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それは落とし物と言うのか

 歩いていたら、道路に靴下が片方だけ落ちていました。くるぶしまでの短い靴下で、手のひらに収まるくらい小さい。可愛らしい魚の模様。赤ちゃんの靴下だとすぐに分かりました。

 きっと親御さんに抱っこされている時、足をバタバタさせて脱げてしまったのでしょう。何しろ、くるぶしまでしかない靴下です。脱げやすかったに違いない。そして、親御さんも脱げた靴下に気づかなかった。落としてから10分後か、はたまた1時間後か。片方だけ素足の我が子を見て、ようやく気づいたはずです。

 それから数日後、またもや地面に靴下が落ちていました。今度は大人用の黒いハイソックスでございました。同じ靴下とは言え、赤ちゃんの短い靴下と比べると、落とした時の光景がなかなか想像できません。普通に歩いていれば、履いてる靴下をウッカリ落とすことなんてまずありえませんし、気づかず立ち去るなんてもっとありえない。

 履いてない靴下を落としたというのが、最も妥当ではないかと思います。旅行か何かで靴下を持ち運んでいたところ、何らかのアクシデントがあって落としてしまったという仮説です。しかし、旅行中に靴下を道端に落とすことなんてありえるんでしょうか。少なくとも、私はありません。道端で靴下をカバンから取り出す場面が思いつかない。ただ、人生は何が起きるか分かりませんから、道を歩いている時に靴下を出さなきゃいけない事態に巡り合う場合だってあるでしょうし、ついつい片方だけ落としたまま先を急ぐ時だってあるんでしょう。どんな時なのかは知りませんが、とにかくそうなんです。

 更にそれから数日後のことです。私は都内で電車に乗っていました。電車には、座席を区切るように手すりが上下に伸びているタイプがございますけれども、私はまさにその手すりの隣に座っていました。よくあることですから、最初は特に何も気にせずぼんやりしていたんです。

 電車が数駅通過したくらいの時でした。手すりに何かついているのに気づいたんです。円形の透明なシートみたいなもので、円の端が手すりとくっついている。恐る恐るその物体を触ってみると、軟らかい素材でできているのか、ぐにょぐにょ曲がる。

 そこで私、ピンと来たんです。これは使い捨てコンタクトレンズだと。きっと電車での移動時間を有効活用しようと、コンタクトの装着を試みたんです。しかし、揺れる電車で悪戦苦闘し、コンタクトは手すりへくっついてしまった。そんなことに気づかず、必死でコンタクトを探す持ち主。そして、捜索も空しく、コンタクトが見つからないまま下車したに違いありません。それからすぐあとになって、私がコンタクトの落とし物に気づいたと、そういうことなんでしょう。

 いや、それにしたってどうしてコンタクトが手すりにくっついているんでしょう。たまたまそうなっただけなんでしょうか。そもそも、床に落ちてないんだから正確には落とし物でもありません。では、何と言えばいいのでしょう。忘れ物なのか、手すり物なのか。

 失くしたもののその後は本当にいろいろです。

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