結城一縷

ゆうきいちる

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最近の記事

【読む旅路👣】すみっコさがし

昨年2023年、北海道最北端の稚内を観光していた際にこんなキャンペーンのポスターを見かけた。 \すみっコと一緒にまちを盛り上げたい/ すみっこまちコラボ すみっコとは「すみっコぐらし」のキャラクターである。「すみっこにいるとなぜかおちつくということがありませんか?」というコンセプトのもと、「しろくま」「とんかつ」「ぺんぎん?」など、様々な可愛らしい(少し卑屈な)キャラクターが揃っている。 こうしたポップなキャラクターをすみっこまちのプロモーションに起用するのは、なかなか興

    • 【読む食事🍽️】島国DNA

      打首獄門同好会というバンドをご存知だろうか。このいかつい名前から想像される通り、このバンドはラウドロックを主軸とした楽曲をリリースしている。 しかしそれはただのラウドロックではない。百聞は一見に如かず、とにかく打首(バンド略称)の代表曲を聴いてみよう。 ま・ぐ・ろ! ま・ぐ・ろ! ま・ぐ・ろ・の・さ・し・み! こんな三三七拍子から始まる『島国DNA』は、「我々日本人は魚好き」ということをひたすら歌い続ける、あまりにも共感性の高い楽曲である。このように打首は「生活密着型ラウ

      • 【読む湯治♨️】ユニーク湯に行く

        温泉に求めるものとは何だろうか。それは一般的には「癒し」だと思う。喧騒から解放され、ゆったりする時間は何にも代え難い。この場合想像されがちなのは、温泉宿に宿泊し、一日の終わりに湯船に浸かるひとときだろう。 一方で、温泉に「刺激」を求めるという選択肢はあまり思い浮かべられないのではないだろうか。しかし実は、自然と戯れるアクティビティやアトラクションで楽しむテーマパークに匹敵するほどのポテンシャルが、温泉にはある。そこでは唯一無二の体験ができる「ユニーク湯」が待っている。 私は1

        • 【与那国島】雲と原付

           日本最西端の港で揺蕩っている。  与那国島における船の玄関口・久部良(くぶら)港にフェリーよなくにが入港してから、10分ほどが経過していた。最果ての地を目の前にして、早くその地を踏みたいと昂る私の思いをよそに、船のタラップがなかなかやって来ない。為す術もなく、静かに揺られながら待っていると、やっとフェリーの職員さんが来て、ゆっくりとタラップを下船口に接続した。  フェリーを降りて、港の近くにあるレンタルバイク店で原付を借り、予約してあるゲストハウスへと走らせる。ヘルメットが

        【読む旅路👣】すみっコさがし

          【富良野】香りのしおり

           6月半ばの富良野は、ラベンダー畑を堪能するには少し早いようだった。伸びすぎた芝生のようにも見える畑は、近づいてその一本一本を見てみると、その先端に細長い紫色の蕾をつけている。このラベンダー畑が紫色の絨毯となるのは、おそらく7月に入ってからだろう。それでも、ラベンダー畑の向こうにだだっ広い農地が広がり、その向こうに十勝岳連峰が構えている風景は、北海道の雄大さを代表するような、他では見られない情景だった。  ファーム富田は、中富良野町にある巨大な農園である。ラベンダーのシーズ

          【富良野】香りのしおり

          【能登】狼煙の残響

           「狼煙」の文字が青看板に現れるようになれば、目的地まではもうすぐである。海原を右手に見下ろしながら、曲がりくねった道を進んでいくと、その先には「道の駅 狼煙」が待ち構えている。こここそが、能登半島の最果ての地――の一歩手前である。  車を降りて駐車場を突っ切ると、「禄剛崎はこちら」という案内が出ている。案内の先は割と急な上り坂の遊歩道になっていて、その坂を越えた先に、本当の最果てがある。それが禄剛崎(ろっこうざき)灯台という、断崖の上に立つ白亜の灯台である。  灯台の正面に

          【能登】狼煙の残響

          【境港】妖怪が消える前に

           私はいつも妖怪を携えながら旅をしている。その妖怪は私のショルダーバッグに住んでいる。名前は目玉おやじ、鬼太郎の父である。  2022年2月、2泊3日の山陰旅行で最終日に境港を訪れたのだが、そのとき目玉おやじのショルダーバッグに出会った。普段キャラクターものを手にすることはないのだが、その妙な親しみやすさにときめきを覚えてしまった。その心の動きに従って、私は持ち物に目玉おやじを迎え入れた。  その後の日本一周の旅でも、他のショルダーバッグを試してみたのだが、サイズ感や使い勝手

          【境港】妖怪が消える前に

          【青島】日本のひなた

           最も神々しい都道府県とはどこでしょう、という問いがあったとすれば、その答えの一つは間違いなく宮崎県である。なぜなら宮崎県は神話の里であり、特に高千穂といえば、天照大御神の天岩戸伝説や瓊瓊杵尊(ニニギノミコト)の降臨といった「日本の始まり」の舞台となっているからである。また、他にも初代天皇・神武天皇を祀る宮崎神宮、神武天皇の父君・ウガヤフキアエズノミコトを祀る鵜戸神宮、ウガヤフキアエズノミコトの父君(瓊瓊杵尊の息子)・山幸彦を祀る青島神社と、天皇家にも通ずる神々を主祭神とした

