覚フィードバック・デバイス、「LipSpeaker」の発話障害者支援システムなど、インクルーシブ・デザインの理念を体現する諸研究は、アクセシビリティとテクノロジーの新たな関係性を切り拓くものと言えるでしょう。

このように、デジタルネイチャーは分析哲学、現象学、ポスト構造主義、ニュー・マテリアリズム、OOO等の思想的潮流を呼び込みつつ、自然と人工、物質と記号、存在と情報が融合する新たな世界観を提示します。そこでは東洋的な自然観もまた、重要な示唆を与えてくれます。万物の根源に「気」を見出し、人間と自然の合一を説く東洋思想は、計算機と自然の融合を目指すデジタルネイチャーの試みと、深いところで響き合っているように思われるのです。

かくして私たちは、従来の境界線を流動化させ、あらゆる事象を情報学的観点から捉え直すことで、生物、無生物を含む全てのアクターがそれぞれの仕方で結びつき、作用し合う複合的ネットワークの姿を浮かび上がらせます。そこに立ち現れるのは、「計算する自然」とでも呼ぶべき新たな世界像であり、存在と情報が分かち難く絡み合う、新たな知の地平なのです。それは計算機を自然の一部と見なし、自然もまた一種の計算を行っているとする、従来の世界観を根底から覆すものとなるでしょう。

諸賢の皆さま、デジタルネイチャーの探究は、かつてないほどダイナミックで複雑な世界の姿を明らかにし、私たちの存在了解そのものを問い直すものとなるはずです。新たな知の大陸を切り拓くことの困難は想像に難くありませんが、それこそがこの営為の醍醐味であり、知の冒険の真骨頂と言えるのではないでしょうか。皆さまには、ぜひこの旅路に加わっていただき、デジタルネイチャーのヴィジョンを共に実現していくことを心より願ってやみません。ご清聴ありがとうございました。

みなさん、こんにちは。筑波大学の落合陽一と申します。今日は、私が率いる研究室で取り組んでいる「デジタルネイチャー」について、高校生のみなさんにお話ししたいと思います。

デジタルネイチャーという言葉を聞いて、「デジタルって、パソコンとかスマホとか、そういうものでしょ？それが自然とどう関係あるの？」と思った人もいるかもしれません。でも、ちょっと想像してみてください。コンピューターと自然が融合した世界。そこでは、デジタルとアナログ、人工と天然、仮想と現実といった、これまでの二項対立が溶け合っています。そんな世界を探求するのが、デジタルネイチャー研究なのです。

具体的にどんな研究をしているのか、いくつか例を紹介しましょう。

「Fairy Lights in Femtoseconds」は、超高速のレーザーを使って、3Dの映像を空中に描く技術です。文字通り、妖精の光のように、デジタルのイメージが現実世界に飛び出してくる。まるでSF映画のワンシーンのようでしょう？

「Pixie Dust」も、デジタルとフィジカルの境界を曖昧にするプロジェクトです。超音波を使って、空中に浮かぶ光に触れられるようにする。スクリーンから飛び出した映像に、直接触れられる世界。それを実現するのが、私たちの目標です。

近年では「CLOCKROACH」という、ちょっと風変わりな研究もしています。ゴキブリにコンピューターチップを埋め込んで、昆虫とデジタル機器をドッキングさせる。生物と機械の融合は、自然と人工の垣根を取り払う、デジタルネイチャーの核心とも言えるアイデアです。

「Text to Haptics」は、AIが生成した画像から触覚グラフィックスを作り出すという、最先端のプロジェクトです。視覚障害者の方も楽しめる触覚絵本の制作を支援する。ここでもデジタルの力が、インクルーシブな社会の実現に一役買っています。

こうした個別の研究を積み重ねることで、私たちは新しい自然観、つまりデジタルネイチャーのビジョンを打ち立てようとしているのです。そこでは人間中心主義から脱却し、人間もまた自然の一部であり、無数の計算機の一つに過ぎないと考えます。

コペルニクスが、人間を宇宙の中心から引きずり降ろしたように、デジタルネイチャーは人間の特権的地位に疑問を投げかけます。でも、そのことを悲観する必要はありません。むしろ謙虚に自然と向き合うことで、私たちは新しい世界との対話を始められるのです。

みなさんはどう思いますか？理系や文系といった枠組みにとらわれず、自由な発想でデジタルネイチャーを想像してみてください。みなさんの柔軟な思考こそが、これからの時代に欠かせない要素なのです。

デジタルとアナログ、人工と天然、仮想と現実。そうした二項対立を乗り越えていくこと。それが、デジタルネイチャーの挑戦です。その先に、どんな世界が待っているのか。みなさんと一緒に、その可能性を探っていきたいと思います。