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かくれんぼの鬼が心配される

 「日本かくれんぼ協会」のサイトによりますと、かくれんぼは古代中国の宮廷内でおこなわれていた「迷蔵」という遊びが平安時代以前に日本へ伝わったとの説があるようです。

 私は隠れるのが得意な少年でした。痩せていて、背が低かったため、「普通は入らんだろ」という隙間の奥へ隠れられ、見つかりづらかったんです。

 更に、忍術の本を愛読していたのもかくれんぼにはプラスに働きました。私の読んでいた忍術の本は巻物をくわえてガマガエルに化けるような荒唐無稽なものではなく、現実に存在した忍者が仕事で駆使していた忍術ばかり書かれているものでした。忍者と言えば隠密、かくれんぼと相性がよかったんです。実際、私が仕入れた忍術の知識は猛威を振るい、あまりに見つけられなくて鬼が音を上げることもございました。

 しかし、隠れるのが得意な子がいれば、見つけるのが得意な子もいるんです。ここでは大内君としておきますけれども、大内君がまさに見つけるのが得意な子でございました。かくれんぼで大内君が鬼になるとみんな「マジかよ」と冷や汗をかく。大内君はそれくらい怖れられていました。

 そんな大内君の見つけ方はいたってシンプルです。ふざけた替え歌を熱唱しながら隅々まで練り歩くだけです。もう、小学生が考えるようなどうしようもない替え歌なんですけれども、大内君独特の歌い方もあって、隠れてるはずの子たちは噴き出したり、場合によっては爆笑したりする。あとは笑いを聞きつけた大内君が悠々と捕まえに行くだけです。数々の少年が大内君の歌にやられてきましたし、私だっていろんな隙間で必死に笑いをこらえていました。

 そんなある日、私の家に大内君を含む数人の友人が遊びに来てくれました。何して遊ぼうかみんなで考えていると、熱唱鬼の大内君が「かくれんぼをやろう」と言い出したんです。他の友人は「マジかよ」みたいな感じでしたが、何しろここは私の家です。地の利はこちらにある。そんなわけで、かくれんぼをすることになったんです。隠れる場所は室内に限定し、平等を期すため、家事をしている母には誰がどこに隠れているか聞いてはいけないルールにしました。

 早速、鬼になった大内君。みんなが隠れるやいなや、早速、喉を開いて大熱唱です。この時はどこで覚えたんだか、当時既に往年の名曲扱いされていた「THE 虎舞竜」の「ロード」を替え歌で熱唱したんです。「ちょうど一年前にー♪このおしり揉んだ夜ー♪」という声が、私が隠れてる衣装ケースの奥まで聞こえてくるんです。何なら、ここでは書けないような、品も知性もない歌を乱れ撃ちしてくる。その日も笑いをこらえられず、次々に見つけられる子が大量発生いたしました。

 一通り遊んで友人たちは家へ帰りまして、家族で夕飯となったんですが、その時の母の一言がものすごく記憶に残っています。

「あの大内君って子は大丈夫なのかい?」

 他人の家で頭の悪い歌をうたいながら練り歩く大内君は、母の目にはかなり異様に映ったようです。あまりに想定外の質問すぎて、私は「大丈夫だよ。花壇のお花に水をあげてるし」などとよく分からないフォローをしてしまいました。

 そんな大内君、今では地元の会社へ普通に就職し、結婚して子供もいるみたいですので、やっぱり大丈夫だったんだと思うんです。ただ、我が子と家でかくれんぼする時は、昔を思い出して頭に悪い歌を熱唱すると思うんです。その時、家族がどう思ったのかについては未だに気になります。

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