          【青島】日本のひなた

          【室戸】あの夏の啓示

           夕日が水平線に吸い込まれていく。空と海との境目が茜色に染まっていく。今日という日のクライマックスが、この高台からはよく見渡せた。  左側に目をやると、ずんぐりむっくりとした室戸岬灯台が立っている。その手前で、一組のカップルがこのロマンチックな光景に見入っている。室戸岬は恋人の聖地だそうだから、まさに二人にとっては素敵な聖地巡礼ということになる。  二人きりの空間を邪魔するのは忍びないので、基本的にカップルと居合わせたときは、私はできるだけ早めにその場を去るようにしている。し

          【室戸】あの夏の啓示

          【白浜】甲冑と龕灯

           2022年11月26日。今日の南紀白浜は曇り時々雨だった。  ぱっとしない天気の中、私は名勝・三段壁(さんだんべき)に足を運んだ。崖の上からは、入り江を挟んだ向こう側の崖が見える。解説によればこの崖は海蝕崖、つまり波に削られて現在の断崖絶壁となったそうだ。こういう崖を見ると、いつもその迫力に圧倒されると同時に、海が持つ想像以上の力に畏怖を覚える。  さらにこの海蝕崖は一味違う。というのも、崖の下は海に削られすぎて窪み、海蝕洞となっているのだ。この三段壁洞窟にはエレベーターで

          【白浜】甲冑と龕灯

          【韮山】溶鉱炉の守り人

           私は「守る」という言葉が嫌いだ。これほど言うは易く行うは難いことはない。一生君を守るから、と言ってそれを成し遂げた人が果たしてどれほどいるかもわからなければ、災害から地域を守ろう、と打ち出した対策を自然の脅威はいとも簡単に呑み込んでいく。だからこそ私は、目の前にある4本の煉瓦造りの煙突が今もここにあることに、畏敬の念を覚える。その建造物の名を、韮山反射炉という。 *  19世紀は自由貿易の時代だった。欧米諸国は偏西風の季節になると、帆掛け船で風に乗り、アジアへとやって来

          【韮山】溶鉱炉の守り人

          【那須】おじさんは温泉でヒーローになる

           栃木県・那須湯本温泉の一角を占める「鹿の湯」。よもやここである「戦い」が行われていようとは、私は思いもしなかった。  この温泉はとにかくユニークである。浴場に入ると、まず足湯のような細長い湯船が待っている。しかしこれは浸かるためのものではない。「かぶり湯」と言って、ひしゃくで頭にそのお湯を被るのだ。郷に入っては郷に従え、私も隣の年配の方に倣って試してみたが、かなりお湯が熱い。それもそうだ、湯船の傍にある木の札に「かぶり湯 48℃」と書いてある。しかしこの温泉への入り方を見

          【那須】おじさんは温泉でヒーローになる

          【八幡平】数年に一度しか咲かない花

           高山に咲く花は気高さを感じる。それは「高嶺の花」という慣用句の印象なのかもしれないが、実際に下界とは交わらず、そうかといって下界を蔑んでいるわけではなく、厳しい環境とわかっていながら選んだ場所で強かに生きるその姿は、貴ばれるべきものだと思う。  そんなふうに力説しておきながら、私が標高1,600m超の火山・八幡平を訪れたのは、高山の花々を愛おしむためではなかった。もともとは「八幡平ドラゴンアイ」を拝むためである。5月下旬から6月上旬にかけて、雪解けによって「鏡沼」という池が

          【八幡平】数年に一度しか咲かない花

          黄金の終焉

          動物園で幼稚園児の娘二人を一日中遊ばせたあとの帰り道、よく行く近所の日帰り温泉に寄った。ゴールデンウィーク中はやはり混雑していて、券売機の前には列ができていた。 自分たちの順番が来てお金を入れると、娘たちは幼児料金のボタンを押し、発券された小さなチケットを握り締める。券売機の隣にあるフロントカウンターは娘にとっては高い位置にあり、娘は少し背伸びをして、30歳くらいの男性スタッフにチケットを手渡そうとする。スタッフがありがとう、と言いながらチケットを受け取ると、娘たちは我が母に

          黄金の終焉

          やさしくない

          あらすじ東京の夜景を望みながら、起業家の名取亘(なとりわたる)は宮城野青葉(みやぎのあおば)に結婚を前提とした交際を申し込む。青葉が喜んで受け入れたあと、二人は高揚感に浸る。 「…すみません宮城野さん。僕、言葉が出なくて。大袈裟かもしれないですけど、今の僕は、世界で一番幸せだなんて、本気で思ってるんです」 「そんなことないですよ。私も今、名取さんと同じように、世界で一番幸せですから」 しかし、名取亘の本当の姿は起業家ではなかった――。 本文意地悪に、優しさの才能はある。

          やさしくない

          博愛主義者は君を愛せない ~愛に関する一考察~

          あらすじ 大学入学の初日、人見千覚(ひとみちさと)は同じ大学に入学した幼馴染の植田愛(うえたあい)に運命の相手に出会ったことを告げられる。その相手・結賀(ゆいが)ジャクソンと新入生ガイダンスで再び出会い、三人とも同期であることが発覚する。 親愛の証として、ジャクソンは二人を秘密の場所に連れていく。そこはジャクソンと愛が出会った場所で、ジャクソンはここで運命の出会いをしたのだという。そしてジャクソンが想いの丈を打ち明けるが――。 これは、冗談にすら思えるような、大いなる愛の物

          博愛主義者は君を愛せない ~愛に関する一考察~