パソコンの灯火

目下、部屋には稼働しているパソコンが2台ある。モニターにつないでモバイル性を殺したメインのノートパソコン(hp製)に加え、以前使っていた古めのノートパソコン(Dell製)を、深夜ラジオの録音用に常に電源の入った状態にしてある。中学生の時は1台しかない自分のパソコンを昼に夜にと酷使してあっという間にお陀仏となってしまったため、hp氏を常時動かすのは気が引ける。もっさり反応とはいえ使用年数の割に元気なDell氏はファンの音もうるさくなく、少々変則的とはいえこの編成で数年を過ごしてきた。
ところが最近Dell氏の主張が激しい。それも聴覚ではなく視覚に訴えてくる。なんだなんだと近づいてみると、電源のインジケータが白と橙に点滅している。無線LANルーターに続く新たなイルミネーションスポットが家に誕生したわけだ。
反応や動作はもっさり水準から落ち込むわけでもなく、不思議に思って調べてみると、どうやらバッテリーが上がってしまったらしい。常に電源に接続しているため使用はできるが、うっかりコンセントが抜けたりブレーカーが落ちたりしようものなら、プンと言い残して入滅するのは目に見えている。晩年は中途半端な大きさも相まってノートパソコンでありながらほとんど場所を移動することのなかったDell氏も、勤続6年なら十分働いたと讃えてやるべきだろう。と打ちながらそちらに目をやると、Dell氏は今も一生懸命インジケータを2色に光らせている。時には、まるで緊急事態を訴えるかのように橙だけ急速に点滅することもあるが、イルミネーションと思えば微笑ましいものである。クリスマスの季節はもうじき終わるが、彼はいつまで私を楽しませてくれるだろうか。

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Dell氏の意志を継ぐ心意気のあるパソコンを求めて、最近は秋葉原に通う日々だ。自宅での作業が増えたから、ここは据え置きのデスクトップパソコンを買って、今後のニーズに合わせパーツをカスタムしていく方向で。となると、特に外面とは長い付き合いになるだろう。実機を見て吟味すべく、ちょこちょこ足を運んでいる。
店の奥で1680万色に光り輝くゲーミングパソコンを見ると、Dell氏の儚げな灯りが頭をよぎる。Dell氏は一介のビジネス向きノートパソコンに過ぎないが、それでも身を粉にしてまで2色に光り輝き、私の目を激しい点滅でもって弱らせてくれている。Dell氏への判官びいきなのか、豪奢な性能は手に余ると冷静な判断を下したからなのか、ゲーミングパソコン売場とはこころなしか距離を置くようになった。
検討は最終段階に入り、候補機は絞られた。低価格を重視し、後の拡張に託したものか、高性能を重視し、”まとめ買い割引”の要領で先にまとまった額を納めるか‥‥悩みどころだ。

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街に点在するパソコンショップを飛び回るうち、秋葉原の立地にもなんとなく慣れてきたものの、道に生えている”ふれあいカフェ”の店員さんたちを見ると未だに身構えてしまう自分がいる。
彼女らは身振り手振りと蚊よけ効果のある高い声で勧誘してくるだけで害はない。むしろ可愛らしくていいじゃないか。避けて歩くのも格好悪い、堂々と歩けばよいのだと心に決めて一歩を踏み出すも、いざ近くを通れば一瞬目を合わせて小さく会釈するのみ、さらには店を探しているふりをしてそちらから顔を背けるなど、とにかく「逃げる」コマンドの連打連打である。情けない限りだ。店員は回転寿司でしなっしなに萎れたキュウリが回ってきてウケて写真撮るけど皿取らないくらいの温度で自分に手を振っているのだと、早く気づいてほしい。

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そんな道に生えている彼女たちだが、25日に通りかかると多くがサンタのコスプレ、というか換骨奪胎を身にまとっていた。
彼女たちはサンタの格好で(なくても)「サービス」という目に見えない贈り物をする。当然客からは「対価」を渡すけれど、「サービス」と「対価」を頭の中でイコールで結ぶのは簡単じゃない。もし自分が”ふれあいカフェ”を訪ねたら、この人はなんで優しくしてくれるんだろう?と内なる質問を投げた自分に、お金をもらえるからだよという内なる自己解決は届くことなく、単純に優しく接してくれることを尊んで誇張抜きに泣いてしまうかもしれないな。
と思いながら、道に生えている店員にわずかな会釈を繰り返していた。気色の悪い。

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想像力だけで勝手に落ち込んだまま家に帰り自室に入ると、そこには変わらぬ輝きを放つDell氏の姿があった。暗い顔を白と橙の点滅が彩る。Dell氏が元気なうちは、優しく接してやろうと思った。もちろん対価は求めるけどね。オードリーのオールナイトニッポン録音しておいてね。

そんな聖夜の話。

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