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忘れてもいい忘れられない一言

 誰にも忘れられない一言があると思うんです。ただ、忘れられない理由はきっと千差万別でしょう。嬉しかった一言、悲しかった一言、衝撃的な一言。皆さんの心の中に、いろんな一言が存在している。

 たまにそんな忘れられない一言が後々まで影響を与える場合がございます。私にもそんな一言がございます。

 当時付き合っていた彼女を家に呼んだ時の話です。彼女は部屋に入るなり、あっちこっちを見て回りました。別に見つかって困るようなものは置いていませんでしたし、事前に掃除をしておりましたので、部屋の隅から3ヶ月もののパンが見つかるなんて恐ろしい現象は起きないはずです。だから、私は安心して部屋でくつろいでました。部屋をおおよそ見て回った彼女は、ついでに風呂やトイレも覗いていきました。そちらも一応は掃除をしておきましたので、特に何とも思いませんでした。

 しかし、トイレから出てきた彼女はいきなり私にこう言いました。

「私、トイレのにおいで男の人が使ったか女の人が使ったか分かるから。浮気したらすぐに分かるから」

 別に浮気をしていませんでしたし、今後もするつもりがなかった私は、その時は「そうなんだ」と適当に流したんです。でも、後になればなるほど、この一言が気になってきたんです。「一体何の宣言だったんだ」と。

 パートナーのちょっとした言動で浮気を察知する話は世の中にあふれておりまし、私もいろいろ聞いてきましたけれども、トイレのにおいでそれを判別できると宣言した事例は彼女が唯一です。どんな鼻をしているのか。一体どこでその腕というか、鼻を磨いたのか。疑問がどんどん湧いてきます。

 性別を判断できるというのも謎です。何を食べたかによって違ってくるのならば何となく分かります。お肉が多い時とお野菜が多い時では、やっぱり明らかに違います。人によって違うというのもまだ分かる。その昔、父親のトイレ直後だけやたら臭いのはどういうことかと、兄弟で小一時間ほど議論したことがある私としては、父が使用したトイレならば判別できる自身がある。

 ですが、性別はそのどちらでもありません。同じ性別でも人によってトイレのにおいは異なるはずですし、同じ人間でも食べたものによってトイレのにおいが異なるに違いありません。そんな混沌としたにおい事情の中で、どうして性別だけをキッチリ嗅ぎ分けられるのか。というか、そんな特殊能力を持っているならば、目隠ししても男性用トイレと女性用トイレが判別できるのでしょうか。

 「トイレで使った人の性別が分かる」。未だに気になる発言ではありますけれども、考えれば考えるほど、「そんな一言忘れてしまえ」という気がして参りました。

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