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野球場の彼女

 先ほど某野球場から帰宅しました。
 試合の途中から一人で見に行ったのです。サラリーマンみたいですね。一人で見て何が楽しいの?って思われるかもしれませんが、好きな人は好きなんですよ。テレビで見た方がピッチャーやバッターの動きがよく見られるかもしれないけど、臨場感には負ける。
 
 20代初めの頃は野球を頻繁に見に行きました。
 当時の私は贔屓のチームがありませんでした。セリーグをメインに友達で2~4人くらいで見に行きました。友達の好きなチームは広島、横浜、ジャイアンツ、ヤクルト…とみんなバラバラで、それぞれ好き勝手に応援していました。ジャイアンツファンの友達は吹奏楽部でトロンボーンを吹いていたのでドームの外野席で応援させてもらっていたそうです。
 ヤクルトが野村監督だった頃で、神宮球場で開催された日本シリーズにも行きました。懐かしいです。あの頃は日本中が浮かれていて、楽しい時代でした。

 その頃、今日行った球場の一塁側の内野席にはよく行きました。
 景気のいい時代だったので知り合いから内野席のチケットをもらうこともあったし、自分たちで買うこともありました。
 何回か見に行っているうちに、その内野席には決まった人がよく来ているということも知りました。そのチームのコアなファンですね。当時は今ほど野球人気が無かったのかもしれません。席も疎らな時がありました。だからなんとなくわかるのです。
 昨年、中日の成績が思わしくなくてもバンテリンドームの観客が多かったそうです。WBCのブームで野球を見る層が広がったということもあるでしょう。

 その決まった人たちの中に、若くて奇麗な女性が一人いました。年の頃は私より少し上だったのかもしれません。OLさんではないでしょうか。仕事帰りに球場に一人で寄っているようでした。肩が華奢で、すらっとしていてパンツスーツがとても似合っていました。ボブカットにした髪はいつもサラサラ。後ろ姿が美しかった。
 彼女はいつも一眼レフのカメラを手にしていました。レンズも望遠…とまではいきませんが、とても大きなレンズでした。
 贔屓の選手というのはなかったのだと思います。バッターボックスに立つ選手を一人一人丁寧に撮影していました。いつも前の方の席にいるのです。いい席なのでもしかすると、ご家族が(多分お父様でしょう)がお仕事の関係などで買ってくれるのでしょう。私の勝手な想像ですが…。
 私はいつも彼女の座る席の3列から5列くらい後ろに座っていました。だから彼女の後ろ姿と横顔しか記憶にないのです。あれから30年ほど経つので、その記憶もぼんやりしています。

 今日は久しぶりに内野席の一番上の席を取りました。一人で見るので、コソっと座りたかったのです。
 売店で買ったビールを一口飲んで、ふっと前を見ると、私と同じくらいの年代の女性が、性能の良さそうなデジカメをガッチリと手にしているのです。仕事帰りなのでしょう。スーツ姿でした。
 モニタにはバッターボックスが映っていました。丁寧に一人一人の動きを見ているのです。
 あの時の彼女かもしれない。彼女なんじゃないかな。
 彼女に違いない。
 私はドキドキしました。後ろ姿をまた見ることができたなんて…。
 こうして球場に足を運んでいるのなら、いろいろなことが人生であっただろうけど、元気でいるんだ。
 懐かしいような、幸せな気持ちになりました。
 風が肌寒かったけど、ビールも美味しくて。
 また野球を見に行こう。


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